監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
先天性難聴の概要
先天性難聴とは、生まれつき「耳が聞こえない」あるいは「聞こえづらい」すなわち、聴覚に障害をもって生まれてきた人に対して診断される疾患です。先天性難聴は新生児の約1,000人に1人の割合でみられるとされ、症状の程度に差はあるものの、先天性疾患の中でも比較的よく知られた疾患です。
出典:国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「小児難聴」
先天性難聴の原因は「遺伝性」と「非遺伝性」の2つに大別され、遺伝性による先天性難聴が全体の約6〜7割を占めています。
非遺伝性の先天性難聴の主要な原因は、母体を介したウイルス感染です。また他に少数ながら出産時のトラブルや薬物の影響による場合もあります。
かつては乳幼児の難聴検査が技術的に難しく、発見が遅れるケースもありましたが、新生児聴覚スクリーニング検査の普及により、生後間もない段階であっても難聴の有無を検査できるようになりました。
新生児聴覚スクリーニング検査で異常があった場合はさらに詳しく検査をおこない、難聴の原因や程度に合わせ、早期の治療や療育支援につなげる対応が一般的です。
先天性難聴の原因
先天性難聴の原因は、「遺伝性」と「非遺伝性」に大別されます。
遺伝性の先天性難聴は遺伝子の突然変異が原因であり、その発症を予防することはまだ技術的に難しいものの、近年では原因となる遺伝子の解明と研究が進んでいます。
一方、非遺伝性の先天性難聴の原因としては、主にウイルスの母子感染によるものと、妊娠中や出産時のトラブル、薬物等の影響など、その他の理由によるものがあります。
ウイルスの母子感染では、胎児の母体である女性が妊娠中あるいは妊娠前から各種のウイルス(サイトメガロウイルスや風疹ウイルス、梅毒、やヘルペスウイルス、トキソプラズマなど)に感染し、胎児にも感染するケースが知られています。
出産時のトラブル(早産や胎盤の異常、低出生体重児など)も先天性難聴の一因となり得ます。
先天性難聴の原因は数多く、特定が難しいケースも少なくありません。さらに、患者にとっては原因の特定よりも「できるだけ早く治療や療育を受けられること」のほうが大切ですので、原因の特定は優先されない場合もあります。
先天性難聴の前兆や初期症状について
新生児が先天性難聴を罹患しているかどうかについて、初期症状を見だすことは難しいと言えます。難聴の症状が出ていても、新生児や幼児の段階にある患者自身は、適切な意思表示ができないからです。
したがって、周囲の大人が幼児の成長過程を見守る中で「周囲の音に反応しない・鈍感である」「言葉がうまく出ない・発達が遅れている」といった異変に気づくことが、検査のきっかけになる場合があります。
かつては3歳児検診など、ある程度子どもの成長が進んでから診断が下ることもまれではありませんでしたが、新生児聴覚スクリーニング検査の普及等により、新生児の段階での早期発見も可能になっています。
先天性難聴では、脳性麻痺、発達障害などの他の先天的な障害を併発しているケースもあります。それらの合併症が先に診断できた際には、先天性難聴の発症も疑われます。
先天性難聴の検査・診断
先天性難聴の検査として、第一に重要なものは新生児聴覚スクリーニング検査です。
新生児聴覚スクリーニング検査は、出生後数日以内に専用の機械を使っておこないます。内耳や脳からの反応を測定しますが、検査の所要時間は数分間で、新生児が眠っている間に実施できる安全性の高い検査です。
ただし、新生児聴覚スクリーニング検査の結果だけで先天性難聴の診断が下されるわけではありません。新生児聴覚スクリーニング検査の結果で先天性難聴の疑いがあれば、聴性脳幹反応検査や聴性定常反応などの、より精密な検査を受けることになります。
精密検査では、先天性難聴の確定診断のほか、難聴が片耳なのか両耳なのかの判定や、難聴の程度、原因部分の特定などもできる場合があります。
先天性難聴の検査がこのように早い段階で実施されている理由は、難聴に対する適切な治療や療育などの介入をなるべく早くおこなうためです。
先天性難聴の治療
先天性難聴の治療方針は、難聴の程度をはじめとしたさまざまな条件によって決定されます。補聴器の使用により治療する場合や、人工内耳を挿入する手術をおこなう場合などがあります。
先天性難聴の治療では、耳鼻咽喉科医・言語聴覚士・地域の療育施設が連携しながら、言語習得の療育などを含め、患者と保護者のサポートをおこないます。できるだけ早い時期から治療を開始することで、コミュニケーション能力や言語発達への影響を抑えることができると考えられています。
補聴器
子ども用の補聴器は、子どもの小さな耳や活発な動きにも対応できるよう、サイズや形状などに工夫が施されています。
しかし、患者は子どもであるゆえに、音量や使用感などを正確に伝えることが難しいという側面には、じゅうぶんな注意が必要です。
補聴器のフィッティングは、耳鼻咽喉科医や言語聴覚士などの専門家が付き添い、患者の様子をしっかりと観察したうえで、慎重におこなわれます。
人工内耳埋込術
高度難聴の場合などは、適応年齢を待って人工内耳埋込術が検討されます。
「人工内耳」は耳の奥へ埋め込む装置と、体外の音を拾って耳の中に埋め込んだ装置へ音を送るものから構成されています。
人工内耳の調整においても、補聴器と同様に耳鼻咽喉科医や言語聴覚士などの専門家のサポートが欠かせません。
先天性難聴になりやすい人・予防の方法
遺伝性の先天性難聴の発症を予防することは難しいものの、遺伝子検査などを事前におこなって、事前にリスクを把握できる可能性はあります。
非遺伝性の先天性難聴においても、その発症原因は多岐に及ぶため、明確な予防手段はありません。
ただし、先天性難聴の原因とされているウィルスの中には、予防接種などによって感染リスクを軽減できるものや、正しい知識と行動で感染を予防できるものが存在します。
妊娠中の女性、あるいはこれから妊娠を希望する女性本人、さらにそのパートナーや同居する家族も含め、原因ウイルスへの感染予防をおこなうことは、先天性難聴のリスクを抑える行動として有効だと言えるでしょう。
また、妊娠期間中の健康管理にはじゅうぶんに注意し、定期的な妊婦検診を受ける、不安があれば産科医に相談するなど、妊娠初期から出産まで、胎児と母体の健康維持に努めることが大切です。
関連する病気
- サイトメガロウイルス感染症
- 風疹
- 梅毒
- ヘルペス
- トキソプラズマ
参考文献