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監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
びまん性汎細気管支炎の概要
びまん性汎細気管支炎(Diffuse Panbronchiolitis, DPB)は、肺の中で「細気管支」と呼ばれる細い気道に慢性的な炎症が起こる病気です。この病気は呼吸器系の慢性的な疾患の一つであり、日本では1969年に初めて報告されました。DPBは当初、日本特有の病気と考えられていましたが、今では東アジア全体で広く知られており、国際的にも認知されています。主に40代から50代の中高年に発症することが多いですが、若年層や高齢者にも見られることがあります。この病気の症状は、長期間続く咳や痰、息苦しさ(呼吸困難)が特徴的です。特に、痰は一日に多量に出ることがあり、症状が重くなると生活の質に大きな影響を与えることがあります。DPBは進行すると肺機能が低下し、呼吸不全を引き起こす可能性があるため、早期診断と治療が重要です。
患者さんの多くは慢性副鼻腔炎(鼻の奥にある空洞が炎症を起こす病気)を併発しており、これにより鼻づまりや膿性鼻汁(膿が混じった粘り気のある鼻水)、嗅覚の低下などの症状が伴います。こうした複数の症状が同時に現れることが多いため、患者さんは日常生活での不快感を感じやすいのが特徴です。
びまん性汎細気管支炎の原因
びまん性汎細気管支炎の原因は未だ完全には解明されていません。しかし、遺伝的要因と環境因子の双方が関与していると考えられています。DPBは主に日本や東アジア地域に多く見られることから、人種特有の要因が関係しているとされています。具体的には、HLA-B54という遺伝子がこの病気の発症リスクを高める要因として挙げられています。HLA-B54を持つ人は、他の人と比べてDPBを発症するリスクが高いとされています。遺伝的要因に加えて、環境的な要因も関与していると考えられます。例えば、空気中の汚染物質やウイルス感染、長期にわたる喫煙などが引き金となり、症状が悪化することがあります。さらに、DPBは免疫系の異常反応が関与しているとされ、特に過剰な炎症反応が気管支に慢性的な炎症を引き起こす原因となることが示唆されています。この炎症は自己免疫疾患とは異なり、外因性要因と遺伝的要因が複雑に絡み合った結果であると考えられています。
びまん性汎細気管支炎の前兆や初期症状について
びまん性汎細気管支炎の初期症状は、特に長期間続く咳や痰の増加です。これらの症状は通常、数週間から数ヶ月続くことがあり、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、DPBの患者さんの多くは慢性副鼻腔炎を併発しているため、鼻づまりや膿性鼻汁(膿が混じった粘り気のある鼻水)が見られることも少なくありません。この鼻の症状は、嗅覚の低下や頭痛なども引き起こすことがあり、患者さんの生活の質に影響を与えます。息切れ(呼吸困難)も進行に伴って現れる症状で、特に運動時や体を動かすときに顕著になります。息切れは初期段階では軽度であることが多いですが、放置すると悪化し、日常的な活動でも呼吸が苦しくなることがあります。また、一部の患者さんでは微熱や全身の疲労感を訴えることもあり、これらの症状が長期間続くことで体力や意欲の低下につながることもあります。
DPBは初期症状が風邪やほかの呼吸器疾患と似ていることから、見過ごされることが多いため、症状が数週間以上続く場合は早めに呼吸器内科を受診することが重要です。
びまん性汎細気管支炎の検査・診断
びまん性汎細気管支炎の診断は、詳細な検査を通じて行われます。最初に行われるのは、胸部X線やCT検査です。これにより、肺全体に広がる小さな粒状の影(小結節)が見つかることが多く、気管支壁の肥厚や拡張も確認されます。CT検査は、X線検査よりも詳細な画像が得られるため、気管支の状態をより正確に評価することができます。次に、呼吸機能検査が行われます。これは、患者さんの肺の機能を評価し、閉塞性換気障害(気道が狭くなり、空気の通りが悪くなる状態)を確認します。呼吸機能検査では、息を吸ったり吐いたりする能力がどの程度保たれているかを測定し、肺活量や肺の働きを詳しく調べます。
さらに、血液検査も重要です。血液検査では、白血球数の増加やCRP(C反応性タンパク、体内の炎症の程度を示す物質)の上昇が見られることが多いです。これにより、体内で炎症が起きているかどうかを確認できます。また、痰の検査も行われ、肺の細菌を特定します。肺炎球菌やインフルエンザ菌が検出されることが多く、進行すると緑膿菌が見られることもあります。これらの検査結果を総合的に評価し、診断を確定します。
びまん性汎細気管支炎の治療
びまん性汎細気管支炎の治療は、症状の進行を抑え、生活の質を向上させることを目的としています。その基本は、マクロライド少量長期療法です。マクロライド系抗生物質(エリスロマイシンやクラリスロマイシンなど)は、抗炎症効果があり、長期間少量を使用することで気道の炎症を抑える効果があります。エリスロマイシンは特に、初期段階での治療として推奨される薬剤です。この薬は副作用が比較的少なく、長期にわたって使用することが可能です。クラリスロマイシンやロキシスロマイシンは、エリスロマイシンが無効な場合や効果が不十分な場合に使用されることがあります。
さらに、急性増悪(症状の急激な悪化)が見られる場合には、呼吸器の感染症対策として、レスピラトリーキノロン(呼吸器感染に有効な抗菌薬)やペニシリン系抗菌薬が使用されます。これらの抗菌薬は細菌の増殖を抑え、病状の安定化を図るために重要です。患者さんの状態によっては、去痰薬や気管支拡張薬も併用されることがあります。これらの薬剤は、気道の通りをよくし、たんを排出しやすくする効果があります。また、予防的な観点から、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されます。これにより、感染症による症状の悪化を防ぎ、病気の進行を抑えることが期待されます。
びまん性汎細気管支炎になりやすい人・予防の方法
びまん性汎細気管支炎は、日本や東アジア地域に住む人に多く見られます。この地域の人々は、遺伝的な要因によりこの病気を発症しやすいとされています。特にHLA-B54という遺伝子を持つ人は発症リスクが高いことが分かっています。発症のリスクを下げるためには、生活習慣の改善も重要です。禁煙は、最も基本的な予防策の一つです。たばこは気道に悪影響を及ぼし、病気の進行を早める可能性があります。さらに、日常的に適度な運動を行うことで、呼吸器の健康を保つことができます。ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、肺機能を維持し、病気の予防に役立ちます。
関連する病気
- 慢性副鼻腔炎
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
参考文献
- 日本呼吸器学会、咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019作成委員会編:咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019、メディカルレビュー社、2019.
- DPBの治療ガイドライン – 最終報告、厚生科学研究 特定疾患対策研究事業 びまん性肺疾患調査研究班 平成11年度報告書.
- 日本呼吸器学会「呼吸器の病気 びまん性汎細気管支炎」