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監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
肺挫傷の概要
肺挫傷とは、胸部に強い衝撃が加わることで肺の組織が損傷し、肺に出血や浮腫が生じる状態です。この状態は、肺が酸素を効率よく吸収できなくなるため、血中酸素レベルが低下します。肺挫傷は、交通事故や高所からの落下、接触の激しいスポーツなどで発生し、場合によっては生命に危険を及ぼすこともあります。特に広範囲にわたる損傷では、ガス交換(酸素を取り込み二酸化炭素を排出する肺の機能)が著しく低下し、全身の臓器が十分な酸素を受け取れなくなります。肺挫傷は、ほかの胸部外傷と一緒に起こることがよくあります。例えば、肋骨骨折や気胸(肺が潰れて空気が胸腔内に漏れる状態)と共に発生することがあり、診断や治療が複雑になります。
さらに、肺挫傷が回復する過程で、肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの合併症が起こるリスクもあります。ARDSは肺がひどく傷ついたときに発生し、重度の呼吸不全を引き起こします。これらの合併症は迅速な治療を必要とし、早期に診断することが患者さんの予後を改善する鍵です。医学的には、肺胞毛細血管構造の破壊が肺挫傷の本質とされています。つまり、肺内の細かい血管が損傷し、そこから血液が漏れ出して肺の中に広がります。これにより、肺内に液体がたまり、正常な呼吸が難しくなります。肺挫傷の発生メカニズムは複雑であり、外力の種類や角度、衝撃の強さによって症状の程度が変わります。
肺挫傷の原因
肺挫傷は胸部に強い外力が加わることで発生しますが、その状況はさまざまです。以下に、代表的な原因を説明します。
主な原因
- 交通事故:車両の衝突や急停車時に胸部がハンドルやエアバッグに強く当たることで肺挫傷が起こることがあります。特に高速度での衝突は大きな力を胸部に与えるため、肺を含む内部組織の損傷を引き起こします。
- 高所からの転落:建設現場や家庭での作業中に高い場所から転落することで、胸部に強い衝撃が加わり、肺挫傷が発生することがあります。これにより、胸部全体に圧力がかかり、肺の細かな血管や組織が損傷します。
- スポーツ中の事故:ラグビーやアメリカンフットボール、格闘技などの接触が激しいスポーツでは、選手同士の衝突や転倒で胸部が圧迫され、肺挫傷が生じることがあります。これに伴い、肋骨骨折や気胸を併発することも多く見られます。
- 産業事故:重機や機械による圧迫や接触により、胸部に強い外力が加わる場合も肺挫傷が発生します。特に工事現場や工場などの危険な作業環境では、事故防止策を徹底することが重要です。
これらの原因はすべて、外力が胸部に直接加わり肺の血管や組織が破れることで発生します。肺の組織が損傷することで、内部の出血や浮腫が起こり、呼吸機能が損なわれます。損傷が広範囲に及ぶと、肺自体が酸素を適切に取り込めなくなり、血液中の酸素濃度が急激に低下することがあります。
肺挫傷の前兆や初期症状について
肺挫傷の初期症状は多様で、外傷を受けた直後には目立った症状が現れないこともあります。数時間から1日程度経過してから症状が現れることもあります。
主な症状
- 胸の痛み:胸壁(肋骨や胸の筋肉)が損傷している場合、呼吸や咳をするたびに痛みを感じることがあります。痛みは外傷部位の圧迫や刺激によって増強します。
- 息切れ:肺が損傷すると酸素を吸収しにくくなり、呼吸が浅くなります。結果として息苦しさや呼吸困難が生じることがあります。
- 血痰:肺内の出血により、咳をした際に血液が混じった痰が出ることがあります。これは肺が内部で損傷していることを示すサインです。
- 皮膚や唇の青紫色(チアノーゼ):体内の酸素不足が進行すると、血液中の酸素濃度が低下し、皮膚や唇が青紫色に変色します。これは深刻な酸素不足を示す症状です。
肺挫傷が疑われる場合、呼吸器外科や救急科の受診が推奨されます。緊急性が高い場合は、救急車を呼ぶことも検討してください。受傷後に症状が軽度でも、時間が経ってから悪化する可能性があるため、早めの診察が重要です。
肺挫傷の検査・診断
肺挫傷の診断は、以下のような検査方法を用いて行います。
主な検査方法
- 胸部X線検査:最も一般的な診断方法です。肺挫傷がある場合、肺にスリガラス状の影が映ることがあります。ただし、受傷直後は影がはっきりと映らないこともあるため、何度か時間をおいてX線検査を行うことがあります。
- CTスキャン:より詳細な画像を得るために行われます。CTスキャンは肺の内部構造を詳細に確認でき、損傷の範囲や合併症(例:気胸や血胸)の有無を評価するのに役立ちます。
- パルスオキシメトリー(酸素飽和度測定):指先に装置を装着し、血液中の酸素量を測定します。この方法は非侵襲的で簡単に実施でき、肺の酸素吸収能力を評価するための指標として役立ちます。
- 血液ガス分析:採血を行い、血中の酸素や二酸化炭素の濃度を測定します。これにより、ガス交換機能の程度や肺機能の状態を詳細に把握できます。
肺挫傷は診断が難しいこともあり、外見上は元気に見える場合でも内部で損傷が進んでいることがあります。初期段階で診断を確定するためには、検査や経過観察が必要です。
肺挫傷の治療
肺挫傷の治療は、症状の重さや患者の全体的な健康状態によって異なります。
治療方法
- 鎮痛薬の使用:痛みを和らげて呼吸を楽にするために、鎮痛薬が処方されます。経口薬や注射による投与が一般的です。
- 酸素療法:酸素をマスクや鼻カニューラで供給し、血中の酸素レベルを維持します。軽度の肺挫傷では酸素療法だけで回復することがあります。
- 人工呼吸器の使用:重度の肺挫傷では人工呼吸器が使用されることがあります。これにより、損傷した肺が回復するまで酸素供給が安定します。
- ステロイド療法:肺の炎症を抑えるためにステロイドが使われることもあります。これにより肺の腫れが軽減され、呼吸機能の改善が期待できます。
- 分離肺換気:一部の重症例では、片方の肺を休ませる治療法が行われます。これにより、損傷した肺を回復させ、正常な肺への負担を軽減します。
治療の進行中は、医師が患者さんの酸素濃度や肺機能を定期的に監視し、適切な治療計画を調整します。回復には数日から数週間かかることが多く、重症例ではリハビリや長期入院が必要なこともあります。
肺挫傷になりやすい人・予防の方法
肺挫傷は誰にでも起こり得ますが、特定の状況下ではリスクが高くなります。
リスクが高い人
- 接触スポーツを行う人:ラグビーやアメリカンフットボールなどの激しい接触を伴うスポーツに参加する人。
- 高所作業を行う人:建設現場などの高所作業では、転落事故のリスクが高まり、胸部外傷を引き起こす可能性があります。
- 交通事故のリスクが高い人:頻繁に車を運転する人やシートベルトを着用しない人は、事故時に胸部への強い打撃を受けやすくなります。
予防方法
- 安全運転の徹底:シートベルトを常に正しく装着し、交通規則を守ることで、交通事故による胸部損傷を予防できます。
- スポーツ用の防具の使用:胸部を保護する防具を使用し、衝撃を緩和します。特に接触プレーが多いスポーツでは、防具が有効です。
- 作業場での安全対策:高所作業中は必ず安全装置を使用し、適切な管理を行うことで事故防止につながります。
- 定期的な健康診断:胸部や呼吸器系の健康状態を定期的に確認し、異常がないかをチェックすることが大切です。
関連する病気
- 肺水
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)