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監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
悪性胸膜中皮腫の概要
人間の胸部にある肺や心臓、腹部の胃腸、肝臓といった臓器は、部位ごとに胸膜、心膜、腹膜と呼ばれる膜で包まれています。
これらの膜の表面を覆っているものを「中皮」と呼び、この中皮にて発生した腫瘍のことを「中皮腫」と言います。
したがって、悪性胸膜中皮腫とは、胸膜に発生した悪性の腫瘍、という意味です。
悪性中皮腫の割合としては、胸膜に発生するものが全体の80%〜85%、腹膜が10%〜15%、それ以外の部位での発生は1%以下とされています。
正常な胸膜の厚さは食品用ラップ程度ですが、がん化した部位は数mm以上の厚みを持ちます。
悪性胸膜中皮腫はその組織型によって「上皮様」「肉腫様」、さらにその2タイプの混合型である「二相性」の3タイプに分類され、タイプごとに悪性度が異なり、治療方針にも影響します。
このうち、割合が多い上皮様が全体の60%ほどであり、一般的にこの型は他の組織型と比べて予後が良いとされています。
中皮腫の進行に関しては、発生した部位やその隣り合う部位に広がっていく「浸潤」と呼ばれる経過を見せ、離れた場所の臓器に転移することは稀であるとされています。
しかし、発見時にはすでに広範囲に進展していることが多く、根治が難しいがんの一種です。
2010年以前では、1年生存率が50%、2年生存率が20%とその予後は芳しくありませんでしたが、近年、治療方法の進歩により、徐々に治る病気になりつつあるとの見方も出ています。
悪性胸膜中皮腫の原因
悪性胸膜中皮腫は稀な腫瘍ですが、アスベスト(石綿)が主因のひとつとされています。
アスベストとは鉱物の一種であり、石でありながら綿のような性質を持ち、耐火性、断熱性、絶縁性に優れることから建築用の資材として多用されていました。
しかし、このアスベストを吸入すると悪性胸膜中皮腫や肺がんなどの健康被害を引き起こすことが知られており、現在は使用が禁止されています。
アスベストに長期間曝露され続けることで、排泄が追い付かずに肺や胸膜に細かい繊維が蓄積され、人体にダメージを与え続けてやがて細胞ががん化すると考えられています。
実際に健康被害が出るのはアスベストに曝露してから15年〜40年くらい経ってからと言われており、アスベストを扱う環境に長くいた人は自身の健康状態に注意しておく必要があると言えるでしょう。
悪性胸膜中皮腫の前兆や初期症状について
悪性胸膜中皮腫は初期の段階では無症状であることも多いですが、進行すると胸に水が溜まるようになり、胸や背中の痛み、咳、息苦しさ、呼吸困難、発熱といった症状が見られるようになります。
このほか、腫瘍の位置によっては上腹部の痛み、肩の痛みが現れる場合もあります。
これらの症状に心当たりがある場合は、呼吸器内科または呼吸器外科を受診してください。
その際、アスベストへの曝露歴が考えられる場合はその旨も医師に伝えるようにしてください。
悪性胸膜中皮腫の検査・診断
胸の痛みや息苦しさと言った症状が見られる場合は、まず胸部X線検査を行うことが一般的です。胸部X線検査で異常が見られた際は、自覚症状の有無やアスベストへの曝露歴に対する問診が行われます。
続いて行われる検査が胸部CT検査です。
CTで胸に水が溜まっている、胸膜が厚くなっている、胸膜に腫瘍が見られる、などの異常が見られ、悪性胸膜中皮腫が疑われる場合は、組織の一部を採取して病理診断が行われます。
悪性胸膜中皮腫の確定診断には、胸膜の細胞を採取して調べる胸膜生検を行なって確実な組織診断をつけることが望ましいです。また、胸水が貯留している場合には、胸水を採取してがん細胞が含まれていないか、ヒアルロン酸値を参考値として確認することもあります。
これらの生検で悪性胸膜中皮腫の確定診断が下され、概要欄でも紹介した上皮様、肉腫様、二相性のどれに当てはまるかを調べ、その後の治療方針へとつながります。
悪性胸膜中皮腫の治療
悪性胸膜中皮腫に対する治療は、外科治療、薬物治療、放射線治療、緩和ケアといった方法が取られます。症状の進み具合や組織型、または患者さんの体力などによってどの治療方法を選択するかが変わってきます。
外科治療は、胸膜のみを切除する場合と、胸膜と肺をまとめて切除する方法があります。
外科治療が適用されるのはおもに上皮様が多いです。
胸膜の肥厚や多数の肉腫が見られる場合など、外科治療が適さないケースでは薬物治療が主な候補となります。薬物治療では複数の抗がん剤を組み合わせた治療が標準的な方法として用いられています。
現在では、殺細胞性抗がん剤のほか、免疫チェックポイント阻害薬の併用療法なども使用されております。
このほか、痛みや息苦しさに対して苦痛を和らげる緩和治療も行います。現在においては、終末期に限らず早期から緩和ケアが提供されています。
救済制度について
悪性胸膜中皮腫を発症した患者さんには、労災保険制度および石綿救済制度という2種類の救済制度があります。
労災保険制度は、仕事でアスベストにさらされ、それが原因で悪性胸膜中皮腫を発症した患者さんが受けられる救済制度です。病気による療養、休業、または死亡した際に、本人および家族が労災保険の給付を受けることができます。救済を受けるには、悪性胸膜中皮腫の原因が仕事によるものであるとの認定が必要となりますので、制度の適用をお考えの方は最寄りの労働基準監督署または都道府県労働局へお問い合わせください。
石綿救済制度は、アスベストによる健康被害を受けた方およびその遺族の方のうち、上記の労災保険の対象外である人が対象の救済制度です。
こちらは最寄りの保健所、地方環境事務所へ申請請求を行う必要があります。
保証の範囲や制度の詳細、申請方法などについて詳しく知りたい場合は、主治医やがん相談支援センターに問い合わせてみるとよいでしょう。
悪性胸膜中皮腫になりやすい人・予防の方法
これまで述べてきたように、悪性胸膜中皮腫の主な原因はアスベストへの曝露です。
したがって、アスベストを取り扱う職業に従事していた、あるいはアスベストを扱う職場の近くに住んでいた人は、そうでない人と比べて発症の危険性が高いと言えます。
アスベストに曝露後、数十年経過してから悪性胸膜中皮腫を発症すると考えられていることから、アスベストを扱う職業に従事している人は6ヶ月おきに健康診断を受ける義務があります。アスベストに曝露する可能性が高かった職業として、建設解体業、港湾労働、電気配線に関わる職業の方、またこれらの作業所の近くに住んでいた、あるいは近くで働いていた方などが考えられます。
潜伏期間が長いことから、離職後も定期的に健康診断を受け、自身の健康状態を管理することが勧められています。
関連する病気
- アスベスト曝露
- 肺癌
- 胸膜プラーク