監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
外リンパ瘻の概要
外リンパ瘻(がいりんぱろう)は何らかの原因によって、内耳からリンパ液が漏れ出し、内耳の機能が低下する疾患です。
内耳は耳の最も奥にある器官で、主に音を感じ取る「蝸牛」と、体のバランスを司る「半規管」にわかれます。
蝸牛は円のような形になっており、上下側に「外リンパ」、内側に「内リンパ」というリンパ液がそれぞれ膜のなかで満たされています。
外から耳に音が入ったとき、リンパ液は波を生じさせて電気信号に変えることで脳に伝える役割を持ちます。
体が動いたときは、リンパ液が流れの速度や方向を半規管に示し、半規管がその情報をもとに体全体のバランスを調節します。
しかし、外傷や奇形などの影響で「卵円窓(前庭窓)」という内耳と中耳をつなぐ部分などに穴が空く(瘻孔)と、外リンパが中耳に漏れ出します。
外リンパが漏れると蝸牛や半規管が正常に機能しなくなり、難聴やめまい、耳鳴りなどの症状が出現します。
外リンパ瘻の特徴的な症状として、感音性の難聴や水の流れるような耳鳴りなどが挙げられますが、症状の程度には個人差があります。
ほかの耳の疾患と症状が似ていて鑑別が難しいですが、近年では外リンパの特異的蛋白を調べるCTP(cochlin-tomoprotein)検査が開発され、確定診断に用いられています。
治療には保存的治療と手術療法があり、症状の程度に応じて適切な方法が選択されます。
外リンパ瘻は放っておくと症状が悪化する可能性があるため、疑わしい症状がある場合はできるだけ早く耳鼻咽喉科で治療を受けることが大切です。
外リンパ瘻の原因
外リンパ瘻は外傷や疾患、耳や頭蓋内への圧力負荷などで発症します。
発症の原因がわからないこともあります。
外傷や疾患など
耳かきで誤って中耳を傷つけたときに起こるアブミ骨骨折や、交通事故などの頭部外傷、全身の打撲などの外傷が原因になることがあります。
疾患では真珠腫や腫瘍などによる中耳や内耳の病気、先天性の内耳奇形などが原因となり、外リンパ瘻を引き起こします。
医療行為における中耳や内耳の手術や処置でも、誤って瘻孔ができることがあります。
耳や頭蓋内への圧力負荷
ダイビングや飛行機搭乗などの外因性の圧力や、くしゃみや重量物の運搬、過度な力みなどの内因性の圧力も外リンパ瘻の原因になります。
中耳圧や脳脊髄圧が上昇して膜が破れ、外リンパが漏れ出すことによって生じます。
外リンパ瘻の前兆や初期症状について
外リンパ瘻の初期症状として、難聴(感音性難聴)や耳鳴り、めまい、体のふらつきなどが現れることがあります。
症状は徐々に進行したり、変動したりするケースが多いです。
耳鳴りは「シャーシャー」といった水の流れるような音が生じることが特徴です。
その他には耳閉感(耳が詰まる感覚)や頭重感、ふらつきによる歩行障害が起こることがあります。
症状の程度は個人差が大きく軽度から重度までさまざまで、症状が単独で起こることもあれば、複数現れることもあります。
難聴やめまい、体のふらつきなどの症状は適切な治療を受けなければ、後遺症として残る可能性があります。
外リンパ瘻の検査・診断
外リンパ瘻が疑われるときは、純音聴力検査や頭位眼振検査、画像検査などの検査をおこないます。
その後、内視鏡検査やCTP検査によって、瘻孔や外リンパの特異的蛋白が確認できれば確定診断になります。
純音聴力検査
純音聴力検査は防音室でヘッドホンを装着し、さまざまな周波数と音量の音を聞いて、聞こえの程度を調べる検査です。
外リンパ瘻では、感音性難聴が認められます。
頭位眼振検査
頭位眼振検査は、頭の位置を変えた時にめまいや眼振が生じるか確かめる検査です。外リンパ瘻では障害側の眼球に症状がでることがあります。
眼振は指で耳の穴を圧迫したときに強まるのも特徴です。
画像検査
画像検査ではX線を使用して体の断層像を撮影するCT検査をおこない、耳側の頭蓋骨である側頭骨や、中耳や内耳の骨の骨折などを確かめます。
内耳に泡が生じる迷路気腫が発見された場合は、外リンパ瘻の可能性がより高くなります。
内視鏡検査
鼓膜を切開したうえで内視鏡を挿入し、中耳の状態を確認します。
外リンパ瘻では卵円窓(前庭窓)などの瘻孔や、瘻孔から外リンパや髄液が漏れる所見が認められます。
CTP検査
CTP検査は、外リンパの特異的蛋白を調べる検査です。
鼓膜を切開した後に中耳を生理食塩水で洗浄し、洗浄した液からCTPが検出されるか調べます。
CTPが検出された場合は、外リンパ瘻の確定診断になります。
外リンパ瘻の治療
外リンパ瘻の治療では、瘻孔が自然に閉鎖する可能性がある場合、保存療法が適用されます。
保存療法で十分な効果が得られない場合や、症状が悪化する場合、再発を繰り返す場合などは手術療法が検討されます。
保存療法
保存療法では、脳脊髄圧を下げるために、仰向けで頭を30度ほど挙げた状態で安静にします。
炎症を抑えるためにステロイド薬も投与し、瘻孔が自然閉鎖するのを待ちます。
手術療法
手術療法では瘻孔閉鎖術や内耳窓閉鎖術が選択されます。
どちらの手術も、耳の周りから採取した筋膜や軟骨膜などを使用して瘻孔がある部分を閉鎖します。
外リンパ瘻になりやすい人・予防の方法
外リンパ瘻は中耳圧や脳脊髄圧に影響するダイビングやプールなどの水中に潜るスポーツ、飛行機の搭乗を頻繁にする人に起こりやすいです。
鼻を強くかんだり、排便のためにトイレでいきんだりすることでも発症しやすくなります。
外リンパ瘻の予防のためには、日常生活で耳に大きな圧力を加えないことが大切です。
水中で長時間潜って息を止めたり、重い荷物を抱える場面やトイレの排泄で必要以上にいきんだりすることは控えましょう。
難聴や耳鳴りなどにより外リンパ瘻の発症が疑われる場合は、症状の悪化を防ぐためにできるだけ早く耳鼻咽喉科に受診することも大切です。
関連する病気
- 頭部外傷
- 半規管裂隙症候群
- 内耳振盪症
- 外傷性遅発性内リンパ水腫
- 外傷性良性発作性頭位めまい症
参考文献