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ウイルス性肺炎
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

ウイルス性肺炎の概要

ウイルス性肺炎は、ウイルスが原因で起こる肺の感染症です。肺の重要な部分である肺胞に炎症が起こり、呼吸の機能が障害されます。
毎年、世界中で約2億人がウイルス性肺炎を発症しており、その内訳は子供と大人でそれぞれ約1億人ずつです。診断技術の進歩によりウイルス性肺炎の実態解明が進み、これまで過小評価されてきた(思ったよりウイルス性肺炎の患者さんは多かった)ことが明らかになってきました。

ウイルス性肺炎の原因

ウイルス性肺炎を引き起こすウイルスはさまざまですが、主なものは以下のとおりです。

子供に多いウイルス

  • RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus):乳幼児の気管支炎肺炎の最も一般的な原因ウイルスです。
  • パラインフルエンザウイルス:RSウイルスと同様に、乳幼児の気管支炎肺炎の原因となります。
  • インフルエンザウイルス:いわゆる「インフルエンザ」の原因ウイルスで、肺炎を引き起こすこともあります。
  • ライノウイルス:風邪の原因ウイルスとして知られていますが、肺炎を引き起こすこともあります。
  • ボカウイルス:近年発見されたウイルスで、RSウイルスと似た症状を引き起こします。
  • ヒトメタニューモウイルス:RSウイルスに似た症状を引き起こし、特に乳幼児や高齢者に感染しやすいです。
  • アデノウイルス:様々な症状を引き起こすウイルスで、肺炎の原因となることもあります。

大人に多いウイルス

  • インフルエンザウイルス:子供と同様に、肺炎の重要な原因ウイルスです。
  • RSウイルス:高齢者では、肺炎などの重症化リスクが高まります。
  • ヒトメタニューモウイルス
  • アデノウイルス
  • ライノウイルス

その他のウイルス

  • コクサッキーウイルス
  • エコーウイルス
  • コロナウイルス:重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルスです。
  • ハンタウイルス
  • エプスタイン・バーウイルス
  • サイトメガロウイルス
  • 単純ヘルペスウイルス
  • ヒトヘルペスウイルス6
  • 水痘・帯状疱疹ウイルス

ウイルス性肺炎の前兆や初期症状について

ウイルス性肺炎の初期症状は風邪と似ており、以下のようなものがあります。

  • 咳:最初は乾いた咳であることが多いですが、しだいに痰が出るようになります。
  • 発熱:38度以上になることもあります。
  • 鼻水
  • 喉の痛み
  • 倦怠感
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 関節痛

肺炎が進行すると、以下の様な症状が現れることがあります。

  • 呼吸困難:ひどくなると安静時にも息苦しさを感じるようになります。
  • 胸痛:呼吸をする時や咳をする時に、胸に痛みを感じます。
  • 痰:黄色や緑色など、色のついた痰が出るようになります。
  • チアノーゼ:唇や爪が青紫色になります。
  • 頻呼吸:呼吸が速くなります。
  • 呼吸補助筋の使用:呼吸をする際に、首や肩の筋肉を使うようになります。
  • 胸骨陥没:息を吸う時に、胸骨がへこむようになります。
  • 鼻翼呼吸:鼻の穴を大きく広げて呼吸をするようになります。

上記の症状が現れた場合は、内科または呼吸器内科アレルギー科を受診しましょう。とくに呼吸困難や胸痛がある場合は、早急に医療機関を受診することが重要です。

ウイルス性肺炎の検査・診断

ウイルス性肺炎の診断には、以下の問診・診察・検査を行います。

問診

症状の進み具合やどれぐらいひどいか、既往歴(感染症になりやすい特別な病気がないか)、渡航歴(特殊な感染症が流行している地域ではないか)、家族歴(同じような症状のひとが周りにいないか)などを詳しく聞き取ります。

身体診察

聴診器で肺の音を聞いたり、胸郭の動きなどを確認したりします。また特殊な病気に関連した身体所見(例:皮膚の症状など)がないかについても評価します。

検査

  • 血液検査:白血球数やCRPなどの炎症反応を調べます。
  • 胸部レントゲン検査:肺の炎症の程度や範囲を確認します。
  • 胸部CT検査:胸部レントゲン検査よりも詳細に肺の状態を把握できます。
  • 喀痰検査:痰を採取して、顕微鏡で観察したり、培養して原因となるウイルスを特定します。
  • 気管支鏡検査:細い管を気管支に挿入して、肺の状態を直接観察したり、組織を採取して検査します。
  • 抗原検査:鼻咽頭ぬぐい液や喀痰などを用いて、特定のウイルス抗原を検出します。
  • 遺伝子検査(PCR検査):鼻咽頭ぬぐい液や喀痰などを用いて、ウイルスの遺伝子を検出します。

ウイルス性肺炎の治療

ウイルス性肺炎の治療は、原因ウイルス、症状の程度、患者さんの状態などを考慮して決定します。

  • 安静:十分な休息は回復のために不可欠です。
  • 水分補給:脱水を防ぐために、こまめな水分摂取が重要です。
  • 解熱鎮痛剤:発熱や頭痛、筋肉痛などを和らげます。
  • 咳止め薬:症状に応じて処方されることがあります。
  • 酸素吸入:呼吸困難があり酸素が足りない場合に必要となります。
  • 人工呼吸器:呼吸不全が重症化した場合に用いられます。
  • 抗ウイルス薬:インフルエンザウイルスなど特定のウイルスに対して有効な薬剤があります。ノイラミニダーゼ阻害薬はインフルエンザウイルスによる肺炎に有効です。

ウイルス性肺炎になりやすい人・予防の方法

ウイルス性肺炎は誰でもかかる可能性がありますが、とくに以下の様な人は注意が必要です。

  • 乳幼児:免疫力が未熟なため、ウイルスに感染しやすく、重症化しやすいです。
  • 高齢者:免疫力が低下しているため、ウイルスに感染しやすく、重症化しやすいです。
  • 基礎疾患がある人:糖尿病心臓病呼吸器疾患腎臓病などの基礎疾患がある人は、重症化しやすいです。
  • 免疫抑制剤や抗がん剤を使用している人:免疫力が低下しているため、ウイルスに感染しやすく、重症化しやすいです。

ウイルス性肺炎を予防するためには、以下のような方法があります。

  • 手洗い:ウイルスは手などを介して感染することが多いため、外出先から帰った時や食事の前など、こまめな手洗いを心がけましょう。
  • うがい:口の中にウイルスが付着しているのを防ぐために、うがいをしましょう。
  • マスクの着用:咳やくしゃみによって飛散するウイルスを吸い込まないように、マスクを着用しましょう。特に、人混みに行く時や、咳やくしゃみをしている人の近くにいる時は、マスクの着用が有効です。
  • 予防接種:インフルエンザウイルスなど、一部のウイルスに対しては予防接種があります。予防接種を受けることで、感染のリスクを減らすことができます。
  • 十分な睡眠とバランスの取れた食事:十分な睡眠をとり、バランスの取れた食事を摂ることで、免疫力を高めることができます。
  • 適度な運動:適度な運動をすることで、免疫力を高めることができます。
  • 禁煙:喫煙は免疫力を低下させるため、禁煙することが大切です。
  • 人混みを避ける:特に、流行期には人混みを避けるようにしましょう。
  • 室内の湿度を保つ:乾燥した空気は、ウイルスの活動を活発化させるため、室内の湿度を50%〜60%に保つようにしましょう。加湿器を使用したり、濡れたタオルを室内に干すなどの方法があります。

ウイルス性肺炎は適切な治療を行えば、多くは治癒する病気です。しかし、重症化すると命に関わることもあるため、早期診断と適切な治療が重要です。


関連する病気

参考文献

  • Ruuskanen O, Lahti E, Jennings LC, Murdoch DR. Viral pneumonia. Lancet. 2011;377(9773):1264-1275.
  • Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles & Practice of Infectious Diseases, 9th ed

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