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騒音性難聴
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

騒音性難聴の概要

騒音性難聴は大きな音に長期間さらされることによって聴力が低下する疾患です。

内耳の蝸牛(かぎゅう)という組織にある有毛細胞(ゆうもうさいぼう)が損傷することで、聴力障害をきたします。

一度傷付いた有毛細胞は再生が難しいため、失われた聴力を回復させることは困難だといわれています。

騒音性難聴は、工場や工事現場、空港や地下鉄のような非常に大きな音にさらされる場所で働く人などが発症しやすい傾向があります。

初期段階では限定された音域のみの聴力が障害されるため、日常会話の聞き取りには影響がないケースも少なくありません。

しかし長期間大きな音にさらされ続けることで、次第に障害される音域が広くなり、日常会話の聞き取りにも支障が出始めます。

現段階では騒音性難聴に対する有効な治療法は確立されていません。そのため、大きな音を聞いた後は耳を休ませたり耳栓を使用したりして、できるだけ耳を守ることが重要です。

騒音性難聴

騒音性難聴の原因

騒音性難聴の原因は、長期間大きな音にさらされ続けることで、有毛細胞が損傷することです。

具体的には85デシベル以上の音に長い間さらされ続けると、有毛細胞が徐々に損傷されると言われています。
出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)について」

85デシベルとは間近で聞く救急車のサイレン程度の音量で、聞き続ける時間は1日8時間を超えないことが推奨されています。

音が大きくなるにつれて許容される時間は短くなり、100デシベル(電車のガード下や地下鉄車内の騒音程度)の音は、15分程度が限界とされています。

現在の医療では、一度障害を受けた有毛細胞の再生は難しいとされているため、大きな音に曝露されたあとは定期的に耳を休ませなければなりません。

騒音が発生する環境におかれる場合は、遮音性の高い耳栓やヘッドフォンを使用することも有効です。

騒音性難聴の前兆や初期症状について

騒音性難聴の症状として現れやすいのは耳閉感(耳が詰まった感じ)です。

症状の進行はゆっくりで、初期段階では4,000ヘルツ付近の音域のみが障害されるため、日常会話の聞き取りには支障が出にくく、気付かない間に病状が悪化することがあります。

さらに症状が進行すると障害される音域が2,000〜8,000ヘルツまで広がり、話し声の聞き取りにも影響が出ます。
出典:日本聴力保護研究会「騒音性難聴とは」

また、耳鳴りを併発することもあり「キーン」や「ジー」のような音で現れることがあります。

症状の現れ方や程度は曝露される音の大きさや時間などによって異なり、同じような騒音環境にいても、個人差があります。

有毛細胞の損傷が重症化する前であれば、耳を休ませることで聴力が回復する場合もあるため、定期的な休息が重要です。

騒音性難聴の検査・診断

騒音性難聴の検査では、オージオメーターを用いた選別聴力検査をおこなうことが一般的です。

選別聴力検査では、低音域である1,000ヘルツの音と、高音域である4,000ヘルツの音を鳴らし、それらの音に対する聴力を調べます。

騒音性難聴の特徴として4,000ヘルツ付近の聴力から低下し始めるため、検査結果ではこの周波数帯に限定した聴力低下が認められるC5ディップという聴力図を示します。

聴力検査とあわせて、医師による問診で、仕事の作業環境や騒音の曝露歴、既往歴や症状の経過などについて確認します。

騒音性難聴の治療

現在、騒音性難聴に対する有効な治療方法は確立されていません。

有毛細胞が不可逆的な障害を受ける前の段階であれば、こまめに耳を休ませることで聴力が回復することもあります。

耳閉感や耳鳴りなどの症状が現れた際は、休息したり耳栓を使用したりして騒音から耳を守り、定期的に休息を設けるようにしましょう。

騒音性難聴は治療が難しい疾患であり、これらの治療をおこなっても聴力が回復しないこともあります。

症状に気がついた際には、耳を休ませて早めに受診することが重要です。

騒音性難聴になりやすい人・予防の方法

騒音性難聴は、工場作業​​員や建設作業員、航空機整備士や鉄道関係者など、日常的に大きな音にさらされる環境で働いている人がなりやすいです。

予防方法としては、遮音性の高い耳栓を使用することや騒音環境での連続的な作業を避けること、定期的に耳を休ませること、規則正しく十分な睡眠をとることなどが挙げられます。

また、騒音作業に従事している人は、労働安全衛生法に基づいて6カ月ごとに1回の頻度で聴力検査を受けることが義務付けられています。

騒音作業をともなう仕事に就く前は、選別聴力検査を含む就業前健康診断も受ける必要があります。

健康診断の結果、聴力低下が認められた場合は騒音作業時間の短縮や配置転換など、状況に応じた措置に従う必要があります。

定められた健康診断は必ず受けて、耳閉感や耳鳴りなどを感じた場合は早めに耳鼻科を受診しましょう。


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