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鼻せつ
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

鼻せつの概要

鼻せつとは、鼻の入り口にある毛穴に赤みや腫れ、痛みなどを伴う感染症のことです。
鼻せつでみられる症状は「ピエロのよう」と表現されることもあり、とくに鼻先が赤く腫れあがります。

「癤(せつ)」はいわゆる「おでき」のことで、細菌感染によって毛包に炎症をきたし、部分的に赤みや痛み、腫れなどを認める状態です。このような状態が長期間に渡って繰り返されたり、複数箇所に生じたりするものは「癤腫症」と呼ばれ、さらに重症化して複数の毛包に炎症を伴うものは「癰(よう)」と呼ばれます。

鼻せつの原因になるのは主に「黄色ブドウ球菌」と呼ばれる細菌です。近年では、せつと黄色ブドウ球菌が産生する「Panton-Valentine Leucocidin(PVL)」という毒素が関連していることが明らかになってきました。
PVLは患部の細胞を壊し、その周囲に壊死を起こすことがあります。そのため、PVLの産生された部位では膿を持った膿瘍ができ、赤く腫れて痛みを伴います。

黄色ブドウ球菌自体はありふれた細菌であり、健康な人の鼻粘膜からも検出されます。しかし、黄色ブドウ球菌でもPVLを産生するものは鼻せつの原因になることもあるため、注意が必要です。

鼻せつを認める場合には、抗菌薬を用いた薬物療法が行われるほか、状態によっては患部を切開し、膿を排出する処置が行われることもあります。

鼻せつ

鼻せつの原因

鼻をいじったり、鼻をつよくかんだりすることで、鼻の穴の入り口に小さな傷ができてしまうことがあります。その傷から細菌が侵入することで鼻せつが生じます。

鼻せつの原因となるのは主に黄色ブドウ球菌と呼ばれる細菌です。黄色ブドウ球菌は人間の皮膚や粘膜に生息する細菌で、健康な人の鼻粘膜からも検出されます。
黄色ブドウ球菌は49種類存在し、中にはPVLを産生し鼻せつを引き起こすもの(PVL産生黄色ブドウ球菌)もあります。

特に家族内でPVL産生黄色ブドウ球菌を保菌する人がいる場合には、同居する家族に感染させ、鼻せつを発症させてしまう恐れがあります。

出典:日本細菌学会「黄色ブドウ球菌」

鼻せつの前兆や初期症状について

鼻せつの前兆として、鼻前庭炎(びぜんていえん)を発症していることがあります。

鼻前庭炎とは鼻せつと同様に、鼻の穴の入り口に細菌が入り、鼻の赤みや腫れなどの炎症が生じた状態のことです。このような炎症にくわえて「せつ(おでき)」ができた状態のことを「鼻せつ」と呼びます。

鼻せつの発症初期には、患部に赤く盛り上がった小さな発疹や膿を持った膿疱ができます。発疹や膿疱は次第に硬くなり、赤みや熱感、痛みが強くなる傾向にあります。

さらに、数日〜数週間経過すると膿瘍へと変化し、膿が出ることがあります。膿が排出されると、腫れや痛みなどの症状が急激に和らぎます。

ただし、細菌が鼻の奥まで侵入し、炎症が悪化すると、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの合併症を引き起こすことがあります。そのため炎症がみられたら、できるだけ早期に耳鼻科で治療を行うことが重要です。

鼻せつの検査・診断

鼻せつの診断では、患部の状態や症状を確認したり、必要に応じて採取した膿を培養したりする検査が行われます。

培養検査を行うことで原因となる菌を特定するほか、その細菌に有効な薬剤を特定することにも役立ちます。この他、炎症の程度が強い場合には、血液検査が行われることもあります。

鼻せつの治療

鼻せつの治療では、状態に応じて薬物療法や外科的処置が行われます。

薬物療法

鼻せつの薬物療法では、「セフェム系」という種類の抗菌薬が用いられます。内服のほか、重症の場合には点滴で投与することもあります。一般的に、抗菌薬を1〜2週間投与することで改善が期待できますが、PVLが関連する鼻せつの場合には、より長期の治療が必要になるケースもあります。

外科的処置

膿瘍を認める場合には、外科的処置が考慮されます。局所麻酔を使用して患部を切開し、膿を排出する処置が行われます。

鼻せつになりやすい人・予防の方法

鼻せつは、基礎疾患のない子どもから若年者に発症しやすい傾向があります。
鼻をいじるくせがあったり、鼻を強くかみすぎてしまったりすると、傷ができやすくなり、そこから細菌が侵入するリスクが高まるため、とくに子どもの場合は注意が必要です。

鼻せつの原因となるPVL産生黄色ブドウ球菌は、特に家族内で保菌する人から同居する家族へと感染させ、鼻せつを発症させるリスクがあります。
そのため、せつやようなどの皮膚疾患を認める場合には、速やかに医療機関を受診して原因菌を特定するほか、他の家族も同様に検査を受け、PVL産生黄色ブドウ球菌を保菌していないか確認することが重要です。


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