

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
先天性耳瘻孔の概要
先天性耳瘻孔とは、生まれつき耳の近くの皮膚に小さな穴(瘻孔:ろうこう)がある状態をいいます。この穴は通常、耳の前にあり、小さくて目立たないことも多いです。赤ちゃんのおなかの中で耳がつくられるときに、皮膚のくっつき方がうまくいかなかったことが原因とされています。
100人に1〜2人と決して珍しくないもので、多くの場合は一方の耳にありますが、両方の耳に見られることもあります。特に症状がなければ治療をする必要はありませんが、感染して赤く腫れたり、うみが出たりしたときは、医療機関を受診する必要があります。
先天性耳瘻孔の原因
赤ちゃんが成長する過程で、耳は6つの小さな突起が集まってできあがります。この突起は胎生(たいせい)4週ごろに現れ、12週ごろまでにひとつの耳として形になります。しかし、突起が完全にくっつかなかったり、ずれたりすると、その部分が小さな穴として残ることがあります。これが先天性耳瘻孔の原因です。
このような瘻孔ができる原因は、主に胎児期の発育過程での一時的なエラーによるもので、親の生活習慣や食事などが直接の原因になることはほとんどありません。また、特別な病気がなくても自然に起こることもありますが、まれに「BOR症候群(鰓耳腎症候群)」という遺伝性の病気の一部として見られることもあります。
先天性耳瘻孔の前兆や初期症状について
先天性耳瘻孔そのものには痛みや違和感はなく、多くの場合は生まれたときや健診のときに見つかります。耳の前に小さなへこみや穴のようなものがあるのが特徴で、白っぽい液が出ることもあります。
赤ちゃんのうちは症状がないことが多いですが、感染すると、瘻孔のまわりが赤く腫れたり、熱をもったり、押すと痛がることがあります。さらに進むと、うみがたまって膿瘍(のうよう)と呼ばれる状態になり、皮膚が破れて自然にうみが出てくることもあります。
また、耳の奇形や聞こえの異常、腎臓の問題を伴うBOR症候群の場合は、耳瘻孔だけでなく、首に小さな穴があったり、聞こえにくさが見られることがあります。
先天性耳瘻孔の検査・診断
診断は主に目で見て確認します。耳の前や耳のふちなどに小さな穴やくぼみがあれば、耳瘻孔と判断します。通常は片側にありますが、両側に見られる場合はBOR症候群などの他の病気の可能性も考えます。
また、瘻孔があるだけでなく、聞こえにくい様子があるときは、聴力の検査が行われます。現在では新生児のうちに聴力スクリーニングを行うことが一般的になっており、難聴の早期発見にも役立っています。
加えて、腎臓の形や機能を調べる検査(超音波など)が必要になることもあります。特に家族に同じような症状のある方がいる場合や、耳以外にも首や腎臓に気になる症状がある場合は、遺伝的な検査が行われることもあります。
先天性耳瘻孔の治療
多くの耳瘻孔は症状がない限り治療の必要はありません。穴があっても生活に支障がなく、感染も起こさなければ、そのままにしておいて問題ありません。
ただし、何度も感染を繰り返す場合や、うみが出てくる状態が続くようであれば、手術で瘻管(穴の奥に続く管)を取り除くことが勧められます。手術は皮膚を切開して、瘻管を根元から丁寧に取り除く必要があります。感染が起きているときは、まず抗生物質で炎症を抑えてから、後日手術を行うことが一般的です。
感染が軽い場合は、抗菌薬の飲み薬やぬり薬で治療を行い、様子を見ることができます。まれに膿瘍ができて膨れてしまった場合には、膿を抜く処置が必要になることもあります。
先天性耳瘻孔になりやすい人・予防の方法
この病気は生まれつきのものであり、生活習慣や食事などで予防することは難しいとされています。ただし、親や兄弟に耳瘻孔がある場合には、遺伝的に発生する可能性も考えられます。
また、BOR症候群などの他の先天的な病気に関連していることもあるため、耳瘻孔だけでなく他の症状(難聴、腎臓の異常、首の穴など)が見られる場合には、早めに小児科や耳鼻咽喉科に相談することが大切です。基本的に耳瘻孔は珍しい病気ではなく、多くの場合は問題なく一生を過ごせます。無症状であれば定期的な診察や治療は不要です。ただし、感染が起きたときには小児科や耳鼻咽喉科を受診し、必要な処置や治療を受けるようにしましょう。
参考文献
- 千田いずみほか:先天性耳瘻孔.小児耳鼻咽喉科,第2版,金原出版,2017
- Kim JR, et al:Int J Pediatr Otorhinolaryngol 78:1843–1848, 2014
- An SY, et al:Int J Pediatr Otorhinolaryngol 78:2255–2257, 2014
- Morisada N, et al:Pediatr Int 56:309–314, 2014
- 池田均:小児耳鼻咽喉科,第2版,金原出版,2017
- 有本友季子:小児科診療 82(8):1025–1031,2019




