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ハント症候群
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ハント症候群の概要

ハント症候群は顔面神経に潜伏した水痘帯状疱疹ウイルス (VZV) が再活性化して、顔面神経が腫脹・圧迫を受けることを主病態とする疾患です (参考文献 1, 2) 。
主な症状は、顔面神経麻痺・耳介周囲の帯状疱疹・難聴・めまいですが、主症状3つが揃うのは6割とされています (参考文献 1-4) 。
診断には問診による特徴的な症状の把握と他疾患の除外が必要で、必要に応じてMRIやCT検査が行われます (参考文献 3)。
治療はステロイドと抗ウイルス薬の併用を軸に、効果が不十分な場合は手術が検討されるほか、後遺症に対するリハビリテーションや対症療法も重要です (参考文献 3)。
適切な治療をしても約半数の患者に病的共同運動や拘縮といった後遺症が残るため、水痘・帯状疱疹ワクチンの接種による感染予防とVZVの再活性化予防が重要です (参考文献 1)

ハント症候群の原因

ハント症候群は Ramsay Hunt (ラムゼイ・ハント) 症候群とも呼ばれる疾患で、水疱帯状疱疹ウイルス (VZV) によって引き起こされる疾患です。この水疱帯状疱疹ウイルス (VZV) は小児期の疾患として有名な「水ぼうそう」の原因となるウイルスです。水ぼうそうの発症後に VZV が顔面神経の神経節に長い間潜伏し、何らかの原因で神経節に潜伏した VZV が再活性化するのがハント症候群の始まりです (参考文献 1) 。

VZVが活性化することで、神経が通るトンネルの中で顔面神経が腫れ、顔面神経が圧迫されてしまいます (参考文献 1) 。すると圧迫された顔面神経が支配する、顔の約半分の領域の運動や感覚に異常があらわれます (顔面神経麻痺) 。

ハント症候群の前兆や初期症状について

ハント症候群の症状は顔面神経のはたらきに着目すると理解しやすいです。
神経には大きく分けて「運動神経」「感覚神経」「自律神経」の3種類がありますが、顔面神経はこの3つ全てのはたらきがあり、主な機能は次の通りです。

  • まぶたや唇、そのほか表情を作り出す顔面の多くの筋肉に信号を伝える役割
  • 耳の中にある小さな骨 (耳小骨) の動きを制御して、音を聞こえやすくする役割
  • 舌から食べ物や飲み物の味の情報を受け取り、伝達する役割
  • 涙や唾液の分泌量を調節する役割

ハント症候群では顔面神経が主に障害を受けるため、次のような症状が出てきます (参考文献 1, 2) 。

  • 顔面神経麻痺
  • 顔面の片側の動きにくさ
  • 味の感じにくさ (味覚異常)
  • 涙が止まらない
  • 耳周辺の帯状疱疹
  • 耳の痛み
  • 耳 (耳介・外耳道) の水ぶくれ
  • 難聴やめまい

「顔面の片側が動きにくさ」ですが、眼の片側が閉じない・開かない、片側の口角が下がってしまって水がこぼれる・笑顔が作れないといったことで気づかれることがあります。

詳細は後述しますが、ハント症候群の神経症状は後遺症が残りやすく、早期に症状が完成してしまうことが知られています。

①顔面神経麻痺②耳の水ぶくれ (帯状疱疹)③聴力症状・めまいの3つが揃う「完全型ハント症候群」は全体の6割程度とされており、残りは顔面神経+耳周りの帯状疱疹か、顔面神経+難聴・めまいという「不完全型ハント症候群」です (参考文献 3, 4) 。
症状がすべて揃わなくても、疑わしい症状があれば病院受診をしてください。「どの科を受診すればいいの?」と悩むかもしれませんが、内科・耳鼻科・皮膚科など、お近くの症状と関係がありそうな科を受診していただければ大丈夫です。

ハント症候群の検査・診断

検査・診断において最も重要なのは「ハント症候群と疑うこと」です。
先述のハント症候群に特徴的な①顔面神経麻痺、②耳の水ぶくれ (帯状疱疹)、③聴力・めまいといった症状があれば診断に近づきますので、医師に伝えてください。
症状が「急に」出てくる場合にはウイルス性の顔面神経症状を疑いますので、症状がだんだん出てきたのか、急に出てきたのか、その後の経過を含めて医師に伝えてください。
診察時点で耳の水ぶくれや耳の痛みといった症状が出ていなくて、他の疾患との区別が難しい場合には、顔面神経麻痺やめまいを引き起こす他の疾患を除外するために MRIやCT検査をする場合があります (参考文献 1, 3) 。

ハント症候群の治療

ハント症候群の顔面神経麻痺は発症後も進行するとされており、7-10日で完成するとされているため、早期からの治療が重要です (参考文献 1, 3) 。
ハント症候群の治療はステロイドとVZVに効果のある抗ウイルス薬が中心になります。
薬物治療だけでは症状のコントロールができない場合には、手術をして顔面神経の圧迫を解除する場合もあります (参考文献 3) 。
顔面の筋肉の動きに後遺症が残る場合にはリハビリテーション、涙の分泌に後遺症が残る場合の目薬の利用など。後遺症に対する治療も必要になることがあります (参考文献 3)。

ハント症候群になりやすい人・予防の方法

ハント症候群は後遺症が残りやすい疾患として知られていて、約半数は完治しません。初期から適切な治療を行った場合でも後遺症が残る場合が多く、目を閉じたときに勝手に口が動く・口を動かすと目が勝手に閉じる「病的共同運動」やハント症候群の症状が出た側が固まってしまって「ひょっとこ」のような顔になってしまう拘縮が後遺症として代表的です (参考文献 1) 。

VZVへの感染と再活性化が原因となる疾患なので予防法は①VZVに感染しないこと②VZVを再活性化させないことがハント症候群の予防に有効です。
①の感染予防には小児期の水痘・帯状疱疹ワクチンの接種が有効です。②小児期に感染した後の再活性化予防ですが、これにもワクチン接種が有効であることが知られています。VZV特異的な免疫能の低下がVZV再活性化につながるのではと考えられており、この免疫能は水痘・帯状疱疹ワクチンの接種により高めることができます (参考文献 1) 。

日本では50歳以上の方や感染リスクが高い人を対象としてワクチン接種の公費補助について検討されている最中です (24年11月時点) 。自治体によっては既に公費補助が出る場合もありますので、対象となる方は前向きに検討してみることをお勧めします。


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