監修医師:
高宮 新之介(医師)
じん肺の概要
じん肺(じんぱい)とは、長期間にわたって粉じん(空気中の小さいほこりのようなもの)を吸い込むことによって、肺が硬くなり、呼吸がしにくくなる病気です。特に鉱山、建設現場、工場など、粉じんが多く発生する場所で働いている人に多く見られる病気です。
この病気の問題は、進行がゆっくりで初期には症状がほとんどないことです。しかし、長年にわたって粉じんを吸い込み続けると、次第に肺に炎症が起き、やがて肺の組織が硬くなってしまいます。これにより、肺が十分に広がらず、必要な量の酸素を取り入れることができなくなるため、息切れや呼吸困難といった症状が現れます。
じん肺は「職業性疾患」として認識されており、労働環境が原因となるため、法律によって予防や管理が定められています。じん肺法という法律では、定期的な健康診断を受けることが義務づけられ、労災補償の対象にもなっています。
じん肺の原因
じん肺の主な原因は、作業中に発生する鉱物、金属、研磨材、炭素原料、アーク溶接のヒューム等の粉じんを長期間にわたって吸い込むことです。具体的には、シリカ(石英の粉じん)、アスベスト(昔よく使われていた建築材料)、石炭粉じん、鉄粉などが原因物質として挙げられます。
比較的粒子の大きなものは鼻孔や気管支等に付着して「たん」となって体外に排出されますが、これらの粉じんは、鼻や気管では除去されず、肺の奥深くまで入り込みます。そこに長期間とどまることで、肺の組織に慢性的な炎症を引き起こし、やがて線維化(傷が治らず硬くなること)が進行していきます。この線維化により、肺の弾力性が失われ、呼吸がしにくくなります。
特にリスクの高い職業としては、鉱山作業者、建設作業員、鉄鋼業従事者、陶器工場やガラス工場で働く人々などが挙げられます。
じん肺の前兆や初期症状について
じん肺の初期症状は、軽度であることが多く、気づかれにくい特徴があります。一般的な症状として、軽い咳や痰(たん)、息切れが見られます。これらの症状は風邪と似ているため、見逃されがちです。
じん肺が進行すると、咳や痰が増え、息切れや呼吸がしにくい状態が続くようになります。さらに、喘鳴(ぜんめい、息をする際にヒューヒューという音がすること)や胸の痛みなども見られることがあります。
もし、これらの症状が続く場合は、早めに呼吸器内科を受診することをおすすめします。また、特に粉じんの多い職場で働いている場合は、定期的に健康診断を受け、早期に異常を発見することが重要です。
症状の重症度としては以下の分類を用います。
呼吸困難の分類
第1度
息切れを感じない、もしくは同年齢の健康者と同様に仕事ができ、歩行、登山あるいは階段の昇降も健康者と同様に可能である
第2度
同年齢の健康者と同様に歩くことに支障ないが、坂や階段は同様に上れない者
第3度
50m以上休まずに歩けるが1Kmも歩けない、あるいは平地でも健康者なみに歩くことができないが、自己のペースなら1Km以上歩ける者
第4度
50m以上歩くのに一休みしなければ歩けない者
第5度
話したり、着物を脱ぐのにも息切れがして、そのため屋外に出られない者
じん肺の検査・診断
じん肺の診断には、主に胸部X線検査とCT検査が使われます。
胸部X線検査
胸のレントゲンを撮ることで、肺に線維化が進んでいるかどうかを確認します。レントゲンでは、肺の中の硬くなった部分が白く映ります。
CT検査
X線よりも詳細な画像が得られるため、CTスキャンを使って肺の状態をより詳しく調べることがあります。
また、じん肺の進行度や肺機能を調べるためには、呼吸機能検査(スパイロメトリー)も行われます。これは、息を大きく吸ったり吐いたりして、肺がどれだけの量の空気を取り込めるか、またどれだけのスピードで空気を出せるかを測定する検査です。呼吸機能が低下しているかどうかを調べる重要な検査です。
症状が進行している場合は、血液中の酸素の量を調べるための血ガス分析が行われることがあります。この検査では、血液中の酸素濃度を測定し、必要な酸素が十分に取り込まれているかどうかを確認します。
じん肺の治療
じん肺は、進行性の病気であり、完全に治す方法はまだ見つかっていません。症状を軽減したり、病気の進行を遅らせるための治療が行われます。
1. 薬物療法
じん肺による咳や痰を抑えるために、鎮咳薬(せき止め薬)や去痰薬(たんを出しやすくする薬)が処方されます。また、息切れがひどい場合には、気管支を広げる気管支拡張薬も使用されます。これは、呼吸を少しでも楽にすることが目的です。
2. 呼吸器感染症の予防
じん肺になると、肺炎などの感染症にかかりやすくなるため、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されます。また、感染症にかかった場合には、早期に抗生物質を使用して治療を行います。
3. 酸素療法
じん肺が進行し、血液中の酸素の量が低下している場合には、酸素療法が行われます。酸素療法とは、酸素マスクやカニューレ(鼻にチューブをつける装置)を使って、体に十分な酸素を供給する治療法です。重症の場合は、家庭で酸素を供給する在宅酸素療法を行うこともあります。
4. 呼吸リハビリテーション
じん肺によって低下した呼吸機能を少しでも改善するために、呼吸リハビリテーションが行われます。これは、腹式呼吸法(おなかを使って深く息をする方法)など、呼吸を補助するためのトレーニングです。適切な呼吸法を学ぶことで、日常生活での息切れを軽減させることが期待できます。
じん肺になりやすい人・予防の方法
じん肺は、粉じんを吸い込みやすい環境で働く人に発症しやすい病気です。具体的には、鉱山、建設現場、工場、陶器やガラスの製造業に従事している人々がリスクが高いとされています。
じん肺を予防するためには、以下のような対策が有効です。
1. 粉じんの曝露を避ける
じん肺の最大の原因は粉じんを吸い込むことなので、防じんマスクや防じん服を着用し、作業場での粉じんの量を減らすことが重要です。また、作業環境の改善として、換気設備を充実させることも効果的です。
2. 定期的な健康診断を受ける
粉じん作業に従事している場合、法律により定期的な健康診断を受けることが義務付けられています。定期的に検査を受けることで、早期にじん肺の兆候を発見し、進行を防ぐことが可能です。
3. 健康管理と教育
職場での労働者に対する教育も重要です。じん肺のリスクや予防策について十分な知識を持つことで、労働者自身が適切な対策を講じることができます。
関連する病気
- 呼吸器疾患全般(Respiratory Diseases)
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