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縦隔気腫
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

縦隔気腫の概要

縦隔気腫は縦隔という肺に囲まれた空間(心臓や大動静脈、食道や気道などが存在する部分)に、何らかの要因で空気が溜まってしまう病気です。

縦隔気腫により溜まった空気が血管や気道、食道などを圧迫し、呼吸困難や胸痛などの症状を引き起こすことがあります。

縦隔気腫は交通事故や転落、医療行為などの外傷性、肺炎や喘息などの基礎疾患に続発する症候性、発症の誘因がわからない特発性に分類され、治療法はそれぞれ異なります。

外傷性縦隔気腫を引き起こす医療行為には、食道や大腸の内視鏡検査や手術などがあり、手技より食道や大腸の壁に穴が空き、空気が縦隔内に入り込むことで発症します。

症候性縦隔気腫には呼吸器感染症や食道破裂、気管損傷などがあります。
6か月-3歳の小児では、呼吸器感染にともなって縦隔気腫を発症することが多いと言われています。
進行した間質性肺炎などで縦隔気腫を合併するケースが多く、まれにステロイド薬による治療が肺胞壁の脆弱性を高め、発症リスクを高めると報告されています。

食道破裂や気管損傷を合併している症候性縦隔気腫では急性縦隔炎をきたすことがあり、細菌感染による敗血症を引き起こすと、最悪の場合死に至る可能性があります。

特発性縦隔気腫は10-20代で発症しやすく大半は安静による保存的治療で軽快します。
予後は良好である場合が多く、再発率は2.3%~5.4%と低いことが報告されています。
(出典:日本外傷学会雑誌「続発性縦隔気腫本邦75例の検討」

縦隔気腫

縦隔気腫の原因

縦隔気腫の原因は、分類により異なります。

外傷性縦隔気腫は、外傷や医療行為によって肺や気管支、食道などが損傷して空気が流入することが原因です。

症候性縦隔気腫や特発性縦隔気腫では、肺胞の内圧の上昇により肺胞壁が破綻することで空気が漏れ、縦隔気腫を発症すると言われています。
肺胞壁が破綻する要因には、遺伝的な肺胞壁の脆弱性や気道内圧の上昇、低栄養、ステロイド治療などが考えられています。

症候性縦隔気腫は肺炎や喘息などの基礎疾患で発症しますが、特発性縦隔気腫を発症する原因はわかっていません。

縦隔気腫の前兆や初期症状について

縦隔気腫の初期症状には、突然現れる胸痛や背部痛などがあります。

縦隔気腫が大きくなると、頸部痛や嚥下困難、呼吸困難、咽頭痛などの症状が現われます。
大動脈が圧迫された場合には循環不全を引き起こし、血中の酸素濃度の低下をきたして口唇や指先の皮膚が青紫色に変化するチアノーゼ、頻脈、低血圧、ショックが現われることもあります。

縦隔気腫の検査・診断

縦隔気腫の検査は胸痛や頸部痛、頸部の皮下気腫などの症状がある場合に検討され、聴診や触診、血液検査、胸部レントゲン検査、CT検査が行われます。

食道破裂や気管支損傷を発症している可能性がある場合は、食道造影や上部消化管内視鏡検査、気管支鏡検査が行われることもあります。

聴診・触診

縦隔気腫の診断では、聴診や触診が行われます。
縦隔気腫を発症すると、心臓の収縮期に一致して捻髪音(Hamman`s sign)という髪の毛を擦り合わせたような音が聴取されることがあります。

触診では縦隔気腫の発生した頸部に、雪を触ったようなザクザクとした握雪感(snowgrasping sense)が確認されることがあります。

血液検査

縦隔気腫では血液検査によって、白血球数やCRP(C反応性タンパク質)を測定します。
炎症をきたしている場合は、白血球数やCRP(C反応性タンパク質)の数値が上昇します。

胸部レントゲン検査、CT検査

胸部レントゲン検査では胸部の全体像を確認します。
縦隔気腫を発症していると、心臓や大動脈に沿って黒く抜けたように見える透亮像が観察されることがあります。

CT検査では身体の輪切り画像を撮影します。
頸部から胸部のCT検査をすることで、縦隔の広がりや縦隔内の臓器が空気に押されている所見(圧排)や、空気が溜まっている範囲を確認でき、治療方針の決定に役立ちます。

食道造影・上部消化管内視鏡検査、気管支鏡検査

縦隔気腫をきたす食道破裂や気管損傷の診断では、食道造影や上部消化管内視鏡、気管支鏡検査が行われることがあります。

食道造影は体内に注入した造影剤により食道の形状や太さを確認する検査であり、食道破裂の診断では造影剤が漏出している箇所の有無を確認します。
上部消化管内視鏡検査や気管支鏡検査では体内にカメラを挿入し、食道や気管支に破れている箇所や損傷している箇所がないか観察します。

縦隔気腫の治療

縦隔気腫の治療は、発症の原因によって異なります。

交通事故や転落のような外傷性縦隔気腫では、患者の状態を考慮して緊急性の高い病態の治療を優先しながら縦隔気腫の治療を行います。

喘息や肺炎などが原因となる症候性縦隔気腫の治療では、縦隔気腫の治療と合わせて原因疾患の適切な治療法を選択します。

内視鏡や手術によって穿孔を引き起こし外傷性縦隔気腫をきたした場合、あるいは食道破裂や気管損傷に合併した症候性縦隔気腫では、内容物が縦隔内に漏れ出すことで急性縦隔炎をきたす可能性があるため、発熱や採血における白血球数やCRP(C反応性タンパク質)の上昇が見られたときには抗生剤の投与が検討されます。
ケースによっては保存的治療が選択されます。

特発性縦隔気腫の治療は、安静を保ち経過観察をする保存的治療が第一選択です。
必要に応じて鎮咳薬や鎮痛剤の投与が検討され、縦隔炎の発症が疑わしい場合には抗生剤を投与することがあります。

いずれの縦隔気腫でも急性縦隔炎を発症した場合や縦隔に膿が溜まった場合、縦隔気腫の増大で縦隔内の臓器を圧迫することによって循環障害をきたした場合は、縦隔切開や膿を体外へ排泄させるための縦隔ドレナージ、気管切開などの外科的手術による治療が検討されます。

縦隔気腫になりやすい人・予防の方法

症候性縦隔気腫は喘息や間質性肺炎などの呼吸器の基礎疾患を抱えている人や、食道破裂や気管損傷をきたした人に発症しやすいです。
発症する原因が不明な特発性縦隔気腫は、痩せ型で高身長の若年男性に発症しやすい傾向があります。
縦隔気腫を予防するためには、体調管理を心がけ、基礎疾患を悪化させないように規則正しい生活習慣を心がけましょう。

大声を出すことや上気道炎による咳、激しい運動は、胸腔内圧が上昇しやすく特発性縦隔気腫のリスクが高まることが報告されています。
縦隔気腫の発症を予防するためにも、これらの行為は控えましょう。


関連する病気

  • 呼吸器感染症
  • 食道破裂
  • 気管損傷
  • 間質性肺炎
  • 急性縦隔炎

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