FOLLOW US

目次 -INDEX-

原発性肺高血圧症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

原発性肺高血圧症の概要

原発性肺高血圧症は2010年ころまで用いられていた病名で、現在の肺動脈性肺高血圧症のうち、原因の分からない「特発性肺動脈性肺高血圧症」と遺伝による「遺伝性肺動脈性肺高血圧症」の概念を含んだものです (参考文献 1) 。肺動脈性肺高血圧症の細かな原因の割合 (参考文献 2) や 近年の日本のデータ (参考文献 3) から考えると、日本には2,500人程度の原発性肺高血圧症の患者さんがいると考えられます。
肺高血圧症の病型を確定させた後、取り除くことができる原因がないか確認して、薬物療法中心の治療をしていきます (参考文献 4, 5) 。

原発性肺高血圧症の原因

血液の酸素化をするために、全身から心臓に戻った血液は肺へ送られて酸素を受けとりますが、この心臓から肺へ血液を送る動脈を肺動脈といいます。この肺動脈の圧力が高くなってしまう病気を「肺高血圧症」といいます。
肺動脈症には様々な原因があります。肺動脈が原因となる肺動脈性肺高血圧症のほか、肺から心臓へ戻ったあとの部屋である左心房の病気が原因となるもの、肺自体の疾患が原因となるもの、肺動脈性が詰まることが原因となるもの、全身疾患が原因となるものがあります (参考文献 1) 。
原発性肺高血圧症は2010年頃まで使われていた病名で、肺動脈性肺高血圧症のうち原因の分からない「特発性肺動脈性肺高血圧症」と遺伝による「遺伝性肺動脈性肺高血圧症」の2つが合わさったものでした (参考文献 1) 。
肺動脈性肺高血圧症のメカニズムとしては、細かな肺動脈の血管が収縮、肥大化、線維化、詰まってしまうことが肺動脈の圧力を上げてしまうことが原因なのではないかと言われていますが (参考文献 2) 、十分に解明されていない部分も多いです。
肺動脈性肺高血圧症全体の患者さんの数が調査されているため、原発性肺高血圧症とよばれていた病気の患者がどれだけいるのか、正確な数を把握することは難しいです。
2020年の調査で肺動脈性肺高血圧症と診断された患者さんは4,230人 (参考文献 3)、日本のような先進国では半数が特発性、最大 10% 程度が遺伝性と言われているので (参考文献 2) 、原発性肺高血圧症の患者さんは2,500人程度といえるのではないでしょうか。

原発性肺高血圧症の前兆や初期症状について

「この症状があるから肺高血圧症だ!」というようなことは言えませんが、肺高血圧症の患者さんでは初期症状として次のようなものがあることが知られています (参考文献 4) 。

  • 息苦しさや疲労感
    階段を昇ったりしたときの呼吸困難感が現れたり、疲労感が残りやすくなったりします。進行すると歩いただけで症状が出てきます。
  • 動いたときの胸痛・失神
  • 身体が浮腫む、体重が増える
  • 食欲不信
  • 腹部の痛みや腫れ

これらの症状は心臓がうまくポンプ機能を発揮できなくなることによる症状、医学的にいえば心不全症状です。心不全の症状が出るのは肺高血圧症だけではなくて、有名なものだと心臓弁膜症や心筋疾患も原因になり得ます。
これらの症状が出れば早く原因を確かめて治療を開始することが重要なので、当てはまることがあれば近くの内科を受診してください。

原発性肺高血圧症の検査・診断

まずは「肺動脈性」肺高血圧症と診断することが先ですが、肺高血圧症は種類によって治療方針が異なってくるため、全身疾患の有無や心機能の詳細な評価が重要になってきます。
肺高血圧症が疑われる場合には、まずは心エコー検査をします。
エコー検査では心臓の弁の付近で血液の逆流がないか、肺に血液を送る右心室の大きさや壁の壁の厚さに異常がないか、壁の動きに異常はないかといったことを調べます (参考文献 4) 。
他にも心電図検査 (心筋疾患などで所見が得られる場合があります) や画像検査は身体への負担が少ないので早い段階でやります (参考文献 4) 。
他の検査方法としては、心臓にカテーテルを入れて直接肺動脈の圧力や、心機能の詳細な評価をすることもあります (参考文献 4) 。

これらの評価で肺高血圧症のなかでも肺動脈性のものと分かれば、原因になりうる背景の調査をします。明らかな原因が分かり、原因を除去することができれば、それが一番の治療になるからです。
肺動脈性肺高血圧症のなかには原発性肺高血圧症 (特発性/ 遺伝性) のほかに薬剤性、膠原病、HIV感染、先天性心疾患が原因になることが知られています (参考文献 2) 。

原発性肺高血圧症の治療

肺動脈性肺高血圧症の治療は薬物療法が中心になります。
何種類かある治療薬のどれを使えばいいか確認するために、治療開始前に「血管反応性試験」という検査を行います (参考文献 5) 。
薬物療法でも疾患のコントロールが難しい場合には、心臓の手術や肺移植が検討されます (参考文献 5) 。

原発性肺高血圧症になりやすい人・予防の方法

原発性肺高血圧症になりやすい人

再掲ですが、肺動脈性肺高血圧症のうち、半数は原因が分からない特発性、最大10%程度が遺伝性とされています (参考文献 2) 。
遺伝性の肺動脈性肺高血圧症はかなり稀な疾患なので、はっきりとしたことは言えませんが、もし血の繋がっている親族に原因のはっきり分かっていない肺高血圧症の患者さんがいれば、一般集団に比べれば発症確率は高いと言えるかもしれません。
原発性肺高血圧症は中年の女性に多い疾患として知られてきましたが、近年の肺動脈性肺高血圧症全体を対症とした日本の調査では、高齢者や男性でも診断される方が増えてきていることが確認されています (参考文献 3) 。2015年から2018年までの3年間で新しく診断された人の構成を確認すると、60歳代までは女性が多いですが、それより高齢の年代では男女比はおおよそ 1:1です (参考文献 3) 。

予防の方法

症状の項で紹介したような心不全症状が現れた時には、放置しないで直ぐに病因へ行き、適切な診断・治療にたどり着くことが重症化予防になるといえるでしょう。


参考文献

この記事の監修医師