監修医師:
高宮 新之介(医師)
アスピリン喘息の概要
アスピリン喘息は、アラキドン酸シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用を持つ、アスピリンに代表される解熱鎮痛消炎薬(NSAIDs)によって、喘息発作や鼻詰まりが急激に悪化する気管支喘息のひとつのタイプです。
NSAIDs喘息、N-ERD、AERD、解熱鎮痛薬喘息などと呼ばれることもあります。
アスピリン喘息の体質は、生涯にわたり続くことが知られているため、喘息の症状がよくなってもNSAIDsの使用を避けることが必要です。
しかし、NSAIDs以外の薬である抗生剤、胃腸薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、漢方薬、去痰薬、降圧薬などは、安全に使用することができます。この体質は、遺伝性の疾患ではありません。
アスピリン喘息は、思春期以降に発症した喘息患者さんの5~10%を占めます。また、女性の方が多く(男性:女性は1:2)、小児は稀です。
アスピリン喘息患者さんのうち、多くの方に慢性副鼻腔炎や鼻ポリープの合併がみられ、手術歴がある方もいます。これらの症状は、特に嗅覚障害を伴うことが多いです。鼻症状は、コーヒーの香りがわからないなどの嗅覚低下が最も多く、鼻閉、鼻汁といった一般的な喘息症状を示します。
練り歯磨きや香水の匂い、香辛料が多く含まれる食事、果実などで発作がおこったり、悪化することもあるので注意が必要です。
アスピリン喘息は、多くの場合次のような経過をたどります。
- ① 30~40歳代に、鼻茸(鼻ポリープ)および副鼻腔炎により、嗅覚が低下します。
- ② 通年性の鼻炎症状(鼻水、鼻づまり)を生じます。
- ③ ①から2~3年以内に、長引く空咳や典型的な喘息発作を生じます。
- ④ 吸入ステロイド薬+長時間作用型β2刺激薬を中心とした喘息治療を開始します。
アスピリン喘息の原因
アスピリン喘息は、アスピリンのみによって誘発されるわけではありません。ピリン系・非ピリン系といった分類や内服薬や注射薬、坐薬、塗り薬、貼り薬、点眼薬といった剤形にかかわらず、ほとんどすべての解熱鎮痛薬が原因となります。
NSAIDsは、市販の総合感冒薬(風邪薬)や解熱鎮痛薬のほとんどの商品に含まれているので、自己判断で薬を使用しないことが大切です。
アスピリン喘息の前兆や初期症状について
初期症状と経過
- ① NSAIDsを使用した後、短時間(多くは1時間以内)に鼻汁・鼻閉がおこります。
- ② 咳、喘鳴(ゼーゼーやヒューヒュー)、呼吸困難が出現し、徐々にあるいは急速に悪化します。意識がなくなったり、窒息する危険性もあります。
- ③ 時に顔面の紅潮や吐き気、腹痛、下痢などを伴います。
- ④ 軽症例で半日程度、重症例で24時間以上続くこともありますが、合併症を起こさない限り、原因となった医薬品が体内から消失すれば症状はなくなります。
症状が発現するときの速さと強さは、注射・坐薬>内服薬>貼付薬・塗り薬の順となります。
アスピリン喘息の治療を希望するときは、呼吸器内科やアレルギー科を受診しましょう。呼吸困難など喘息の発作がひどい時は、救急外来を受診しましょう。
アスピリン喘息の検査・診断
この疾患はアレルギーとは異なる機序で発症するため、皮膚検査や血液を用いたアレルギー学的検査では診断ができません。
アスピリン喘息の診断は問診と内服負荷試験で行います。ただし、次の4項目を満たした場合は確定診断となります。
- ① COX-1阻害作用をもつNSAIDs投与後に喘息発作が生じる
- ② 鼻症状(鼻閉、鼻汁)悪化を伴う
- ③ 中発作以上の喘息発作である
- ④ NSAIDs投与から1~2時間以内に発作が始まる(ただし、貼付薬と湿布薬は除く)
問診
問診では次の3点を確認します。
- 1.喘息発症後の最近2~3年以内のNSAIDs使用歴と副反応歴
- 2.嗅覚障害に関すること
- 3.鼻茸や副鼻腔炎の既往・手術歴の有無
アスピリン喘息患者のNSAIDsによる発作誘発を防ぐためには、リスクのある患者を早期に見出すことも重要です。以下のアスピリン喘息に特徴的な症状を確認することで、リスクを抱える患者を見つけるきっかけとなります。( )は喘息症状がある方のうちアスピリン喘息である確率を示します。
- 1.ミント、練り歯磨き、香辛料で悪化(90%以上)
- 2.NSAIDs誘発歴(85~90%)
- 3.鼻茸もしくは副鼻腔炎の手術歴(60%以上)
- 4.強い嗅覚低下(約60%)
- 5.鼻茸もしくは副鼻腔炎の合併または既往(40%以上)
- 6.発作入院をくり返す(30%以上)
- 7.成人発症で、非アトピー性(明確な環境アレルゲン感作なし)、中等症以上喘息(約20%)
内服負荷試験
NSAIDsの通常の投与ルートに沿った確実な診断方法です。実施には2~3日を要し、専門施設において、その対応に習熟した2名以上の医師のもとで、負荷量を国際的に提示されている量や成書に沿って、かつ、投与間隔時間を守って行われる必要があり、喘息状態の良好な時に行うことが必須です。
アスピリン喘息の治療
早期対応のポイント
- ①呼吸の苦しい症状(息をするときゼーゼー、ヒューヒューする、息苦しい、鼻や喉が詰まって苦しいなど)を自覚してから急速に呼吸困難に陥ることがあるため、すみやかに救急車を呼びましょう。
- ②救急車が到着するまでに、普段使用している喘息発作時の頓用薬があれば、指示通りに使用しましょう。
- ③救急車や医療機関には、「喘息がもともとあって、解熱薬を何時何分頃服用し、息苦しくなった」などの内容を伝えましょう。
- ④お薬手帳と服用した医薬品を持って行きましょう。
発熱・疼痛時
アセトアミノフェン(1回300㎎以下の投与)、セレコキシブで対応します。
NSAIDsは、常用量の1/5以下でも喘息発作を誘発する可能性があり、少量でも十分な注意が必要となるため、原則投与しません。
アスピリン喘息患者に使用可能な薬剤には、次のようなものがあります。
- 解熱・鎮痛剤: アセトアミノフェン、葛根湯、PL配合顆粒(1g中アセトアミノフェン150mg含有)
- 解熱剤: 副腎皮質ステロイド(リン酸エステル製剤)、地竜
- 鎮痛剤: モルヒネ、ペンタゾシン、セレコキシブ、トラマドール
セレコキシブは常用量では誘発されませんが、重症不安定例では悪化の報告ありますので使用に関しては、医師の指導を受けることも重要です。
急性期(NSAIDs誘発期)
通常の急性喘息発作と同様に次の手順で迅速に治療を行います。
- ①十分な酸素化
- ②アドレナリンの早期および繰り返しの投与(筋肉内注射)
- ③アミノフィリンと副腎皮質ステロイドの点滴
・ステロイド剤は急速静注は禁止
・ステロイドはリン酸エステルタイプ(リンデロンなど)を用いる - ④抗ヒスタミン薬の点滴投与
- ⑤抗ロイコトリエン薬の内服と気管支拡張薬の吸入
慢性期(長期管理)
通常の喘息治療と同様の治療を行います。
- ①吸入ステロイド+長時間型β2刺激薬の吸入
- ②比較的有効性が高いのはクロモグリク酸ナトリウム(メプチンなど)の吸入である
- ③喘息症状を安定化させるために鼻茸や副鼻腔炎の治療を行う
難治例ではオマリズマブの継続使用やデュピルマブの使用が有効であることや、喘息のコントロールを良好に維持すると過敏反応が消失する症例があることが報告されています。
アスピリン喘息になりやすい人・予防の方法
アスピリン喘息になるメカニズムは詳しくはわかっていませんが、以下のような方が発症しやすいといわれています。
- 解熱剤、鎮痛薬全般に過敏な体質をもっているぜん息患者さん
- 成人後にぜん息を発症した方
- 鼻茸(鼻ポリープ)を伴う慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の合併または手術歴のある方
- 女性の重症ぜん息患者さん
ぜん息患者さんは、解熱鎮痛薬を使用する際必ず医師や薬剤師に相談してください。
医療機関を受診したり、薬局で医薬品を購入したりする際には、自分が「アスピリン喘息(解熱鎮痛薬喘息)(疑い)」であることを、医師または薬剤師に伝えることが大切です。
不注意や誤ってNSAIDsが投与されることを防ぐために、病状説明書や患者カードを携帯しましょう。