監修医師:
居倉 宏樹(医師)
皮下気腫の概要
皮下気腫とは、通常は空気が存在しない皮下組織の中に空気が入り込んでしまった状態を言います。
皮下気腫により、皮膚が膨らみ、触った時に雪を握った時のような感触(握雪感)と、指で押した時にプチプチを空気が弾けるような音(捻髪音)が鳴ることが特徴です。
皮下気腫は、胸部外傷、手術、気胸や肺気腫や間質性肺炎などの気道や肺に関する疾患など、さまざまな原因で生じることがあります。
皮下気腫自体は軽症であることが多いものの、原因となる疾患が生命に関わる場合もあり、迅速な診断と治療が重要です。
皮下気腫の原因
皮下気腫は、通常、気管や気管支、肺、消化管などの空気を含む組織に穴が開いたり、損傷が生じることで発生します。皮下気腫の主な原因は下記の通りです。
外傷
鈍的外傷
交通事故、転倒、スポーツなどによる胸部や腹部の強い衝撃によって胸腔内の空気が損傷された壁側胸膜から漏れる状態になると、皮下気腫が引き起こされることがあります。
貫通傷
鋭利なもので刺されたり、銃弾などが体内に入った場合、肺や気管が損傷し空気が漏れることがあります。漏れ出した空気が皮下に入り、皮下気腫を引き起こすことがあります。
手術
胸部手術
心臓や肺の手術など、胸腔を開ける手術では、漏れ出した空気が皮下に入り、皮下気腫を引き起こすことがあります。
腹部手術
腹腔鏡手術など、腹腔内に空気を注入する手術でも、まれに皮下気腫が起こることがあります。
医療処置
気管挿管
人工呼吸器を使用する際、気管にチューブを挿入する際に、誤って気管周囲の組織に空気が漏れることがあります。
中心静脈カテーテル挿入
中心静脈にカテーテルを挿入する際、誤って気管や肺に損傷を与えてしまうことがあります。
歯科治療
歯周病の手術や根管治療など、歯肉や歯槽骨に穿孔が生じ、空気が入り込むことがあります。
その他
自発性気胸
肺にできた小さな穴から空気が肺の外に漏れる病気で、皮下気腫を伴うことがあります。
バルトリン腺の膿瘍
女性の外陰部にできる膿瘍が破裂し、空気が入り込むことがあります。
深海潜水
急激な減圧により、体内に気泡が発生し、皮下組織に溜まることがあります。
皮下気腫の前兆や初期症状について
皮下気腫には、下記のような前兆や初期症状が見られることがあります。軽度であれば経過観察となるケースが多いです。しかし、重篤な症状となる場合もありますので、症状に気付いたら病院を受診するようにしましょう。
皮膚の膨張感
皮下に空気が溜まることで、皮膚の膨らみや異常な感覚を伴います。多くは胸部や頚部、顔面に発生します。
握雪感
皮下気腫が発生した部位を触ると、雪を握った時のような柔らかな感触がします。
捻髪音
皮下気腫が発生した部位を押すと、プチプチと空気がはじけるような音がします。
呼吸困難
大量の空気が皮下や胸腔に漏れた場合、呼吸が苦しくなることがあります。
痛みや圧迫感
空気が胸腔内に溜まると、胸痛を感じることがあります。
顔や首の腫れ
特に顔や首の皮下気腫が進行すると、顕著な腫れが現れ、外観上の変化が見られます。
発熱
皮下気腫という病態そのもので発熱を起こすことはありませんが、皮下気腫を起こす原因によっては発熱を伴うこともあります。
皮下気腫の検査・診断
身体診察
患部を触診することによって、握雪感や捻髪音などを確認します。
画像診断
レントゲン検査
肺や胸部の状態を画像で確認し、空気が漏れている部位を特定します。皮下気腫では、レントゲン画像上で皮下に異常な空気が見えることがあります。
CT検査
レントゲン検査よりも、画像から詳細な情報を得ることが可能です。CT画像では、小さな空気の漏れや肺や気管の損傷の程度を確認することが可能な場合があります。
皮下気腫の治療
皮下気腫の治療は、原因となる基礎疾患の治療と併せて行われることが多い傾向です。通常、皮下気腫自体は時間とともに自然に解消されることが多いですが、重症例では侵襲的な処置を行う場合があります。
患部の観察
軽度の皮下気腫の場合、特別な治療を必要とせず、定期的に患部を観察して広がりが悪化しないか、改善してくるか経過を見ていくことが多いようです。
原因疾患の治療
気胸や肺損傷などが原因であれば、原因への治療介入が優先となります。
鎮痛剤の使用
周囲の皮膚や筋肉が圧迫され痛みを感じる場合には、鎮痛剤を用いることがあります。
外科的治療
進行性で高度な皮下気腫の場合は、針を刺したり皮膚を切開して皮下に溜まった空気を除去することがあります。
皮下気腫になりやすい人・予防の方法
皮下気腫は、下記のような人に発生しやすいと言われています。
胸部外傷を受けた人
肋骨骨折や胸部への強い衝撃を受けた人は、正常な組織が傷ついて空気が漏れることがあるため、皮下気腫のリスクが高くなります。
肺疾患のある人
肺気腫や慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、気道の感染症がある人は、肺や気管支の損傷により皮下気腫が生じる可能性があります。
喫煙者
COPDは主にタバコの煙や大気汚染物質などの有害物質を長期間吸い続けることで生じる肺の炎症性疾患で、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。
侵襲的な医療処置を受ける人
気管挿管や人工呼吸器を使用する患者さんは、気道損傷などによる皮下気腫のリスクがあります。
皮下気腫の予防には、外傷を避け、肺の健康を維持し、感染症や気道への侵襲的な処置を慎重に行うことが重要です。特に胸部外傷や気胸がある場合、皮下気腫が生じるリスクが高いため注意が必要です。