監修医師:
関口 亮(医師)
無気肺の概要
無気肺とは、気道(空気の通り道)の圧迫や閉塞などによって肺の一部分、もしくは全体が虚脱(しぼむ・押しつぶされる)し、空気が入らなくなる状態のことです。
肺の主な機能は、体内に酸素を取り込んで、二酸化炭素を排出することです。この機能はガス交換と言われ、肺の中にある小さな袋(肺胞)が空気で満たされなければ正常に機能しません。
無気肺が発生すると肺胞まで十分な空気が届かなくなり、ガス交換が不十分になります。酸素がうまく取り込めなくなるため、その結果として息切れや咳などの症状が現れます。
無気肺が広がると、症状がさらに悪化する可能性があり、呼吸困難や低酸素血症など深刻な状態に進行する恐れもあります。
適切な診断と治療が遅れると、肺の機能が著しく損なわれることがあるため注意が不可欠です。
無気肺の原因
無気肺の主な原因は、次の2つです。
- 気道の閉塞
- 肺への外的圧力
気道の閉塞
気道閉塞の原因には痰の滞留や異物の侵入、腫瘍(がん)などがあります。これらが気道を塞ぐことで肺に空気が届かなくなり、無気肺が発生します。特に、右中葉気管支は細く、入口付近でリンパ節が腫れたり、分泌物が溜まったりすることで無気肺を起こしやすくなります。
高齢者や慢性呼吸器疾患を持つ人は痰の排出が難しいため、無気肺のリスクが増大します。喫煙歴がある人は肺の機能が低下していることが多く、加えて分泌物が増えるため、無気肺になるリスクがより高まります。
また、吸引不全や人工呼吸器の設定不良なども無気肺が発生する原因です。気道の分泌物が適切に除去できない場合は気道が塞がり、肺の一部が十分に膨らまなくなるからです。
さらに、人工呼吸器が適切な圧力を供給できない場合は、肺の膨らみが不十分になり、無気肺を引き起こすことがあります。
これらの要因が重なると、肺の機能が著しく低下して症状が悪化する可能性があるため、適切な管理が必要です。
肺への外的圧力
肺への外的圧力が原因で無気肺が発生することがあります。
外的圧力の主な原因には胸部の外傷(転倒や交通事故)や手術後の状態、長期間の臥床などが挙げられます。肺が正常に膨らむための空間が圧迫によって失われることで無気肺が起こります。
特に、術後や長期間のベッド上での生活では、重力や体位によって肺が圧迫されるため、無気肺のリスクが高まります。
これらの状況下では、胸の内部空間の圧力が高まるため、肺が十分に膨らむスペースを確保できません。その結果、空気が肺に入らず、無気肺が引き起こされるのです。
無気肺が進行すると、呼吸困難や酸素不足などを引き起こす可能性があるため、早期の診断と適切な処置が重要です。
無気肺の前兆や初期症状について
無気肺そのものにより、直接的な症状が現れるわけではありません。
しかし、無気肺が進行することで低酸素血症(血液中の酸素が不足)や肺炎などを起こし、さまざまな症状が現れることがあります。これらの症状は、無気肺による虚脱した肺の範囲や進行度によって決まります。
始めのうちは、軽い息切れや呼吸のしづらさなど、軽度の症状であることが多いです。病状が進行すると、次のような症状が現れることがあります。
- 咳嗽(せき)
- 呼吸困難
- 心拍数の増加
- 胸部の不快感や圧迫感
- チアノーゼ(皮膚や唇の青紫色変化)
これらの症状が現れた場合は、無気肺が進行していることが疑われます。診断と治療の遅れにより症状の悪化を招く恐れがあるため、早期の受診が大切です。
無気肺の検査・診断
無気肺の検査・診断は、主に画像診断で行われます。
症状や身体所見、症状が現れた状況などをもとに無気肺が疑われる場合、胸部X線の検査を実施し、肺が虚脱していることが明らかになると、無気肺と診断できます。
胸部X線で判断できない場合やさらに詳細な評価が必要な場合は胸部CTが実施されます。
胸部X線と比べて、胸部CTは診断の精度が高く、胸部を輪切りの画像で細かくチェックできるため、無気肺の範囲や原因を特定しやすいです。これにより、虚脱した肺の部位や圧迫の程度、原因をより正確に評価できます。
また、気道閉塞の原因が疑われる場合には、気管支鏡検査が行われることがあります。この検査では、内視鏡を気管支に挿入し、気道内部を直接観察することで、閉塞の有無やその原因を直接確認できます。
ほかにも、無気肺の原因を特定するために喀痰検査や血液検査、MRI検査などを実施する場合もあります。
無気肺の治療
発生する原因と重症度に応じて無気肺の治療は異なります。
気道の閉塞が原因の場合は、痰や異物を取り除くために吸引や気管支鏡を用いた処置が行われます。これらの処置により、気道が開通して、肺が正常に機能するようになります。
気胸(肺が破れる)や胸水(胸の内部の空間に液体が溜まる)など外的な圧迫が原因である場合は、胸腔ドレナージや外科的な処置が必要です。これらの処置は、肺の圧迫を解消し、肺が正常に膨らむのを助けます。
症状が軽度の場合は、深呼吸や呼吸リハビリテーションが推奨され、肺の再膨張(しぼんだ肺が膨らむようにする)を促します。また、早期の歩行や体位変換も有効です。
重度の無気肺では、酸素療法や持続的陽圧呼吸(CPAP)、気管挿管による人工呼吸器管理などの呼吸補助が必要になる場合があります。
これにより酸素供給を確保し、呼吸の効率を改善します。
無気肺になりやすい人・予防の方法
無気肺になりやすい人として、次の特徴が挙げられます。
- 高齢者
- 喫煙歴がある人
- 慢性呼吸器疾患を持つ人
- 長期間の臥床が必要な人
- 全身麻酔の手術を受けた人
無気肺の予防方法としては、深呼吸や呼吸訓練を定期的に行い、肺をしっかり膨らませることが重要です。手術後や長期間の安静が必要な場合は早めに体を動かし、呼吸を促すことが推奨されます。
また、痰の排出を促進するための水分補給や吸引のサポートも有効です。これらの対策を講じることで、無気肺のリスクを低減させられます。
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参考文献