監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
唾石症の概要
唾石(だせき)症は唾液腺や唾液の通り道である導管に石ができる病気です。
唾液腺に入った異物や細菌に、炭酸カルシウムやリン酸カルシウムという物質が沈着することによって唾石が形成されます。
唾石は顎下腺と導管であるワルトン管に発生することが大半ですが、耳下腺や導管であるステノン管に発生する場合もあります。
主な症状としては、食事中にアゴや耳の近くが痛んだり、腫れたりする唾疝痛(だせんつう)が見られます。
無症状もしくは症状が軽い場合には、自然に排石されるまで経過観察することもありますが、唾石ができた部位によっては唾液腺ごと摘出する手術が必要な場合もあります。
また唾石症では細菌感染の合併により、急性化膿性唾液腺炎を引き起こす可能性があります。
痛みや強い腫脹、高熱などの症状が見られ、症状がひどい場合には口腔内につながる導管の穴から膿が出る場合もあります。
急性化膿性唾液腺炎を引き起こした場合には抗生物質による治療が行われます。
唾石症の原因
唾石症は細菌や異物などによる感染が原因で発症すると考えられていますが、はっきりとした原因は分かっていません。
唾石症の前兆や初期症状について
唾石症では初期段階では無症状であることが多いです。
唾石症の主な症状は、食事をしたときに顎下腺(あごの下側)や耳下腺(耳の下)に生じる強い痛みや腫れ(唾疝痛)です。この痛みは時間の経過とともに消失していきます。
唾石症の検査・診断
唾石症の診断では、主に以下のような検査が行われます。
また急性化膿性唾液腺炎が疑わしい場合には、追加で検査を行う場合があります。
超音波(エコー)検査
超音波(エコー)検査は、超音波を使ってリアルタイムの画像を撮影する検査です。
石灰化を伴うことが多い唾石は、超音波検査で検出しやすいため唾石症の診断に有効です。
超音波検査では2mm以上の大きさの唾石の検出が可能であると言われています。
パノラマX線撮影
パノラマX線撮影はX腺を使ったレントゲン撮影であり、顔の周りを撮影装置が回転しながら撮影し、口内の状態を確認することができます。
パノラマ撮影では歯の全体像やアゴの関節からアゴの先までを撮影でき、唾石の有無を確認することができます。
CT検査
CT検査は360°方向からX線を体に向けて当てることで、体の輪切り像を撮影する検査です。
石灰化を含む唾石の検出に優れており、唾石の場所や大きさ、石の数を正確に把握することができます。
唾石症の確定診断で利用されており、手術の流れをイメージする上でも有効です。
また唾石症によって急性化膿性唾液腺炎を合併している可能性がある場合には、造影剤を使った造影CT検査を追加して撮影します。
唾液腺造影検査
唾液腺造影検査とは、導管の口側の出口の穴に、ヨード造影剤を直接流し込むことによって唾液腺を画像上に映し出す検査です。
2mm程度の大きさの唾石を検出することができると言われており、超音波検査と同等の検出率があります。
唾石症の治療
唾石症の治療では唾石のサイズや大きさ、位置によって経過観察により自然排出を待つ場合もあれば、手術が必要となる場合もあります。
手術には口腔内を切開する口内法や皮膚切開を必要とする外切開法があり、内視鏡を併用した治療が行われる場合もあります。
手術方法は、唾石のある部位や位置、大きさ、数などの情報をもとに検討します。
また急性化膿性唾液腺炎を合併している場合には、ペニシリンや第一世代セフェム系抗菌薬の投与が行われ、CT検査やMRI検査で膿の貯留が判明した場合には切開による排膿が行われる場合があります。
保存的治療
症状が軽度もしくは無症状である場合には保存的治療が選択されます。
保存的治療では、唾液腺マッサージの指導や唾液の分泌を増やす薬を服用することによって自然排出を促します。
保存的治療で排出されない場合は、手術による摘出が検討されます。
口内法 / 内視鏡補助下口内法
口内法は口の中を切開して唾石を取り出す手術です。
手術時間が短く、局所麻酔で手術可能であるため、身体に与える負担が小さいことが特徴です。
口内法による手術は、唾石が導管内にある場合や、触れることができる単発性の腺体移行部(唾液腺と導管の移行部)が対象です。
また唾石が5mm以下では、耳下腺・顎下腺ともに内視鏡による治療が可能です。
耳下腺では導管内に唾石がある場合が対象で、内視鏡の鉗子や、レーザーを当てることで唾石を砕いて摘出する方法や、カテーテルで唾石を絡め取り腺管移行部までけん引して摘出する方法が行われます。
顎下腺の内視鏡治療では、腺管移行部までの唾石が対象です。
内視鏡でけん引した唾石を、触診や内視鏡のガイド光の情報をもとに口腔底(舌の下の柔らかい部分)を切開して唾石を摘出する内視鏡補助下唾石摘出術が行われます。
外切開法
外切開法は、頸部の皮膚を切開して唾石を摘出する手術です。
耳下腺と顎下腺では手術内容が異なります。
耳下腺ではサイズが大きいものや内視鏡で到達できないほど深い位置にある場合が対象であり、顎下腺では唾石を顎下腺ごと摘出することにより治療します。
顎下腺内に唾石ができた場合や、導管が細く内視鏡が唾石まで到達できない場合は、顎下腺摘出術が行われます。
外切開法の術後の合併症として、顔面神経を傷つけられることで下唇の麻痺が現れる場合があります。
唾石症になりやすい人・予防の方法
唾石症になりやすい人の特徴は特にありません。
合併症である急性化膿性唾液腺炎は口の中の免疫が低下しやすい口腔乾燥症(ドライマウス)の人でリスクが高まることが報告されており、口腔内の清潔保持や唾液の分泌が重要です。
丁寧な歯磨き習慣や、ガムを噛んで唾液を出すことを心がけましょう。
関連する病気
- 急性化膿性唾液腺炎
- 口腔乾燥症(ドライマウス)
参考文献