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急性気管支炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

急性気管支炎の概要

急性気管支炎は、気管支と呼ばれる気道に急性の炎症が生じる病気です。気管支は、空気を肺に運ぶための管であり、この部分がウイルスや細菌、その他の刺激物によって炎症を起こすと、咳や痰、呼吸の苦しさなどの症状が現れます。通常、急性気管支炎は一時的なもので、適切な治療や対策を行うことで数週間以内に改善することが多いです。
急性気管支炎は風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症に関連して発症することが多く、寒い季節や乾燥した環境で特に発生しやすくなります。また、喫煙や大気汚染などの環境要因が病気を引き起こすリスクを高めることがあります。急性気管支炎は比較的軽い症状で終わることが多いものの、高齢者や免疫力の低い人、既存の呼吸器疾患を持つ人では重症化することもあるため、注意が必要です。

急性気管支炎の原因

急性気管支炎の主な原因は、ウイルス感染によるものです。しかし、他にもいくつかの原因が考えられます。ここでは、急性気管支炎を引き起こす代表的な要因を紹介します。

1. ウイルス感染

急性気管支炎の大半は、風邪やインフルエンザを引き起こすウイルスが原因です。特に、ライノウイルス、コロナウイルス(新型を含む)、インフルエンザウイルスなどがよく関与しています。ウイルスに感染すると、気管支の粘膜が炎症を起こし、咳や痰が増えるという症状が現れます。ウイルス性の急性気管支炎は抗生物質では治療できませんが、適切なケアを行うことで自然に回復することが多いです。

2. 細菌感染

急性気管支炎の原因としては、細菌感染が挙げられることもありますが、これはウイルス感染に比べると少ないです。細菌感染が原因の場合、症状が長引き、より重篤な呼吸器合併症が発生することがあります。代表的な細菌としては、マイコプラズマクラミジア肺炎球菌などが知られています。細菌性の場合、抗生物質による治療が必要となります。

3. 大気汚染や化学物質

喫煙や大気汚染、職場での化学物質への曝露も急性気管支炎の原因となります。特に、たばこの煙は気管支の粘膜を刺激し、炎症を引き起こしやすくします。また、工場や建設現場などでの化学物質への長期的な曝露も気管支の炎症を誘発し、急性気管支炎を引き起こすリスクを高めます。

4. アレルギー

アレルギー反応によっても急性気管支炎が引き起こされることがあります。特に、花粉やハウスダスト、ペットの毛などに対するアレルギーがある人は、これらのアレルゲンに触れることで気道が炎症を起こし、急性気管支炎の症状が現れることがあります。

急性気管支炎の前兆や初期症状について

急性気管支炎の前兆や初期症状は、風邪やインフルエンザの症状に似ています。これらの症状が現れた場合、早めに対処することが大切です。

1. 乾いた咳

急性気管支炎の初期症状として、乾いた咳がよく見られます。この段階では痰はあまり出ず、喉の奥がイガイガしたり、刺激を感じたりすることがあります。乾いた咳は、特に夜間や朝方に悪化することが多く、これが気道の炎症のサインです。

2. 痰を伴う咳

病気が進行すると、乾いた咳から痰を伴う咳に変わることがあります。これは、気管支内で粘液が増え、体が異物を排出しようとする反応です。痰の色は透明、黄色、または緑色になることがあり、時には血が混じることもあります。特に黄色や緑色の痰が出る場合は、細菌感染の可能性もあるため、医師の診察を受けることが勧められます。

3. 呼吸のしにくさ

急性気管支炎の初期段階では、喉や気管支に炎症が広がり、気道が狭くなることで呼吸が苦しくなることがあります。特に、深呼吸をすると胸に圧迫感や痛みを感じることがあり、日常的な呼吸が困難になることもあります。

4. 発熱

ウイルスや細菌感染が原因の場合、発熱が見られることがあります。特に、インフルエンザや細菌性の急性気管支炎では、38℃以上の高熱を伴うことが多いです。軽度の発熱でも、長期間続く場合には注意が必要です。

5. 倦怠感

急性気管支炎では、体全体に倦怠感や疲労感を感じることがあります。これは、体が感染症と戦っているためにエネルギーを消耗しているためです。倦怠感は、他の風邪やインフルエンザの症状と共に現れることが多く、特に発熱を伴う場合には症状が悪化することがあります。

急性気管支炎の検査・診断

急性気管支炎の診断は、主に症状の評価と問診によって行われますが、必要に応じて追加の検査が行われることもあります。以下に、主な検査方法を紹介します。

1. 問診と身体検査

医師は、患者の症状や病歴について詳しく尋ねます。特に、咳の持続期間や痰の色、呼吸の状態、発熱の有無について確認します。また、胸部の聴診を行い、気管支に炎症や異常な音がないかを確認します。

2. 胸部X線検査

急性気管支炎が疑われる場合、胸部X線検査を行うことがあります。これにより、肺炎や他の呼吸器疾患との区別ができます。急性気管支炎では通常、X線画像に特異的な異常は見られませんが、肺炎などの合併症を除外するために重要です。

3. 痰の検査

痰の検査は、特に細菌感染が疑われる場合に行われます。痰を採取して、細菌やウイルスの存在を確認することで、適切な治療法を決定することができます。

4. 血液検査

血液検査では、白血球数C反応性タンパク質(CRP)のレベルを調べ、体内での炎症や感染の程度を確認します。白血球数が増加している場合は、細菌感染が進行している可能性があります。

急性気管支炎の治療

急性気管支炎の治療は、症状の緩和と感染の原因に応じて行われます。特にウイルス性の場合は、自然に回復することが多いため、対症療法が主になります。

1. 休息と水分補給

急性気管支炎の最も重要な治療法は、十分な休息水分補給です。体が感染と戦っている間は、無理をせずに安静に過ごすことが推奨されます。また、水分を十分に摂取することで、痰が薄くなり排出しやすくなります。

2. 咳を和らげる薬

咳がひどい場合、咳を和らげるための鎮咳薬去痰薬が処方されることがあります。鎮咳薬は、夜間の咳による睡眠の妨げを防ぐのに役立ちます。また、去痰薬は痰を薄くし、排出を助ける効果があります。

3. 解熱剤や鎮痛剤

発熱や体の痛みを緩和するために、解熱鎮痛剤(例:アセトアミノフェンやイブプロフェン)が使用されることがあります。これにより、発熱や痛みが軽減され、体調が改善されることが期待できます。

4. 抗生物質

急性気管支炎の原因が細菌感染であると確認された場合には、抗生物質が処方されます。しかし、ウイルス性の急性気管支炎には抗生物質は効果がないため、必要な場合にのみ使用されます。抗生物質の適切な使用が重要であり、不必要な使用は耐性菌の発生を促進する可能性があります。

5. 吸入療法

呼吸が苦しい場合には、気道を広げるための吸入薬(例:ベータアゴニスト)が使用されることがあります。これにより、気管支の収縮が軽減され、呼吸が楽になります。特に、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ患者には有効です。

急性気管支炎になりやすい人・予防の方法

急性気管支炎になりやすい人

  • 喫煙者: 喫煙は気管支を刺激し、炎症を引き起こしやすくします。たばこの煙は、急性気管支炎の発症リスクを高めるだけでなく、症状を悪化させる要因でもあります。
  • 高齢者: 年齢が上がると免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。そのため、急性気管支炎にかかるリスクが高まります。
  • 既存の呼吸器疾患を持つ人: 喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ人は、気道が弱いため、急性気管支炎を発症しやすくなります。
  • 免疫力が低下している人: 風邪をひきやすい、疲れやすいなど、免疫力が低下していると、ウイルスや細菌に感染しやすくなります。
  • 予防の方法

    • 禁煙
      たばこは急性気管支炎の最大のリスク要因の一つです。禁煙することで、気管支の健康を保ち、炎症を引き起こすリスクを大幅に減らすことができます。
    • 手洗いと衛生管理
      ウイルスや細菌による感染を防ぐためには、こまめな手洗いが有効です。特に、外出後や食事の前に手を洗う習慣を身に付けましょう。また、咳やくしゃみをする際には、ティッシュや肘で口を覆うことで、周囲への感染拡大を防ぐことができます。
    • 予防接種
      インフルエンザや肺炎などの予防接種を受けることで、急性気管支炎の発症リスクを下げることができます。特に、高齢者や慢性疾患を持つ人には予防接種が強く推奨されます。
    • 免疫力の強化
      十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけることで、免疫力を強化し、感染症に対する抵抗力を高めることができます。特にビタミンCやビタミンDを含む食品を積極的に摂取することが勧められます。

    急性気管支炎は一時的な疾患であることが多いですが、適切な対策を講じることで症状を軽減し、再発を防ぐことが可能です。

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