

監修医師:
前田 広太郎(医師)
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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。
目次 -INDEX-
百日咳(こども)の概要
百日咳は、特に1歳未満の乳児において高い罹患率と重症化するリスクのある呼吸器感染症で、百日咳菌(ボルデテラ・パーツシス)という細菌によって引き起こされます。主に飛沫感染によって伝播し、その感染力が最も高まるのは初期のカタル期とされ、風邪のような症状がみられ他者への感染性が最も高いとされます。潜伏期間は平均で7〜10日、最長21日程度とされています。病歴・遺伝子検査などで診断し、治療は抗菌薬の投与を行います。ワクチン接種による予防・重症化リスク低減が可能です。百日咳(こども)の原因
百日咳菌(ボルデテラ・パーツシス)というグラム陰性桿菌によって引き起こされます。主に飛沫感染によって伝播します。気道上皮に菌が付着することにより、定着・増殖し、毒素や菌体から分泌される病原因子が呼吸器症状を引き起こします。乳幼児百日咳の感染源は75%が家族内感染で、特に母親からの感染が多いとされていますが、流行期では集団感染などが起こりえます。百日咳(こども)の前兆や初期症状について
年齢や百日咳ワクチンの摂取状況により、症状が変わります。典型的な百日咳は、ワクチン未接種の小児でよくみられ、三つの病期に分類されます。1)カタル期(1〜2週間):鼻汁、くしゃみ、軽い咳などの上気道炎症状が現れ、徐々に咳嗽が増してきます。6ヶ月未満の乳児では非典型的な症状となり、通常より短いカタル期に続いて徐脈や無呼吸などが出現する場合があります。
2)痙咳期(2〜8週間):5~6回ほどの激しい連続性の咳発作が特徴であり、連続した咳嗽の後に息を吸い込む際の「笛のような吸気音(whoop)」が見られます。咳による嘔吐やチアノーゼを呈する場合もあります。夜間に症状が目立ち、1~3週の経過で増悪し、最長8週程度持続します。この段階が診断の契機になることが多いとされます。
3) 回復期(数週間〜数か月):咳は徐々に軽快してきますが、6週程度持続することもあり、この期間に他のウイルス感染症に罹患すると症状が再燃する場合があります。重篤な合併症として無呼吸、肺炎、肺高血圧症などがあり、まれですが痙攣(0.9%)や脳症(0.5%未満)などの神経学的合併症をきたす場合もあります。思春期以降では症状が軽く気づかれにくいとされており、遷延性咳嗽のみを呈する場合もあります。
百日咳(こども)の検査・診断
検査を実施する症状、状況の確認として、2週間以上続く乾性咳嗽、百日咳の特徴的発作性咳嗽・咳込み嘔吐・吸気性笛声・無呼吸、3週間以内の百日咳患者への暴露歴や流行の有無、などを確認します。乳児百日咳の感染源は多くの場合家族であり、特徴的症状だけでなく遷延性咳嗽も含めて家族内の症状も十分に問診する必要があります。発症後の時間経過によって検査を使い分けます。 培養検査は特異度が最も高い検査ですが、培養に7日間時間がかかること、検査感度は最大60%とやや低く、抗菌薬投与によっても感度が低下します。遺伝子検査は、鼻咽頭ぬぐい液から百日咳菌DNAを検出する方法で、迅速性に優れ感度も高いです。抗原検査も同様に感度・特異度が高いとされていますが、他のボルデテラ属を検出する場合があります。血液検査では、リンパ球優位の白血球上昇(10000個/μL以上)があり、60000個/μL以上の高度白血球増加は重症化リスクを示唆します。血清診断では抗PT IgG抗体を測定しますが、ワクチン接種によっても抗体価が上昇することから、最終ワクチン接種から間隔が短いと解釈が難しい場合があります。他に百日咳菌IgA、IgM抗体も測定可能です。百日咳(こども)の治療
百日咳に対しては抗菌薬の投与が行われます。症状の改善と、除菌による二次感染予防を目的とします。診断が容易となる痙咳期にみられる特徴的症状は主に百日咳菌の毒素による症状と考えられているため、抗菌薬治療による症状の改善が期待できるのはカタル期のみとされています。痙咳期以降の抗菌薬治療は除菌による二次感染予防を目的とします。乳児期早期は合併症による重症化・死亡のリスクも高いことから原則入院治療が望ましいとされます。抗菌薬は第一選択としてマクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン)を使用します。いずれも消化器系の副作用が出現する場合があり、エリスロマイシンはやや頻度が高く、新生児期の肥厚性幽門狭窄症の発症頻度が高いとされています。新生児期にはクラリスロマイシンの投与は推奨されていません。他にもST合剤が選択されることもあります。百日咳に対して、確実に有効な支持療法や対症療法のエビデンスはありません。頻回の無呼吸や呼吸不全を呈した場合、人工呼吸器の管理となります。最重症例では交換輸血・白血球除去や体外式膜型人工肺(ECMO)などの集中治療が行われる場合もあります。百日咳(こども)になりやすい人・予防の方法
ワクチンによる予防や症状の軽減が期待できます。百日咳のワクチンは5種混合ワクチンの中に含まれています。生後2ヶ月から接種可能で、0歳代に3回(それぞれ20-56日あけて18ヶ月までに接種)、1歳~1歳半で1回の追加接種(3回目とは6ヶ月以上あけて接種)の合計4回接種を推奨されています。3種混合ワクチンにも百日咳ワクチンは含まれており、日本小児科学会は、3種混合ワクチンが学童期以降の定期接種に含まれていない現状を踏まえて、3種混合ワクチンの就学前(5~6歳)追加接種と、11~12 歳で2種混合に代えて3種混合ワクチンを追加接種することを推奨しています。生後2ヶ月未満の新生児においては、百日咳による死亡リスクが最も高く、致死率は約1%とされており、家族内感染を標準予防策で予防することが重要となります。また、妊娠中に百日咳ワクチンを含むTdapの接種により、母体からの移行抗体により新生児百日咳死亡が減少するという海外での報告がありますが、Tdapは本邦では未承認です。本邦では、妊娠27~36週の妊婦に対してのDPTワクチンが任意で接種されていますが、DPTワクチンの妊婦への使用経験は少ないため、有効性、安全性は十分に検討されていません。参考文献
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