監修医師:
高宮 新之介(医師)
肺高血圧症の概要
肺高血圧症は、肺血流量の過度な増加や肺の小動脈が狭くなって血流が流れにくくなることで、肺の小動脈の手前にある肺動脈(心臓から肺に血液を送る動脈)の血圧が高くなる状態が続く疾患です。
肺動脈を流れる血液は、全身を巡ってきた静脈血が心臓の右側にある右心房に入り、右心室へ移動し、肺動脈に送られてきたものです。
肺動脈の血圧の高い状態が続くと、心臓の右心室・右心房に負荷がかかります。負荷がかかった状態が続くことで、右心室・右心房が広がったままで元に戻らなくなります。
肺高血圧症が進行することで右心室・右心房の機能が低下し、全身の血液の流れが障害され血流不足になります。
肺高血圧症は慢性的な病態であり、また進行性であるため、適切な治療介入を行わなければ、症状が悪化し生命予後に影響を与える可能性があります。
肺高血圧症は、患者数がとても少ない疾患であり、日本では厚生労働省から指定難病として認定されています。なお、患者数は、女性が男性の2倍以上と言われています。
肺高血圧症は、第1群から第5群に分類されます。
第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
特発性PAH、遺伝性PAH、薬物・毒物誘発性PAH、各種疾患(強皮症や全身性エリテマトーデスなどの結合組織病、HIV感染症、門脈圧亢進症、先天性心疾患、住血吸虫症)に伴うPAH
第2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
左室収縮不全、左室拡張不全、弁膜疾患、先天性/後天性の左心流入路/流出路閉塞および先天性心筋症
第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、拘束性と閉塞性の混合障害を伴う他の肺疾患、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高所における慢性暴露、発育障害
第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
血液疾患(慢性溶血性貧血、骨髄増殖性疾患、脾摘出)、全身性疾患(サルコイドーシス、肺組織球増殖症、リンパ脈管筋腫症)、代謝性疾患(糖原病、ゴーシェ病、甲状腺疾患)、その他(主要塞栓、繊維性縦隔炎、慢性腎不全、区域性肺高血圧症)
肺高血圧症の原因
肺高血圧症は、第1群から第5群に分類されるため、それぞれの群に分けて原因を説明します。
第1群 肺動脈性肺高血圧症(PAH)
種々の原因によって、肺の小動脈が狭くなることで、肺血管の抵抗が上昇するために肺高血圧症をきたすと言われています。
第2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
上昇した左心系(左心房・左心室)圧が上がることで、肺静脈圧が上昇します。
第3群 肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
原疾患に関わらず、低酸素血症によって肺血管の収縮が生じ、それが長期化するとリモデリング(血管構造の変化)を引き起こします。
第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
血栓による肺動脈の狭窄や閉塞、末梢の微小血管障害も関与していると言われています。
第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
原因が不明で分類ができない疾患、第1群から第4群に該当しない疾患、第1群から第4群の原因のどれかが複合して限定できない疾患が含まれます。
肺高血圧症の前兆や初期症状について
肺高血圧症の特徴は、初期には自覚症状がなく、疾患が進行すると症状が出現してくることです。
- 労作時の息切れ、疲れやすさ、胸痛、動悸、失神、咳、喀血、声のかすれなどが見られます。
- 右心不全を伴うと、肝鬱血や腹部膨満感、食欲不振などの消化器症状が出現することがあります。
- 全身の血流が障害されるため、皮膚や爪の色が青紫色になったり、顔や下腿にむくみが出現します。
これらの症状が現れたら、循環器科または呼吸器内科を受診しましょう。
肺高血圧症の検査・診断
肺高血圧症の診断を行うためには、3ステップ(まずは診察、次にスクリーニング検査、最後に精密診断)を経て診断が確定されます。
診察
まずは肺高血圧症が疑われるかたや肺高血圧症を発症する可能性が高いかたに対し、問診で自覚症状を確認します。
そして、視診・触診・聴診などによって、顔や足のむくみ、心音や呼吸音を確認します。
診察において肺高血圧症が疑われた場合には、スクリーニング検査へ進みます。
スクリーニング検査
次にあげるスクリーニング検査などによって、肺高血圧症の疑いが強いかたを見つけ出します。
血液検査・尿検査
肺高血圧症の原因となる疾患の有無、心不全の程度を調べます。
心電図検査
心電図波形を見ることで、心臓のどこに負担がかかっているかわかります。また不整脈の有無や種類を見ることも可能です。
胸部レントゲン検査
心拡大の有無や程度、肺動脈の状態、肺の状態を確認します。
心エコー検査
超音波で心臓の大きさや形、動き、弁の様子、血液の流れなどを確認します。
動脈血ガス分析検査
動脈血の酸素濃度などを調べることで、肺で血液に酸素がきちんと供給されているかを確認します。
肺機能検査
息を吐く時の量や速さを調べることで、重症度を確認します。
胸部CT検査
心臓の状態や、肺動静脈の拡張などを確認することができます。
換気-血流シンチグラム検査
呼吸機能や血液の流れを調べるため、微量の放射性物質を吸入ないし静脈から投与します。
専用のカメラで放射性物質の肺での広がりを確認します。
精密検査
スクリーニング検査において、肺高血圧症の疑いが強いと判断された場合に、精密検査(カテーテル検査)を受けて診断が確定します。
重症度や分類の確認にはカテーテル検査が有効であり、特に確定診断が必要な場合に重要です。
先端に風船のついた特殊なカテーテルを、肘や手首、首の血管から心臓まで挿入します。
そして、肺動脈圧や右心系(右房・右室)の血圧や抵抗、1分間に心臓が送り出す血液の量などを直接測定します。
肺高血圧症の診断には、診断基準となる数値が決まっています。
肺高血圧症の分類を確定するには、スクリーニング検査の結果とカテーテル検査の結果を合わせて判断することがあります。
また、さらに別の検査を行い、肺高血圧症の分類を決定します。
肺高血圧症の治療
肺高血圧症の治療には次にあげる3種類の治療法があります。
肺高血圧症治療薬
狭くなった肺の血管を広げるための薬物療法です。
エンドセリン経路、一酸化窒素経路、プロスタサイクリン経路の3つの経路が存在するため、肺高血圧症の分類に合わせて、効果的に作用する薬剤を選択します。
一般療法
肺高血圧症によって現れる症状を予防・軽減するための治療法です。
抗凝固薬や抗血小板薬
肺血管内に血栓ができにくくするための薬物療法です。
利尿薬
体内に必要以上に貯まった水分を尿として排出することを促進します。
水分を排出することで、心臓や肺の負担を軽減します。
強心薬
心臓の収縮を助けます。
酸素吸入療法
肺高血圧症になると、体内の酸素運搬機能が低下し、全身の酸素が不足します。そのため、酸素吸入を必要とする場合があります。
リハビリテーション
状態が安定すれば、呼吸・運動におけるリハビリテーションを行い、生活を豊かにして行くことが可能です。
肺移植
物療法では効果が現れない方に行われる最後の手段となる治療法です。
移植には、脳死肺移植と生体肺移植があります。
肺高血圧症になりやすい人・予防の方法
肺高血圧症は原因不明なことが多いです。そのためなりやすい人をあげることは困難です。
肺高血圧症が疑われた場合は、まずは医師の診察を受けるようにしましょう。
診断された場合には、症状を悪化させないために過度の運動を避けたり、労作を制限する必要があります。
また、風邪やインフルエンザにかからないように感染症予防に取り組むことも重要です。
医師と相談しながら、治療を継続することが重要です。