監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
急性中耳炎の概要
急性中耳炎は、音を伝える役割をもつ中耳(鼓膜の内側にある空間)に急性の炎症が生じる病気で、乳幼児や小児に多く見られます。中耳内に細菌やウイルスが感染し、炎症を引き起こすことによって発症します。これらの感染が鼻や喉に広がり、鼻と中耳をつなぐ管を通じて中耳に細菌やウイルスが侵入することで、液体がたまり、炎症を引き起こします。耳管が短く、水平に近い角度である乳幼児は、感染が中耳に広がりやすく、急性中耳炎を発症しやすい傾向があります。
主な症状は、耳の痛み、発熱、耳から膿の流出(耳漏)、難聴などが挙げられます。耳の痛みは、夜間や横になったときに強くなることが多く、子どもが耳を引っ張る、泣き続けるといった行動が見られることがあります。また、鼓膜が破れて膿が外耳道に漏れ出すと、耳垂れが生じます。
治療では、細菌感染が確認された場合、抗菌薬が使用されます。その場合の抗菌薬の投与期間は通常5日間で、症状が改善しても指示された期間中は服用を続けることが重要です。(出典:日本耳科学会「小児急性中耳炎」)
軽症の場合は投与しない場合もあります。また、痛みや発熱を和らげるために鎮痛薬や解熱薬が使用されることもあります。
急性中耳炎は、適切な治療を受ければ通常は数日で回復しますが、治療が遅れると慢性化したり、聴力に影響を与えたりする可能性があるため、早めの受診と適切な治療が必要です。
急性中耳炎の原因
急性中耳炎は、中耳に炎症が生じる疾患であり、その発症には主に「感染要因」と「解剖学的要因」が関与しています。乳幼児や小児に多く見られ、これらの要因が重なることで中耳に急性の炎症が引き起こされます。
急性中耳炎の最も一般的な原因は、細菌やウイルスによる上気道感染です。これらの感染症により、細菌やウイルスが鼻や喉から耳管を通じて中耳に侵入します。耳管は通常、中耳内の圧力を調整し、液体を排出する役割を果たします。しかし、感染により耳管が閉塞すると、中耳に液体がたまり、細菌やウイルスが増殖しやすくなるのです。
急性中耳炎の主な病原体は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)の3つの細菌です。
また、ウイルス性の上気道感染(風邪など)に続き、細菌感染が重なることで中耳炎が発症するケースも多くなっています。
乳幼児や小児が急性中耳炎になりやすいのは、構造的な特徴が理由に挙げられます。成人と比べて耳管が短く、水平に近い角度のため液体がたまりやすく、耳管が詰まりやすいのです。耳管の機能自体も未熟のため、鼻や喉からの感染が中耳に広がりやすく、急性中耳炎を発症するリスクが高まります。
また、急性中耳炎の発症には生活習慣や環境も影響を与えます。たとえば受動喫煙は、粘膜がもつ異物を排除する機能を弱め、感染リスクを高めるため中耳炎を発症しやすくなります。受動喫煙以外にも、保育園や幼稚園などでの集団生活、仰向けでの授乳などが原因として挙げられます。
急性中耳炎の前兆や初期症状について
急性中耳炎の一般的な初期症状は、耳の痛みや聞こえにくさ、発熱、耳漏です。痛みは突然発生し、夜間や横になったときに強くなる傾向があります。痛みが強い場合、子どもが泣き続けたり、眠れなくなることがあります。
また、中耳に液体がたまることで、音が伝わりにくくなるため耳が詰まったように感じ、聞こえが悪くなることがあります。それに伴い、テレビの音量を上げたり、呼びかけに反応しにくくなったりといった行動の変化が見られることもあります。
発熱も急性中耳炎の初期症状の一つで、細菌感染が原因の場合に高熱が出ることが多いです。発熱に伴い、ぐったりする、食欲が減る、元気がなくなるといった症状が生じることもあります。
耳漏は、中耳内にたまった膿が鼓膜を圧迫し、鼓膜が破れて膿が外耳道に漏れ出すことで起こります。
急性中耳炎の検査・診断
急性中耳炎の診断は、患者や保護者からの問診から始まります。耳の痛み、発熱、耳漏、難聴などの症状の有無や、いつ発症したかなどを確認します。言葉を発さない子どもでは、耳を頻繁に引っ張る、こする、夜泣きが増えるといった行動が見られるかどうかもポイントです。また、直近で風邪をひいたことがなかったかの確認も行います。
問診が終了したら、耳の状態を確認します。耳鏡と呼ばれる道具を用いて、鼓膜の色や鼓膜の膨らみ、陥没の有無などの確認が必要です。急性中耳炎では、鼓膜が赤く充血している、腫れているなどの異常が見られることが多いです。耳鏡検査で中耳に液体が溜まっていたり、炎症を示すような所見が見られた場合は、ほぼ診断が確定します。
中耳の液体が溜まっているかどうかは重要な所見のため、耳鏡検査の他に「ティンパノメトリ―」と呼ばれる検査を行うことがあります。
ティンパノメトリーは、中耳内の圧力の調整や鼓膜の動きを測定する検査です。この検査は、空気圧を変化させながら反応を測定することで、中耳に液体がたまっているかどうかを確認します。
急性中耳炎の治療
急性中耳炎の治療は、一般的に抗菌薬の投与が行われ、重症度に応じて使用する薬は使い分けられます。5日間の投与が原則で、原因菌を排除するために、症状が改善した後も処方された期間はきちんと服用し続けなければなりません。
軽症の急性中耳炎では、必ずしも抗菌薬の服用は必要ありません。3日間は抗菌薬の投与を行わずに経過を観察して、改めて診察および検査したうえで必要かどうかを判断するのが望ましいです。
(出典:日本耳科学会「小児急性中耳炎」)
理由としては、無用な投与によって耐性菌が発生するのを防ぐことと、患者が抗菌薬による副作用を避けられるためです。
また、抗菌薬とは別に、耳の痛みや発熱を伴うことがあるため、これらの症状を緩和するために鎮痛薬や解熱薬を処方することもあります。
中耳に液体や膿が大量にたまっている場合、鼓膜に小さな切開を入れて、中耳内にたまった膿や液体を排出する手術である「鼓膜切開術」が行われることがあります。
急性中耳炎になりやすい人・予防の方法
急性中耳炎は、耳管の構造や未発達な機能面の理由から、成人よりも乳幼児や小児がなりやすいです。その中でも、集団生活を送る子どもや家庭内に喫煙者がいる子ども、仰向けでの授乳を行っている子どもは、急性中耳炎になるリスクが高いといえます。また、子ども・成人にかかわらず、アレルギーをもつ人も急性中耳炎になりやすいです。
予防策としては、手洗いやうがいなどの基本的な感染予防対策に加え、受動喫煙の回避や授乳姿勢の工夫が挙げられます。
また、原因菌として多い肺炎球菌やインフルエンザのワクチン接種も重要です。肺炎球菌のワクチン摂取は、米国の急性中耳炎診療ガイドラインでも強く推奨されています。
加えて、定期的な健康診断を受けて急性中耳炎を早期に発見することも重症化を防ぐために重要です。耳の状態や聴力のチェックを定期的に行い、早めに適切な治療を受けてください。