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難聴
長友 孝文

監修医師
長友 孝文(医師)

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浜松医科大学卒業。自治医科大学附属病院、東京大学医科学研究所などで勤務の後、2022年に池袋ながとも耳鼻咽喉科を開院。院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。

難聴の概要

難聴とは、音を聞き取る能力が低下する状態を指します。軽度から重度、一過性のものから持続性のもの、悪化していくものまで症状はさまざまです。 難聴は、原因や発症部位に応じて分類されます。主に外耳、中耳、内耳、聴神経、脳における障害が原因で発生します。

難聴は日常生活に大きな影響を与えます。他人の話しかけが聞き取れないコミュニケーション困難、それによる社会的孤立、認知症のリスク、若い世代では学習障害や仕事のパフォーマンス低下などが起こります。

難聴の原因

音を聞く仕組みは、音を拾い鼓膜に伝える「外耳」、外耳から伝わる音を増幅する「中耳」、中耳の音を電気信号に変え、神経を通して脳に伝える「内耳」の3つで成り立ちます。 これらのうち、どこか1つでも異常があれば音が伝わらない、または伝わりにくくなり、難聴になります。 難聴は、外耳〜中耳が原因の「伝音難聴」 内耳や蝸牛神経、脳が原因の「感音難聴」に分けられます。治療法や対策が異なるため、早期の原因究明が必要です。 どちらにも原因がある「混合性難聴」もあります。

外耳が原因の難聴

外耳道や耳介の異常で、音が中耳や内耳に伝わりにくくなることが原因です。 耳垢の詰まり、異物の混入は代表的な原因です。耳垢の詰まりは高齢者に目立つ傾向がありますが、外耳が狭く耳垢が外に出にくい、幼児から成人もリスク対象です。 外耳道が詰まると音の通り道を塞いでしまい、音波が正常に鼓膜に届きにくくなります。外耳道の炎症や感染症(外耳炎)も、音の伝達を妨げることがあります。

先天的な外耳道形成不全や耳介の異常が原因のことがあります。 耳介や外耳道に形成不全があると、音を効率的に外耳に集めることができず、聴力低下が生じます。 外耳性の難聴は発見しやすく、適切な治療を行えば良好な結果が得られやすいのが特徴です。

中耳が原因の難聴

中耳の主要な構造は、鼓膜、3つの耳小骨(ツチ骨、きぬた骨、アブミ骨)で、これらがすべて正しく機能しないと外耳から届いた音の増幅ができません。

代表的な原因は「中耳炎」です。中耳炎は中耳の炎症や感染症で、主に子どもが発症します。耳と鼻をつなぐ耳管から細菌やウイルスが侵入するのが原因です。早急に処置しなければ慢性化し、鼓膜にうみが溜まる難治性難聴になりかねません。 鼓膜の破損や穿孔も、正しく中耳に音が伝わらない原因です。

耳小骨は外耳からの音を震わせ、増幅するはたらきがあります。耳小骨が固着して動かなくなる「耳硬化症」を発症すると、音を増幅することができなくなり、難聴の原因になります。 耳管が炎症などで狭くなる「耳管狭窄症」も難聴の原因です。耳管が狭くなると中耳の圧力が異常を起こし、鼓膜や耳小骨の動きに悪影響を起こします。先天性の中耳奇形、耳の軟骨組織を破壊しながら悪化する中耳真珠腫も、難聴の原因になります。

これらの症状は手術や薬物療法を行い、適切な治療によって聴力が回復する可能性があります。中耳真珠腫など、長期的な治療が必要な疾患もあります。

内耳~脳が原因の難聴

内耳にある蝸牛で音は電気信号に書き換わり、神経を通して脳の聴覚野に伝えられます。 難聴の中では特に高度な治療が必要なことがあり、基幹病院への転院も必要です。

蝸牛の中にある有毛細胞という聴毛が一部剥がれ落ちる内耳性難聴が、代表的な原因です。加齢、大きな音が続く環境などで有毛細胞のダメージが蓄積し、徐々に難聴が進行します。

原因不明の「突発性難聴」も、内耳に原因があると考えられます。原因ははっきり分かっていませんが、内耳の血流障害や、ウイルス感染が原因と考えられます。 突発性難聴は、ある日突然聞こえなくなる疾患です。片耳が難聴を起こすことが多く、聞こえにくさは個人差があります。耳が詰まるような感覚から耳鳴り、めまい、完全に聴力を失うまで、症状はさまざまです。 発症から1〜2週間以内に治療を始めると1/3の確率で完治します。完治しなくても残り1/3の患者さんは改善が見込めます。

聴神経、脳の聴覚野が損傷されることも難聴の原因です。 聴神経が神経腫瘍、多発性硬化症などの神経疾患がこの通路を妨げることがあります。脳の聴覚中枢に病巣があると、音の認識、解釈にトラブルが起こり、難聴が発生します。

難聴の前兆や初期症状について

難聴の前兆や初期症状は、軽微な変化から始まるのが特徴です。会話の際に相手の言葉が聞き取りにくくなることが典型的な初期症状です。 特に、背景音がある場所や複数人が話している状況だと、より聞き取りにくくなります。テレビやラジオの音量を以前よりも上げる必要があると感じることも、難聴のサインです。電話の声が聞き取りにくい、周囲の音がこもって聞こえるといった症状も見られます。

これらはご高齢の方によく見られる症状ですが、騒音環境にいる方や感染症、ストレスなどが原因で、乳幼児から壮年の方まで幅広い人に発症リスクがあります。耳鳴り、耳の圧迫感などを併発することもあります。 前兆なく、突発的に片耳が聞こえなくなる(突発性難聴)こともあります。

難聴の診断、治療は原則、耳鼻咽喉科が行います。周囲の人に難聴の疑いを指摘された、音が聞こえにくいなど、少しでも耳に違和感があれば、早急に耳鼻咽喉科を受診しましょう。

難聴の検査・診断

難聴の検査・診断は脳梗塞、メニエール病など除外診断を行い、より早く的確に原因を把握することが求められます。 患者さんの病歴や症状の聞き取りを行い、まずは外耳道や鼓膜の異常を確認します。耳鏡検査で検査し、外耳の詰まりや化膿、耳だれ、異物混入などを確認します。

同時に聴力検査を行います。ヘッドホンを使って様々な周波数、音量の音を聞かせ、その音が聞こえる最小の音量を測定します。どの程度の聴力低下があるかを定量的に評価します。 中耳炎を疑う場合は、ティンパノメトリーが行われることがあります。中耳の機能を評価するための検査で、鼓膜、外耳、中耳の動きを測定します。 原因不明の難聴、新生児や小児の難聴、内耳や脳を疑う場合は、聴性脳幹反応(ABR)や耳音響放射(OAE)などの特殊な検査を行います。これらの検査で内耳や聴神経の機能を評価します。 CTやMRIなどで病巣を探すこともあります。

難聴の治療

原因に合わせて治療を行います。耳垢が詰まる、異物が外耳にあるなどの場合は取り除くことで改善します。急性中耳炎の場合は抗生剤などを投与し、原因の細菌を減らせば改善することがあります。滲出性中耳炎や慢性中耳炎まで進行すると鼻の治療に併せ、耳管通気、鼓膜チューブ挿入術などを行います。

真珠腫性中耳炎、耳硬化症、鼓膜や耳小骨の機能回復などは外科手術を行います。 人工内耳を埋め込み、聴覚の改善を促すこともあります。 重度の難聴には補聴器を用いることがあります。補聴器は医師の管理下で、正しく調整したものを使用すると聴覚の改善につながります。 初期の突発性難聴はステロイド剤の内服、点滴で改善することがあります。血管拡張薬、代謝改善薬、ビタミン製剤などの内服、点滴投与を行います。高気圧酸素療法、星状神経節ブロックなどの治療を行うこともあります。

難聴になりやすい人・予防の方法

高齢者、中耳炎を起こしやすい幼児ムンプスウイルスなどウイルス性感染症騒音が激しい場所に長く留まる人は難聴リスクが高く、特に注意が必要です。アデノイド、扁桃が大きい人は滲出性中耳炎のリスクが高く、完治するまで治療を続ける必要があります。 妊娠中に風疹、サイトメガロウイルスなどに感染すると、子どもに先天性難聴が現れることがあります。

大音量でテレビや音楽を楽しむのは避け、騒音環境では耳栓をする、静かな場所で安静にする習慣をつける、規則正しい睡眠や栄養管理、適度な運動は加齢性難聴を遅らせることができます。併せて禁煙を行いましょう。 先天性難聴は、ウイルス感染症で引き起こされます。妊娠中はマスク着用、手洗いを習慣付け、三密(密集、密接、密閉)をできるだけ避けましょう。風疹抗体がなく妊娠予定のある方は風疹麻疹ワクチンを接種すると、高い予防効果があります。 遺伝子が原因の難聴は一定確率で発現し、避けることは困難です。出生後に難聴が確認されたら、補聴器や人工内耳などの処置を行います。

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