監修医師:
大坂 貴史(医師)
扁桃炎の概要
一般に扁桃炎は、口の奥、口蓋垂 (のどちんこ) の左右に見える口蓋扁桃という場所で炎症が起きている状態のことを指すことが多いです。近くに咽頭があり共通することも多いため、今回は一部咽頭炎も含めて解説します。
扁桃炎は小児の病気と考えられがちですが大人も発症することがあります (参考文献 1) 。原因として溶連菌が有名ですが、実はウイルスの症例が多いことが知られています (参考文献 1) 。溶連菌感染症が原因である人の割合は、子どもでも3割以下、大人だともっと低いことが知られています (参考文献 2)
溶連菌感染症をはじめとした細菌が原因の扁桃炎症状であれば抗菌薬の効果が期待できますが、ウイルス性であれば有効な治療がないことも多いです。ウイルスが原因となる扁桃炎には抗菌薬によって有害な反応が出るものがあり (参考文献 3) 、抗菌薬の使用には専門家による判断が必要です。
扁桃炎の原因
溶連菌が原因として有名ですが、実はウイルス感染によるものの方が多いとされています (参考文献 1) 。溶連菌感染によるものである咽頭炎・扁桃炎の割合は、小児で 15-30%、大人では 5-10% とされています (参考文献 2)。原因となるウイルスには色々ありますが、EBウイルスやサイトメガロウイルス感染によって発症する伝染性単核球症には扁桃炎の症状があります (参考文献 1) 。他にも有名なものだとアデノウイルスで咽頭炎・扁桃炎になることがあります (参考文献 1, 2) 。
扁桃炎の原因となる感染症の多くは飛沫感染や接触感染が主な感染経路です。EBウイルスやサイトメガロウイルスによる伝染性単核球症は、未感染の思春期以降の人がウイルスを排出している人とキスをすることで感染する場合が多いので Kissing disease と呼ばれることもあります (参考文献 3)。
扁桃炎の前兆や初期症状について
原因となる病原体によって様々ですが、ここでは先ほど取り上げた溶連菌、EBウイルスとサイトメガロウイルス (伝染性単核球症) 、アデノウイルスらによる溶連菌感染症の初期症状について説明します。
溶連菌感染症では突然の発熱に加えて全身倦怠感、咽頭痛が現れます (参考文献 4) 。口蓋扁桃に白いゴミのようなもの (白苔) がついたり、口蓋垂 (のどちんこ) の前あたりにポツポツと小さな出血斑が見られたり、苺舌といって舌がイチゴのようになることがあります (参考文献 4) 。猩紅熱 (しょうこうねつ) では発熱後1~2日程度で体幹に赤いポツポツができたり、体幹が日焼けしたような見た目になったりして、腋の下や鼠径部は紙やすりのような感触になることがあります (参考文献 4)。
伝染性単核球症はEBウイルスやサイトメガロウイルスが原因となる感染症で、潜伏期間は4~6週間と長いです。咽頭や扁桃の炎症によるのどの痛みに加えて、リンパ節が腫れたり、上肢や体幹に発疹が出たりします (参考文献 3) 。自覚症状として感じるかは別問題ですが、肝臓や脾臓が腫れることも特徴の一つです (参考文献 3) 。
アデノウイルスによる咽頭や扁桃の炎症は、咽頭結膜熱の症状として知られ、この咽頭結膜熱は一般に「プール熱」とよばれることが多いです。症状は発熱から始まり、全身症状としては頭痛、全身倦怠感、食欲不振が現れ、のどの痛みや、目の症状として結膜充血や目の痛み、目やにが多くなるといった症状が現れます (参考文献 5)。
受診先ですが、お近くの小児科や内科を受診するのが良いかと思います。
扁桃炎の検査・診断
扁桃炎自体は、診察する医師が直接喉の奥を目で見て確認します。先述の通り、扁桃炎の原因となりうる細菌やウイルスによって他の部位にも症状が出ることがあるので、詳細な問診や身体診察によって可能性の高い病原体を探ります。
例えば溶連菌による扁桃炎の診断に用いられる「センタースコア」には次のような項目があり、該当する項目が多いほど溶連菌感染症である可能性が高いことが知られています (参考文献 6)。その点数によって、溶連菌の検査・治療をしない、溶連菌の検査をして結果に応じて溶連菌に効く治療を始める、検査なしでも溶連菌への治療を開始するなどと、対応が変わってきます(参考文献 6) 。
- 発熱がある
- 咳がない
- 扁桃に滲出物が付着している、または腫れている
- 首の前のリンパ節が腫れていて痛い
扁桃炎の治療
溶連菌感染症では抗菌薬による治療をしますが、伝染性単核球症や咽頭結膜熱では有効な治療がないため対症療法をしつつ、経過観察となります (参考文献 3, 4, 5) 。
なお、咽頭炎・扁桃炎全体に占める溶連菌感染症の割合は小児で 15-30%、大人では 5-10% とされており (参考文献 2)、ウイルスが原因のことも多いため、抗菌薬の効果が期待できるような症例はそこまで多くないというのが実情です。抗菌薬は細菌に対する薬剤であり、全く別の病原体であるウイルスには効果がありません。
また、溶連菌感染症に対して使うペニシリン系の抗菌薬を伝染性単核球症の患者に対して投与した際には、抗菌薬に対する身体の反応として高率に皮疹が出ます (参考文献 3)。このようなことから扁桃炎症状のある患者に安直に抗菌薬を処方することは危険とされています。
扁桃炎になりやすい人・予防の方法
扁桃炎は感染症ですから、感染した人が近くにいる環境や、多くの人が集まり接触感染や飛沫感染のリスクが高い環境は発症のリスクとなります。
伝染性単核球症は思春期以降の未感染者とウイルス排出者の間での唾液を介した感染が主な感染ルートなので (参考文献 3)、初めてパートナーができた場合には発症のリスクがあるといえるかもしれません。
※EBウイルスに感染したことがあるか否かは血液中の抗体を測定すれば把握できますが、思春期より前の感染では症状が出ないことが多いため、検査なしで自分がEBウイルスやサイトメガロウイルスに感染したことがあるか否かを判断することは難しいと思います (参考文献 3)。
咽頭結膜熱は主要な症状が消退した後2日を経過するまで出席停止となるので、周りに感染を広げないためにも自宅でしっかりと療養しましょう (参考文献 5)。
予防のためには手洗いなどの手指衛生や、マスクの着用などの基本的な感染対策が有効となります (参考文献 3, 4, 5)。
COVID-19 (新型コロナ感染症) ではアルコールによる手指衛生が有効だったこともあり、その完便さも含めてアルコール消毒だけで済ませてしまう方もいるかもしれませんが、しっかりと石けんと水道水を使って手を洗いましょう。
参考文献
- 1.Takács AT et al. Diagnosis of Epstein-Barr and cytomegalovirus infections using decision trees: an effective way to avoid antibiotic overuse in paediatric tonsillopharyngitis. BMC Pediatr. 2023 Jun 17;23(1):301.
- 2.Bisno AL. Acute pharyngitis. N Engl J Med. 2001 Jan 18;344(3):205-11.
- 3.国立感染症研究所. 伝染性単核球症
- 4.国立感染症研究所. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
- 5.国立感染症研究所. 咽頭結膜熱とは
- 6.Fine AM, et al . Large-scale validation of the Centor and McIsaac scores to predict group A streptococcal pharyngitis. Arch Intern Med. 2012 Jun 11;172(11):847-52. doi: 10.1001/archinternmed.2012.950. PMID: 22566485; PMCID: PMC3627733.