監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
間質性肺炎の概要
肺胞の周りには、間質と呼ばれる壁があります。
間質性肺炎は、間質に起こる慢性的な炎症や、線維化を特徴とする病態です。線維化が起こるため、肺線維症とも呼ばれます。
間質性肺炎では、免疫細胞が肺の間質に集まり、炎症を起こします。さらに、コラーゲンなどの線維質が増加し、線維化(硬化)が進行します。
間質はとても薄く、その中は毛細血管が網の目のように張り巡らされており、その毛細血管を流れる血液に酸素が取り込まれます。炎症細胞や線維の増加によって、肺胞隔壁が厚くなったり壊れたりすることで、毛細血管への酸素の取り込みが妨げられ、低酸素血症や呼吸困難が生じます。
肺が本来持つ柔軟性が失われるため、普通の呼吸も困難になることがあります。
間質性肺炎は大きく二つのグループに分けられます。
一つは原因が不明とされる【特発性間質性肺炎(IIPs)】です。主要な6つの病型、まれな2つの病型、および分類不能型に分類されます。
もう一つは【二次性間質性肺炎】です。原因のある間質性肺炎で、関節リウマチや全身性強皮症などの膠原病、職業性の粉塵吸入、薬剤反応など、外因的な要因によって発症します。
間質性肺炎は、原因や病型によって治療法や予後に個人差がありますが、進行を抑えるためには早期の診断と、適切な管理が必要です。医療機関の定期的なフォローアップとともに、患者さん自身も症状の変化に注意を払い、この複雑な病気への対応が求められます。
間質性肺炎の原因
間質性肺炎にはさまざまなタイプが存在し、原因も多岐にわたります。
間質性肺炎の原因は特定できないものが多いとされていますが、以下では、原因不明の特発性間質性肺炎(IIPs)と、原因のある二次性間質性肺炎に分けて解説します。
特発性間質性肺炎(IIPs)
特発性間質性肺炎(IIPs)は、原因が特定されていない間質性肺炎の総称です。原因不明であるものの、遺伝的要因や環境因子が複合的に関与していると考えられています。
原因候補遺伝子はいくつかあるものの、それらが間質性肺炎の原因だとは証明されていないようです。
また、IIPsのなかでも特発性肺線維症(IPF)は、肺胞上皮細胞が繰り返す損傷と修復、治癒過程の異常が主たる病因・病態と考えられていますが、原因はわかっていません。
IPFは、国の指定難病の一つであり、IPFの発症割合は、IIPsの約80〜90%といわれています。
さらに、喫煙や環境因子への曝露もIPFの危険因子と考えられています。IPFは、50歳以上の喫煙者の男性に多い傾向にあります。
環境因子に反応しやすい体質は遺伝する可能性があるため、ご家族に間質性肺炎の患者さんがいる場合は、喫煙を含めた危険因子は可能な限り避けることが推奨されます。
しかし非喫煙者であっても、非特異性間質性肺炎(NSIP)にかかることがあります。まれとされていますが、女性の40〜50歳くらいの方に生じる傾向があります。
二次性間質性肺炎
二次性間質性肺炎は、以下のような状態や職業が原因で引き起こされる場合があります。
- 膠原病関連間質性肺炎:関節リウマチや全身性強皮症などの全身性膠原病が原因で発生します
- じん肺症:職業上の粉塵の吸入(石綿、珪砂など)が原因で、線維化を引き起こします
- 急性・慢性過敏性肺臓炎:カビ、ペットの毛、鳥の羽毛などに対するアレルギー反応が原因です
- 薬剤性肺炎:特定の薬剤やサプリメント、漢方薬が肺に影響を与える場合があります
- 放射線肺臓炎:がん治療などが原因で起こる可能性があります
特発性、二次性の大きな区別は簡単には行えません。
現在の分類には当てはまらない間質性肺炎もあり、血液検査などの開発・研究が進められています。
間質性肺炎の前兆や初期症状について
間質性肺炎の初期に現れる症状は軽微であり、症状の自覚が難しいとされています。しかし、以下のような症状に気付いた場合は、呼吸器内科を受診し、詳細な検査を受けることが望ましいです。
- 乾性咳嗽(かんせいがいそう):痰を伴わない持続的な空咳。間質性肺炎の初期症状として現れます
- 日常の呼吸困難:初期のうちは坂道や階段を上る際の息切れが見られる程度ですが、病期が進行すると室内の移動や着替えなどの軽い動作でも息切れを起こすことがあります。少しずつ進行するため、自覚しにくいといわれています
- チアノーゼ:血液中の酸素が不足し、皮膚が青く変色します
- ばち指:指先が太鼓のばちのように丸く膨らみ、爪が盛り上がる症状です。ただし、ばち指はほかの病気でも見られる場合があります
無症状の場合でも、特に高齢の方や過去に肺疾患のある方、喫煙者などのリスクを持つ方は年1回のレントゲン検査を受けることが推奨されます。
健康診断での胸部レントゲンやCTスキャンにより、症状が現れる前の段階で異常を発見できる可能性があります。
間質性肺炎の検査・診断
間質性肺炎の主な検査・診断方法は以下のとおりです。
1.問診と身体検査:
問診では、患者さんの症状の経過や病歴、職業、薬剤使用歴、ペットや鳥との接触歴、家族歴などを詳しく聞き取ります。これにより、症状の原因や病型を推定します。
2.画像診断:
胸部X線とCTスキャンが主に用いられます。これらの画像検査により、肺の線維化の程度やパターンを評価し、間質性肺炎の存在とその型を特定します。
3.気管支鏡検査:
気管支鏡を用いて肺の細胞や組織を直接採取します。この検査により、肺組織の状態を詳しく調べ、炎症や線維化の程度を確認します。
気管支鏡による検査で診断が確定しない場合は、肺の一部を切除する外科的肺生検が行われることもあります。
4.血液検査:
病気の進行度をみるのに動脈血液検査が行われます。KL-6やSP-Dなどの採血項目でマーカー測定し、肺の病態活性を評価します。
5.呼吸機能検査:
肺活量や肺拡散能を測定し、肺の機能低下の程度を確認します。病気の進行をみるために動脈血ガス分析や6分間歩行検査などが行われ、全身の酸素化の状態を評価します。
間質性肺炎の治療
間質性肺炎は、病型と進行度によって治療法が異なりますが、特発性肺線維症(IPF)などの難治性の形態では治療の選択肢が限られており、進行の遅延や症状の緩和が主な目標となります。
患者さん一人ひとりの状態に応じた治療計画のもと、薬物療法や在宅ケア、リハビリテーション、生活指導を組み合わせて行われます。
特発性肺線維症(IPF)の治療
IPFの治療は抗線維化薬が使用され、病気の進行を遅らせることを目的としています。これらの薬剤は病気の進行を緩やかにする効果が認められていますが、治療には長期間の服用が必要であり、副作用や高額な薬剤費が課題です。
そのため、軽症で息切れなどの自覚症状がない場合は、病態進行の程度を数ヵ月観察することもあります。喫煙者であれば禁煙します。
二次性間質性肺炎の治療
二次性間質性肺炎は、膠原病や職業性の曝露、薬剤反応などの原因によって発症するため、原因の除去や抗炎症剤(ステロイドや免疫抑制剤)あるいは抗線維化剤が使用されます。これらは併用される場合もあります。
咳症状がつらい場合は、鎮咳薬(咳止め)などの処方が行われることもあります。
在宅酸素療法と呼吸リハビリテーション
病状が進行し、血液中の酸素濃度が低下して呼吸不全になった場合、在宅酸素療法が必要となる場合があります。
在宅酸素療法とは、自宅に設置した酸素濃縮器や液体酸素のタンクを使用し、鼻から酸素を吸入する治療です。外出時に携行できる小型のタンクもあります。
肺移植
年齢が若いにも関わらず、上記のような治療を行っても効果がみられず呼吸不全に至るような患者さんには、肺移植の適応も検討されます。
肺移植には年齢 (両肺移植・55歳未満、片肺移植・6歳未満)、病気の状態、順番待ちが必要などの制約があり、条件に合った患者さんのみが適応となります。
間質性肺炎になりやすい人・予防の方法
間質性肺炎は、日常の健康管理が重症化を防ぐ鍵となります。
【間質性肺炎になりやすい方】
- 喫煙者:喫煙は間質性肺炎のリスクを高めるだけでなく、病気の進行を早める可能性があります。また、受動喫煙もリスクを増加させるため、禁煙は重要です。
- 頻繁に感染症にかかる方:風邪などの上気道感染が間質性肺炎の急性増悪のトリガーとなることがあります。
- 体重の極端な変動がある方:適正体重を維持することが、病状の管理に役立ちます。
- 感染症予防:手洗い、うがいの徹底、マスクの着用、人混みの避ける、部屋の加湿を行うなど、日常生活で感染症の予防が重要です。
- ワクチン接種:インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなど、適切な予防接種を受けることで、重症化の予防につながります。
- 健康的な生活習慣の維持:バランスの取れた食事と適度な運動を続け、過労や睡眠不足を避けることが重要です。
【予防の方法】
参考文献