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肺炎
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

肺炎の概要

肺炎は、肺に炎症が起きている状態です。人間の肺には、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞と呼ばれる小さな袋状の組織があります。肺胞が炎症を起こしている状態が、肺炎です。肺炎は原因となった物質や発生した環境によって、さまざまな分類が行われます。
一般的に肺炎と呼ばれている感染性肺炎は、病原体への感染が原因です。病原体以外の要因による肺炎は、非感染性肺炎に分類されます。
市中肺炎(CAP)・院内肺炎(HAP)・医療・介護関連肺炎(NHCAP)は、患者さんが生活している環境による肺炎の分類です。市中肺炎は、大きな持病もなく、家庭で日常生活を送っていた患者さんが発症する肺炎です。
病院に入院している患者さんの肺炎は、院内肺炎(HAP)に分類されます。医療・介護関連肺炎(NHCAP)は、介護福祉施設や家庭で医療・介護を受けている患者さんの肺炎です。間質性肺炎は、肺胞の壁である肺の間質に炎症が起きる病気です。

肺炎の原因

感染性肺炎は、病原体によって細菌性肺炎・非定型肺炎・ウイルス性肺炎に分類されます。感染性肺炎のなかでも、患者さんの占める割合が高いのが、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などの細菌によって引き起こされる細菌性肺炎です。これらの細菌とは異なる特徴を持つ非定型菌の感染で起きる肺炎は、非定型肺炎に分類されます。

代表的な非定型菌は、マイコプラズマ肺炎の原因となる肺炎マイコプラズマや、クラミジア肺炎を引き起こす肺炎クラミジアです。ウイルス性肺炎は、インフルエンザウイルス・RSウイルス・MERSコロナウイルスなどのウイルスが原因で発症します。

肺炎の患者さんの咳には、感染性肺炎の病原体が含まれています。それらが周囲の人間のお鼻やお口から侵入したことで起きるのが、飛沫感染です。また、病原体は患者さんの手から触れた物にも移動します。

接触感染は、手に付いた病原体が患者さんのお鼻やお口に侵入することで発生します。感染性肺炎に対して、感染以外の要因で引き起こされる肺炎が、非感染性肺炎です。非感染性肺炎には、薬剤性肺炎・過敏性肺炎(アレルギー性肺炎)などがあります。

薬剤性肺炎は、処方された薬や点滴に患者さんの体が反応して起きる肺炎です。過敏性肺炎は、カビや化学物質などが原因抗原となって引き起こされるアレルギー性の肺炎です。高齢者の命に関わるケースが少なくない誤嚥性肺炎も、非感染性肺炎に分類されます。

誤嚥性肺炎の原因は、口腔内の細菌・食べかす・逆流した胃液などが、誤って気管に入ること(誤嚥)です。間質性肺炎は、膠原病・アレルゲン・薬剤・鳥との接触などが原因で起こることがあり、過敏性肺炎が含まれることもあります。これに対して、発症の原因が特定できていない間質性肺炎が、特発性間質性肺炎(IIPs)です。法律により、特発性間質性肺炎は難病に指定されています。

肺炎の前兆や初期症状について

肺炎の初期症状には、以下の症状があります。

  • 発熱
  • 呼吸困難
  • 全身の倦怠感
  • 胸の痛み

発熱は風邪やインフルエンザなどにも共通する症状です。体温が38度を超える場合、肺炎の可能性があります。

細菌性肺炎の咳は、痰が絡む湿性咳嗽です。非定型肺炎であるマイコプラズマ肺炎やクラミジア肺炎の初期症状は、乾性咳嗽と呼ばれる痰が絡まない乾いた咳です。この咳は時間が経つと湿性咳嗽に変わることもあります。

高齢の患者さんの場合、上記の症状が現れることなく肺炎が悪化するケースもあり、注意が必要です。高齢者の活力の減少・食欲の低下・会話の減少・転倒回数の増加などの変化は、肺炎の可能性があります。

症状があった場合には、呼吸器内科を受診しましょう。

間質性肺炎の初期症状は、歩行・入浴・排便などの際に起きる息切れや乾性咳嗽が代表的です。これらの自覚症状がなく、検査で異常が見つかる場合もあります。

肺炎の検査・診断

肺炎の疑いがある場合に行うのが、画像検査です。炎症を起こしている肺のX線写真には、白い影が現れるため、まずはX線撮影を行います。X線撮影では炎症が見つからなかった場合、胸のCT検査を追加することもあります。

肺炎の重症度や病原体を調べるために行うのが、血液・尿・喀痰の検査です。血液検査では、肺炎の重さ・脱水・貧血の有無・患者さんの栄養状態などが調べられます。血液中のCRP値(C反応性蛋白)は、炎症の有無を判定する項目です。CRP値が高い患者さんの体内では、炎症が起きています。また、肺炎の原因が肺炎球菌や非定型菌であるレジオネラ菌による場合も、CRP値の上昇が見られます。

白血球を調べるのは、肺炎の重さや種類によって、白血球の数が変動するからです。細菌性肺炎の場合、白血球数は増加しますが、重症の場合は減少します。マイコプラズマ肺炎・クラミジア肺炎の場合、白血球が少し増えます。

白血球数が正常値に留まるのに対して、リンパ球が優位となるのがウイルス性肺炎です。肺炎の原因となる頻度が高い肺炎球菌は、尿の抗原検査で見つけられます。喀痰の検査は、肺炎の病原体を突き止めるために実施します。

細菌の形や種類を見分けるために行うのが、細菌に色を付けるグラム染色検査です。しかし、非定型肺炎の原因となる非定型菌は、グラム染色では見つかりにくい特徴があります。また、病原菌を正確に突き止めるには、数日から1週間が必要です。過敏性肺炎の検査では、原因抗原やアレルギーを調べるために、血液検査を行います。

患者さんの置かれている環境の変化が病状に与える影響を調べるために、検査入院をおすすめすることもあります。間質性肺炎が疑われる患者さんに行う検査は、画像検査・血液検査・気管支鏡検査・呼吸機能検査・運動時の酸素飽和度測定などです。

肺炎の治療

肺炎の治療には、細菌に効果を示す抗菌薬・ウイルスに働きかける抗ウイルス薬を使用します。患者さんの症状が軽い場合は、外来で治療できますが、症状が重い場合は入院が必要です。

院内では患者さんの状態に応じて、薬剤の投与や酸素吸入を行います。薬剤性肺炎や過敏性肺炎の治療では、肺炎の原因となった薬や抗原を患者さんから遠ざけて経過を観察します。症状の改善が見られない場合や、呼吸障害がある場合に実施されるのが、ステロイド剤の投与や酸素療法・人工呼吸器による治療です。

ステロイドや免疫抑制剤は、原因が判明している間質性肺炎の治療に使われる薬です。原因が特定されていない特発性間質性肺炎は、肺胞の壁が厚くなる線維化を遅らせるために、抗線維化薬を使用します。

肺炎になりやすい人・予防の方法

肺炎にかかりやすい傾向にあるのは、体力や免疫力が落ちている人です。風邪やインフルエンザによる体力の低下や気管支の炎症によって、病原体が肺に到達することもあるため、病気になりにくい免疫力の高い体を作ることが肺炎の予防につながります。また、感染性肺炎の病原体の侵入を防ぐには、手洗い・うがいが効果的です。

感染性肺炎の原因となる割合が高い肺炎球菌は、肺炎以外にも気管支炎・髄膜炎・敗血症などの肺炎球菌感染症を引き起こします。肺炎球菌のワクチン接種により、肺炎球菌による肺炎や感染症にかかる可能性を下げることが期待できます。その他、肺炎にかかる可能性が高いのが、喫煙者です。

煙草の煙に含まれた有害物質は、呼吸器にさまざまな影響をもたらし、肺炎の発症や重症化を招きます。肺炎の予防に禁煙が呼びかけられているのは、このためです。

過敏性肺炎の発症には、患者さんの体質と原因抗原が存在する環境が関係しており、原因抗原を避けることが予防につながります。誤嚥性肺炎は、物を飲み込む(嚥下)力や咳をする力が弱っている高齢の患者さんや、神経疾患の患者さんがかかりやすい病気です。誤嚥を防ぐことは困難ですが、誤って気管に入る可能性がある細菌や食べかすなどを減らすことはできます。そのため、誤嚥性肺炎の予防には、口腔の衛生管理が重要です。


参考文献

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