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気胸
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

気胸の概要

肋骨や横隔膜に囲まれた領域を胸腔(きょうくう)と呼び、肺は胸腔のなかにある大きな臓器です。
通常は胸腔内には空気が存在せず、呼吸によって取り込まれた空気は肺のなかで酸素と二酸化炭素のガス交換を行った後に、呼気として体外へ出ていきます。しかし、何らかの原因で肺に穴が開くと肺のなかにあった空気が胸腔内に漏れ出します。この状態が気胸です。
肺に穴が開くと、なかの空気が漏れるため肺が風船のようにしぼみます。また、肺のなかの空気が漏れ出し胸腔内に溜まることで、胸腔内の圧力が高まります。
気胸になると息苦しさを感じる場合があるのは、この圧力により肺が外から圧迫された状態になり、十分に機能しなくなるためです。
気胸が重症化すると、肺だけでなく肺から心臓へつながる大きな血管も圧迫されるため、急激な血圧低下によるショックの危険性があります。

気胸の原因

気胸の原因は肺に穴が開くことですが、そもそもなぜ肺に穴が開くのかという疑問もあります。

肺に穴が開く原因ごとに、4種類の気胸について以下を確認しておきましょう。

自然気胸

自然気胸とは外傷など外的な要因がなく起こる気胸の総称で、気胸の多くは自然気胸です。自然気胸には特発性(原発性)自然気胸と続発性自然気胸があります。特発性(原発性)とは、原因となる病気がなかったり特定できなかったりすることをいいます。特発性自然気胸も、特に原因となる疾患がないにも関わらず、誘因なく気胸を発症した状態を指す病名です。ただし、健康な状態の肺に突然穴が開くわけではありません。多くの場合、肺の表面にできた嚢胞(ブラまたはブレブ)が破れることにより穴が開きます。一方、続発性自然気胸とは肺の病気などにより気胸が引き起こされることを指し、主な原因疾患は肺気腫・間質性肺・肺がんなどです。なお、特発性(原発性)自然気胸は若い男性に多く、続発性自然気胸は高齢者に多い傾向があります。

外傷性気胸・医原性気胸

外傷性気胸とは、胸に物が刺さって肺まで達したり、折れた肋骨が肺に刺さったりしたことで起こる気胸です。一方、医原性気胸とは医療的処置を原因とする気胸です。具体例としては、検査や治療のため針を刺す処置(穿刺)をした際に肺に穴が開いてしまうケースがあります。

月経随伴性気胸

気胸は男性に多い病気とされていますが、月経の時期に起こる月経随伴性気胸は女性に特有の気胸です。月経随伴性気胸の原因は、胸腔内が子宮内膜症になっていることと考えられます。子宮内膜症とは本来子宮の内側だけにあるはずの子宮内膜組織や、それに類似した組織が別の場所に発生・増殖して起こる病気です。卵巣など子宮の周辺で発生することが多い病気ですが、稀に肺や横隔膜でも発生することがあります。子宮内膜は月経の時期が来ると剥がれ落ちるため、異常な場所に子宮内膜が存在すると月経の時期に特定の場所の組織が剥がれ落ちることになるのです。胸腔内に子宮内膜症が発生すると、組織が剥がれ落ちたときに肺や横隔膜に穴が開き、気胸が発生します。そのため、月経開始前~開始後の数日間に繰り返し気胸が起こる場合には月経随伴性気胸が疑われます。

気胸の前兆や初期症状について

気胸は突然起こる場合が多く、患者さん自身が前兆を感じることはほぼありません。気胸になると、息苦しさのほか胸の痛みや咳などの症状が現れます。

また、重症化すると胸腔にある大きな血管や心臓が圧迫されることにより、ショックが起こる可能性があるため注意が必要です。

その他、気胸は稀に両方の肺で同時に起こることがあります。両側性気胸は命に関わることも多いため、突然の強い呼吸困難感や胸の痛みなどを感じたら早期に呼吸器科を受診しましょう。

気胸の検査・診断

気胸が疑われる場合には、胸部X線検査の結果により診断します。また、肺のより詳しい状態を知るためにX線検査だけでなくCT検査を行う場合も多いでしょう。

気胸は重症度により治療方法が異なるため、こうした画像診断により肺や胸腔の状態を知ることは、診断だけでなく治療方針を決めるうえでも重要です。

気胸の治療

上記のような画像診断により気胸と診断されると、その重症度により治療方針が決まります。

軽度の場合には安静にすることが主な治療となりますが、中等度~重度の気胸と診断された場合には胸腔ドレナージが必要です。

また、月経随伴性気胸の可能性が高い場合にはホルモン療法を行う場合があります。ここからは、それぞれどのような治療法なのか解説します。

安静

軽度の気胸であり、緊急で胸腔内の空気を抜く必要はないと判断された場合には、安静にして気胸の原因となった穴が塞がるのを待ちます。自然に肺の穴が塞がった場合は、胸腔内に漏れた空気は血液に吸収されて徐々に減っていき、1~3週間で発症前の状態に戻ることが多いです。ただし、もともと胸腔内に漏れていた空気の量や肺の穴が塞がるタイミングにより、回復にかかる時間には差があるでしょう。また、X線検査により軽度気胸と診断された場合でも、胸の痛みや呼吸苦がある場合には入院が必要になることがあります。

胸腔ドレナージ

中等度~重度の気胸になった場合には、胸腔ドレナージを行います。胸腔ドレナージとは、経皮的に胸腔内にチューブを入れて胸腔内に溜まった空気を体外に排出する治療です。胸部から出たチューブの先はチェストドレーンバッグと呼ばれる容器につながっており、排出された空気が溜まる仕組みになっています。この排気量を定期的に観察して空気が排出されなくなれば、肺の穴が塞がったと判断されチューブも抜けます。

ホルモン療法

月経随伴性気胸の場合に限り、症状の抑制を目的にホルモン治療を行う場合があります。ホルモン療法で使用する薬剤として代表的なものは、低用量ピルや子宮内膜症治療薬(ジェノゲスト)などです。いずれの薬もホルモンを主な成分としており、体内のホルモンバランスを妊娠中に近い状態にすることで、月経困難症や子宮内膜症の症状を改善する働きがあります。一般的には婦人科領域で、月経不順・強い月経痛・子宮内膜症に適用されることが多い治療方法ですが、月経随伴性気胸にも有効な可能性があるとされています。

気胸になりやすい人・予防の方法

気胸になるリスクが高いのはどのような方なのか、気胸を予防する方法はあるのかといった点について以下を確認しておきましょう。

気胸になりやすい方の特徴

特発性自然気胸は痩せ型で長身の若年男性に多い傾向があるといわれています。好発年齢は10代後半~30代です。一方、続発性自然気胸は前述のとおり、肺気腫や間質性肺炎などの病気を患っている高齢者に多い病気です。また、喫煙者は非喫煙者と比べて気胸の発症率が高いといわれています。

気胸の予防方法

続発性気胸については原因となる疾患を予防することが気胸の予防にもつながると考えられます。一方、特発性気胸のリスクを予測することは難しく、日常生活で予防のために注意すべきことはあまりありません。ただし、すでに気胸を発症したことがある方に関しては再発の予防として手術を行う場合があります。気胸を保存的に治療した場合、患者さんの約半数に再発がみられるとされています。一方、手術をした場合の再発率は2~5%であり、手術による予防効果は大きいといえるでしょう。気胸の再発率は再発を繰り返す程高くなるとされているため、何度も再発を繰り返している場合や重要なライフイベントが控えている場合などには予防的手術が推奨されます。気胸の再発予防を目的として行う手術は、主に特発性自然気胸の原因となる嚢胞(ブラ)を切除して破裂のリスクを下げる手術です。その他、月経随伴性気胸の場合には子宮内膜症になっている部位を切除することで再発予防を図る場合もあります。


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