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伝染性単核球症
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

伝染性単核球症の概要

伝染性単核球症は、Epstein-Barrウイルス(EBV)によって引き起こされる感染症です。思春期から青年の時期に好発します。主な感染経路は唾液を介した感染です。乳児期に初感染した場合は不顕性感染となることが多い疾患ですが、思春期以降に感染した場合に伝染性単核球症を発症します。キスを介して感染することが多いため、kissing diseaseと呼ばれます。
感染した場合は喉の痛み、発熱、リンパ節の腫れ、倦怠感などの症状が起こります。通常対症療法を行い自然軽快する疾患です。

伝染性単核球症の原因

ほとんどがEBVの初感染で発症しますが、そのほかにサイトメガロウイルス(CMV)、ごくまれにヒト免疫不全ウイルス(HIV)ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)トキソプラズマリケッチアなどでも発症し、同様の症状を起こします。
EBVは咽頭上皮細胞に感染します。そこで増えたウイルスがリンパ球の中のBリンパ球に感染します。感染したウイルスは細胞内にとどまり、症状を伴わないまま唾液中にウイルスを周期的に排出します。キスや、共用の食器やコップ、咳やくしゃみを通じて感染します。
伝染性単核球症の急性期にEBVを排出し他人に感染させる可能性は低く(伝染性単核球症の患者さんの5%程度)、無症状の既感染者が排出するEBVからの感染の頻度がはるかに高いとされています。
EBVはごくまれにTリンパ球やNK細胞に感染し、バーキットリンパ腫や上咽頭がんなどのがんを発生させることがありますが、伝染性単核球症とは異なる疾患です。

伝染性単核球症の前兆や初期症状について

感染してから症状が出るまでの潜伏期間は通常4〜6週間です。成人が感染した場合、およそ半数が発症します。5歳未満の小児では、感染しても発症しないことが大半です。
主な症状には以下のようなものがあります。

発熱
38℃以上の発熱が1〜2週間程度持続します。1ヶ月以上続くことがあります。
咽頭痛
扁桃に白っぽい偽膜と呼ばれる付着物を認め、口蓋はとても強い発赤、腫脹が強く出現します。そのため咽頭痛が強く、食事や飲水ができないほど悪化することがあります。
リンパ節腫脹
発症1〜2週頃をピークに頚部リンパ節が起こり、ときに全身のリンパ節腫大が起こることもあります。
倦怠感
極度の疲労感が数週間から数ヶ月続くことがあります。
肝腫大、脾腫
発症2〜3週でみられます。半数程度の患者さんに出現しますが、症状が出現することはほとんどありません。しかし、ごくまれに怪我をしたときなどに脾破裂を起こすことがあります。

全員がこれらの症状がすべて出現するわけではありません。
典型的な経過では、まずは全身の倦怠感と微熱が出現します。その後徐々に咽頭痛や頸部リンパ節の腫大がみられます。咽頭痛は強く、食事を摂ることができなくなることもあります。疲労が強くなり、重度で日常生活が通常通り送れないほどとなります。この症状は2、3週程度続きますが、完全に治るまではときに何ヶ月も続くことがあります。

症状は風邪症状と似ているため、重い風邪として見過ごされることもあります。風邪と思って様子を見ていたがなかなか症状が改善しないと病院を受診し診断されることもあります。
そのほかのごくまれな合併症として、脳炎、髄膜炎などの中枢神経症状や、咽頭の腫れが悪化し気道狭窄を起こすことがあります。

伝染性単核球症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科、小児科です。伝染性単核球症はウイルス感染症であり、内科や小児科で診断と治療が行われています。

伝染性単核球症の検査・診断

伝染性単核球症は風邪症状やほかの細菌感染症などと似ていることが多く、「症状の重い風邪」として気付かれないことが多くあります。発熱、咽頭痛に加え、首のリンパ節腫脹がみられる場合は伝染性単核球症を疑います。疑った場合に以下の検査を行います。

血液検査

血液検査で白血球を確認します。通常、白血球数の上昇が認められます。また、白血球の血液像で特徴的な単核球(異型リンパ球)が出現します。また、肝機能異常が高頻度で認められます。AST、ALTが上昇し、300〜500IU/L程度に上昇することが多いですが、さらに著明な上昇を認めることもあります。
血液検査でこの2つが出現することで伝染性単核球症を疑い、診断に至る場合があります。
この異型リンパ球は伝染性単核球症に特徴的で、伝染性単核球症という名前の由来ともなっています。

抗体検査

EBVに対する抗体反応検査を行います。抗体はVCA抗体、EA抗体、EBNA抗体の3種類があり、この中でVCA IgMとVCA IgGが発症早期に上昇します。VCA IgM抗体は発症から2、3ヶ月程度のみ上昇するため、伝染性単核球症の診断に最も有用です。VCA IgG抗体は発症早期に上昇し、その後生涯陽性となるため、感染の既往の把握に有用です。EBNA抗体は発症から3〜6週経過し陽性となり、生涯陽性となります。しかし感染初期に抗体が検出されないこともあるため、時間をおいて再度検査を行うこともあります。
CMVも原因の5-10%を占めるため、必要に応じてCMV IgM、CMV IgGの測定も行います。

腹部診察

肝脾腫の有無を確認するため、身体診察で腹部の触診を行います。腹部触診のみでは肝脾腫がわからないこともあり、必要に応じて腹部エコーなどの画像検査も行います。

伝染性単核球症の治療

伝染性単核球症には特効薬はなく、主に症状を和らげる対症療法が中心となります。
発症1〜2週間は症状が特に強いため、安静にします。その後活動を徐々に増やしていきます。通常、症状は数週間で改善しますが、倦怠感が数ヶ月続くこともあります。
発熱や疼痛が強い場合は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤で対症療法を行います。
脱水を起こさないよう水分をしっかり摂取します。水分が摂れないほど咽頭痛が強い場合は、入院して点滴を行い改善するまで経過観察する場合もあります。
ごくまれですが、喉の腫れが悪化し気道閉塞を起こし呼吸困難になることがあり、このような重症の場合は炎症を抑えるために抗炎症薬のステロイド治療を行う場合があります。

脾腫が認められた場合は、脾腫が破裂するリスクがあるため重いものを持つ仕事やコンタクトスポーツ(ラグビーや柔道など)は3週間程度休む必要があります。運動再開の目安について明確なデータはありませんが、エコーなどで適宜脾臓の大きさを確認し脾臓の大きさが正常化するのを確認します。伝染性単核球症の治療中に左側腹部痛が出現した場合は、脾破裂を疑い精査する必要があります。

伝染性単核球症は発熱、咽頭痛が出現します。この症状は溶連菌感染症と症状が似ており、ときに溶連菌感染症と診断されてアンピシリンなどのペニシリン系抗菌薬が投与される場合があります。伝染性単核球症はペニシリン系抗菌薬により薬疹が出現することがあるため注意が必要です。

伝染性単核球症になりやすい人・予防の方法

伝染性単核球症になりやすい人

伝染性単核球症は思春期から青年の時期に多く認められます。
EBVは成人までにほとんどの人が感染すると言われています。乳児期に感染した場合は不顕性感染となることがほとんどですが、思春期以降に初感染した場合に伝染性単核球症を発症しやすくなります。

予防の方法

伝染性単核球症は唾液を介して感染するため、唾液が飛散しないように気をつけることが重要です。そのため、以下のような予防法が有効とされています。

口や鼻を覆う
咳やくしゃみをするときは、飛沫が飛ばないように口や鼻を覆います。
手洗いを行う
手洗いで手についたウイルスを洗い流します。伝染性単核球症だけでなく、さまざまな感染症に有用です。
共有物の使用を避ける
唾液が付着する可能性のある食器やタオルなどを他人と共有しないようにします。

伝染性単核球症は感染力がとても強いため、適切な予防法を行うことが大切です。

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