

監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
目次 -INDEX-
甲状腺がんの概要
甲状腺にできたしこり(腫瘍)のうち、悪性のものが甲状腺がんです。
2019年に日本で甲状腺がんと診断された人は18,780人でした。
そのうち男性は4,888人、女性は13,892人と女性の方が多い傾向にありました。
小さなものまで含めると約10人に1人に認められるとされるほど高頻度の病気です。
甲状腺がんは組織型によって以下のように分けられており、一般的に若年であるほど予後が良好とされています。
乳頭がん
甲状腺がんのうち約90%を占める、最も多いがんです。
進行スピードは遅い場合が多く、予後は良好な傾向です。
転移はリンパ性によるものが大半を占めます。
急に命に関わる状態になることはありませんが、再発を繰り返すこともあります。
また、滅多にありませんが、突然悪性度が高い未分化癌に変化することがあります。
濾胞がん
甲状腺がんのうち約5%と2番目に多い種類です。良性腫瘍の濾胞腺腫と区別が難しく、経過観察しているうちに濾胞がんと判明することもあります。 肺や骨など離れた臓器に血行性転移しやすい傾向がありますが、遠隔転移が起こらなければ乳頭がんと同じように予後は良好です。髄様がん
血中カルシウム濃度を調節するカルシトニンと呼ばれるホルモンを分泌する、傍濾胞細胞から発生します。甲状腺がんのうち約1〜2%です。
乳頭がんや濾胞がんなどの分化がんと比較すると悪性度が高く、肝臓、肺、リンパ節などに転移しやすい傾向があります。
また、RET遺伝子の変異によって発生する場合があると報告されており、治療方針決定の際は遺伝子検査を勧められています。
低分化がん
甲状腺がんのうち1%未満と珍しい種類で、分化がんと未分化がんの中間のような性質を持っています。
分化がんと比べると遠隔転移や再発の可能性が高い特徴があり、分化がんから低分化がん、低分化がんから未分化がんに変化することもあります。
未分化がん
甲状腺がんの約1〜2%の割合で、悪性度が高く進行が早いがんです。
気管、食道、反回神経へのがんの広がりや、全身の臓器に転移を起こしやすい特徴があります。
甲状腺がんの原因
甲状腺がんの原因ははっきりしていません。
参考までに、危険因子としては以下のものが挙げられ、研究されています。
- 若い頃の大量の放射線被ばく
- 遺伝子異常
- 肥満
- 喫煙
- 女性ホルモン(経口避妊薬使用)
甲状腺がんの前兆や初期症状について
甲状腺がんの自覚症状は乏しく、気が付かないことも珍しくありません。
腫瘍以外に特徴的な症状は特にありませんが、病気が進行すると嗄声(声のかすれ)が起こる場合があります。
腫瘍がかなり大きくならないと喉付近の違和感は感じず、甲状腺機能亢進症や低下症の頻度も高くありません。
甲状腺に発生する悪性腫瘍の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内分泌内科、耳鼻咽喉科、内分泌外科です。
甲状腺に発生する悪性腫瘍であり、内分泌内科や耳鼻咽喉科や外科で診断と治療が行われています。
甲状腺がんの検査・診断
甲状腺がんは自覚症状に乏しく、偶然発見されることも多いですが、良性腫瘍との鑑別が困難な場合も多い傾向です。
基本的には良性の甲状腺腫瘍と同じ検査が行われます。
問診・視触診
医師が甲状腺やその周辺を観察し、直接触って腫瘍や腫れの有無を確認します。
具体的には、周囲組織に腫瘍が固定されている、頸部リンパ節に触れる、硬い腫瘍に触れる、といった触診の所見が診られることがあります。
触診で腫瘍が発見された場合、悪性である(甲状腺がんである)頻度は5〜17.0%と報告されています。
また、飲み込みにくさや嗄声(声の枯れ)といった症状の有無や、病歴、家族歴、過去の放射線被ばくの有無も確認します。
血液検査
甲状腺全体の状態を確かめるため、採血して以下の項目を調べます。
サイログロブリン良悪性問わず濾胞細胞から発生した腫瘍がある場合、甲状腺の炎症などで高値になることがあります。
髄様がんで高値になることがあります。
全体の代謝に関わるホルモンで、甲状腺の機能を調べるために検査することがあります。
甲状腺ホルモンの分泌を促進するホルモンで、悪性腫瘍のうち乳頭がん、濾胞がんの増殖因子として検査することがあります。
髄様がんではCEA(がん胎児性抗原)、甲状腺全摘後はカルシトニン、甲状腺全摘後の分化がんではサイログロブリンが腫瘍マーカーとして用いられることがあります。
超音波検査
超音波の跳ね返りを画像にして甲状腺を確認し、大きさや腫瘍の状態を調べます。周りのリンパ節への転移の有無も調べられる検査です。
経過観察の際は超音波検査で腫瘍に変化がないか確認します。
放射線被ばくがないため繰り返し安全に行え、妊娠中や授乳中の方でも問題なく受けられます。
細胞診
超音波の画像をガイドにして甲状腺を確認しながら腫瘍に針を刺して細胞を採取し、良性か悪性か顕微鏡で調べる検査です。
「穿刺吸引細胞診検査」とも呼ばれます。
細胞診で大半の腫瘍について良悪性が判定可能ですが、顕微鏡でもほぼ同じように見えてしまうため、濾胞がんと濾胞細胞は診断できません。
濾胞がんが疑われる腫瘍は、手術で摘出した組織を調べる組織診を行います。
甲状腺シンチグラフィ
微量の放射線を出す医薬品を内服し、24時間後に微量の放射線を測って画像化します。
甲状腺では、甲状腺シンチグラフィで機能や形状を調べ、多臓器への転移の有無を確認するために腫瘍シンチグラフィを行います。
CT、MRI
CTはX線、MRIは強力な磁気を利用して身体の断面を画像化する検査です。
甲状腺がんの広がりや深さの程度、リンパ節転移の有無を確認し、主にステージ(病期)を診断するために行います。
甲状腺がんの治療
甲状腺がんの治療は、がんの進行度合いや性質、体調などから総合的に検討されます。
手術
がんがある方、もしくは全部を手術で摘出します。
全摘した場合は甲状腺がんの再発予防が期待できます。
その一方で、甲状腺ホルモンが分泌されなくなるためホルモン薬を飲み続ける必要があります。
片側を摘出した場合は、ホルモン薬を飲む必要はありません。
しかし、微小ながんが残る、再発した場合は全摘が必要になる可能性があります。
また、必要な場合はリンパ節郭清によって甲状腺周囲のリンパ節を切除します。
転移が疑われる場合、もしくは転移の予防のために行われる処置です。
腫瘍によって反回神経麻痺が起きていれば、反回神経を可能な限り修復します。
放射線治療
Ⅰ-131という放射性ヨウ素のカプセルを内服し、放出される放射線でがん細胞を破壊する内照射による治療、未分化がんで手術ができない場合などに行う外照射による治療があります。内照射の場合は、治療目的によって
アブレーション
わずかに残っている甲状腺組織の除去
補助療法
目に見えない小さながん組織の除去
治療
がんが残っている、遠隔転移などで手術できない場合の治療
に分かれています。
薬物療法
TSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制療法 TSHの分泌を抑制し、甲状腺がんの細胞への刺激を減らすために行います。
分子標的薬 放射線の内照射治療が行えない場合、遺伝子検査で特定の遺伝子に変異が見つかった場合に行います。
化学療法(細胞障害性抗がん薬) 未分化がんの術後補助療法として行います。
甲状腺がんになりやすい人・予防の方法
甲状腺がんのリスクが高くなる可能性のある人はいますが、遺伝の関係以外では、生活習慣を整えることがリスクや予防につながると考えられます。
なりやすい人
前述の通り血縁者に甲状腺がんを発症した人がいると可能性が高くなると考えられており、特に髄様がんでは遺伝の影響が指摘されています。また、前述のように
- 若い頃の大量放射線被ばく
- 体重増加(肥満)
- 遺伝子異常
- 喫煙
- 女性ホルモン(経口避妊薬服用)
予防法
甲状腺がんに特化した予防法はありませんが、がん全般の予防法として- 禁煙
- 節度のある飲酒
- バランスのよい食事
- 運動
- 適正な体重の維持
参考文献




