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アスピリン中毒
岡本 彩那

監修医師
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)

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兵庫医科大学医学部医学科卒業後、沖縄県浦添総合病院にて2年間研修 / 兵庫医科大学救命センターで3年半三次救命に従事、近大病院消化器内科にて勤務 /その後、現在は淀川キリスト教病院消化器内科に勤務 / 専門は消化器内科胆膵分野

アスピリン中毒の概要

アスピリン中毒とは、広く医薬品に用いられているアスピリン(サリチル酸誘導体であるアセチルサリチル酸)による中毒症状です。 アスピリン中毒には、一度に高用量を摂取した際に起きる急性中毒症状と、低用量を長期間摂取した際にあらわれる慢性中毒症状があります。

アスピリンやその類似薬(サリチル酸系薬剤)には、主に体内の炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。また、少量の使用では、心筋梗塞や脳梗塞などの予防効果が期待できることも知られています。 アスピリンは、定められた用量を守って使用する限りでは比較的安全と考えられていて、医療機関による処方薬だけでなく市販薬にも広く使用されている成分です。

一方で、用量を超えた摂取により嘔吐や呼吸の乱れ、耳鳴り、難聴などさまざまな急性の中毒症状が出ることが知られています。過剰摂取による重度の急性アスピリン中毒では、呼吸困難などの症状を引き起こし、死に至ることもあります。 また、アスピリンを含む薬品を長期間服用することで、慢性の中毒症状がみられることもあります。

小児では「ライ症候群」や副作用のリスクが大きいことが知られ、解熱鎮痛薬としてのアスピリンの使用は禁忌とされています。

アスピリン中毒は、臨床症状や血液検査、尿検査、患者さんの服薬歴などから診断されます。 治療は、胃洗浄、活性炭投与による吸収阻害、輸液、血液透析などによっておこなわれます。

アスピリンは市販薬などにも広く用いられている成分ではあるものの、定められた用法用量を守って使用することでアスピリン中毒の発症リスクを減らせます。アスピリンが持つリスクを知っておくことはアスピリン中毒の予防につながります。また、アスピリンを含む薬剤を使用している人で気になる症状が出た場合は、ただちに薬の使用を止め、医療機関に相談することが重要です。

アスピリン中毒の原因

アスピリン中毒は、アスピリン、あるいは体内でサリチル酸へと代謝される化学物質類の過剰摂取が原因となって起こります。

これらは誤飲事故のほか、処方薬や市販薬の用法用量を守らずに服用した場合、オーバードーズ行為などによっても起こり得ます。

アスピリンなどが体内に取り込まれ、中枢神経系への障害のほか、初期には過呼吸などによる呼吸性アルカローシスが起こり、摂取後24時間等経過してから代謝物や乳酸などによる代謝性アシドーシスを引き起こします。これらの過程を経て中毒症状が起こることが知られています。

アスピリン中毒の前兆や初期症状について

アスピリン中毒には、アスピリンなどの過剰摂取による急性の中毒症状と、長期間の摂取による慢性の中毒症状があり、前兆や初期症状が異なります。

急性中毒症状

急性中毒では、初期症状として悪心、嘔吐、眠気、耳鳴り、過換気などがみられます。その後、多動や高熱、さらに錯乱や痙攣などが起きる可能性があります。重症例では急性腎不全や呼吸不全、昏睡、脳浮腫、肺水腫、ARDS、うっ血性心不全、突然の呼吸停止、突然死などを引き起こすことがあります。

慢性中毒症状

慢性中毒では、明確な初期症状が見られないこともありますが、敗血症に似た兆候があるとされています。具体的には、軽微な錯乱や精神状態の変化などが前兆となる可能性があります。他に、低酸素症、非心原性肺水腫、代謝性アシドーシス、精神状態の変化、脱水などが見られることもあります。

アスピリン中毒の検査・診断

アスピリン中毒は、臨床症状および血液検査や尿検査の検査結果、患者さんの服薬歴などから総合的に診断されます。

血液検査により、血液中のアスピリン濃度を調べることは有効です。血液のpHや、二酸化炭素、重炭酸塩の値や尿検査の結果なども、アスピリン中毒の重症度を判断する手がかりになります。

アスピリン中毒の治療

急性のアスピリン中毒の治療では、重症化の阻止や救命のため、多くの場合で積極的な治療がおこなわれます。治療の主な目的は、アスピリンの吸収阻害や、体内からのアスピリンの除去です。

アスピリン摂取からあまり時間が経過していなければ、胃洗浄、活性炭の投与などをおこない、アスピリンの吸収を防ぎます。中程度以上の中毒では輸液(炭酸水素ナトリウムとカリウムの静脈内投与)がおこなわれるのが一般的です。

患者さんの腎機能に問題がなければ、投薬によって尿をアルカリ化にし、利尿を促します。薬剤の影響や利尿により低カリウム血症となるケースがあるため、その場合はカリウムを補充します。

血圧低下、けいれんなどの症状に対しては、人工呼吸管理や酸塩基平衡異常に対する補正、痙攣予防としての薬剤投与、輸液などによる血圧管理など、集中治療が必要になることもあります。

慢性のアスピリン中毒では、アスピリンを含む薬剤の使用を中止したうえで、検査結果に合わせた対症療法がおこなわれます。

アスピリン中毒になりやすい人・予防の方法

アスピリン中毒は、過剰なアスピリン摂取があった場合は誰にでも起こる可能性があります。 一方で、アスピリンは薬効成分としてその安全性などが広く認められた物質であり、現在でも処方薬や市販薬に広く使用されています。

アスピリンに対する正しい知識を持ち、用法用量を守って服用する限りは、急性のアスピリン中毒を発症するリスクは高くないとされています。認知機能が低下している人や、精神状態が不安定な人などがアスピリンを含む薬を服用する場合は、誤用や乱用、オーバードーズ事故にならないように、周囲が監視するなどの対策が有効といえます。

市販薬を複数使用する場合や、処方薬と市販薬を長期間にわたり併用するような場合では、慢性のアスピリン中毒を発症する恐れがあります。安易な自己判断による使用を避け、服用前に医療機関や薬剤師に相談することが、アスピリン中毒の予防につながります。

急性中毒、慢性中毒に関わらず、アスピリンを含む薬を使用していて体調に異変を感じた場合は、その薬の使用を中止し、できるだけすみやかに医療機関に相談しましょう。

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