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ヒ素中毒
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。

ヒ素中毒の概要

ヒ素中毒(ひそちゅうどく)とは、ヒ素(砒素)やヒ素化合物を摂取した際にみられる、さまざまな中毒症状のことです。

ヒ素やヒ素化合物の多くは強い生物毒性を持つことから、農薬や殺虫剤などに利用されています。医薬品や半導体の原料としても利用されます。また、低濃度ではあるものの、ヒ素は自然界の環境中に広く分布しています。ただし、その毒性の強さから、人為的な環境中への放出や、食品への残留量などは厳しく制限されることがある物質です。日本国内においては「水道法」「水質汚濁防止法」等の規制対象となっています。

ヒ素中毒では、ヒ素摂取の状況により、急性症状と慢性症状にわけられます。

急性ヒ素中毒

ヒ素中毒のうち、主に急性毒性によるものを指します。
急性ヒ素中毒は、比較的大量のヒ素化合物などを短時間で摂取した際に発症する恐れがあり、人為的な毒物混入や偶発的な誤飲事故等によって起こる可能性があります。

軽症例では嘔吐、腹痛、下痢などの消化器系の症状が出ます。重症例では、神経や臓器などの全身症状が見られ、意識障害、けいれん、不整脈、肺水腫などさまざまな症状を併発し、命を落とすこともあります。

急性ヒ素中毒の治療では、救命処置や対症療法をおこないながら、胃洗浄やキレート剤によるヒ素の体外排出が試みられます。

慢性ヒ素中毒

ヒ素中毒のうち、主に慢性毒性による症状を指します。
慢性ヒ素中毒は、一定濃度以上にヒ素を含む飲料水、食料品を、数年単位で長期間摂取し続けた際に発症する恐れがあります。公害などの人為的汚染を受けた地域や、土壌中に高濃度のヒ素を含む地域などで暮らす人は特に、高い発症リスクがあります。

慢性ヒ素中毒の症状は、色素沈着などの皮膚症状が特徴的とされ、進行すると呼吸器、神経、内臓など全身にさまざまな障害が生じます。重篤な例では皮膚がんや肺がん、腎臓がんなどのがん、および肝障害や末梢血管障害を併発しやすいことが知られています。

現在のところ、慢性ヒ素中毒に対する治療手段は限られており、患者さんの状態や各症状に合わせた対症療法が主におこなわれています。

ヒ素中毒の原因

ヒ素中毒の原因は、ヒ素およびヒ素化合物の摂取です。

急性ヒ素中毒では、農薬などに含まれる亜ヒ酸など毒性の強い薬品が原因となるケースが多く、人為的な毒物混入や偶発的な誤飲事故などで起こり得ます。

慢性ヒ素中毒は、公害などの人為的汚染を受けた地域や、土壌中に高濃度のヒ素を含む地域などで、発症者が多いことが知られています。

ヒ素中毒の前兆や初期症状について

急性ヒ素中毒の初期症状は、嘔吐、腹痛、下痢などです。症状だけでは他の食中毒などと区別がつかないケースもあるため、意図せずヒ素を摂取してしまった患者さんの様子から、前兆を捉えるのは容易ではありません。

慢性ヒ素中毒ではさらに、明確な前兆を捉えることは難しいと言えます。
初期の症状として、唇や口腔内の色素沈着などの報告があるものの、これらはあまり明確なものではありません。進行すると、皮膚の色素沈着、白斑、角化(盛り上がって硬くなる)あるいは粘膜の機能障害などの症状が出やすいとされています。

ヒ素中毒の検査・診断

ヒ素中毒の診断は、臨床症状とさまざまな検査結果に基づいて行われます。
嘔吐、腹痛、下痢、低血圧、ショックなどから急性ヒ素中毒を疑うようなケースでは、患者さんの血液、尿、毛髪などを採取して検査します。検体から一定濃度以上のヒ素が検出された場合は、ヒ素中毒が確定します。

慢性ヒ素中毒は進行すると、呼吸器、神経、内臓など全身にさまざまな障害が生じることがあります。そのため、血液、尿、毛髪などの検査に加え、皮膚や各臓器の機能異常やがんの発症リスクなどを評価するために、各種の画像検査も活用されます。がんの疑いがある場合は病理検査も実施します。

ヒ素中毒の治療

ヒ素中毒の治療は、急性ヒ素中毒と慢性ヒ素中毒それぞれで異なります。

急性ヒ素中毒の治療

急性ヒ素中毒の治療では、救命処置が優先されます。具体的には、呼吸困難や低酸素状態を改善するための酸素投与、意識障害時の気管挿管や人工呼吸管理、低血圧やショック状態の改善を目的とした輸液などの処置がとられます。

救命できた場合は、胃洗浄、活性炭投与、キレート剤投与などによって、ヒ素の体外排出が試みられます。また、その他の症状に応じた治療もおこなわれます。

慢性ヒ素中毒の治療

現在のところ、慢性ヒ素中毒に対する根本的な治療法はありません。
したがって、慢性ヒ素中毒の治療では、患者さんの状態や各症状に合わせた対症療法が主におこなわれます。

また、慢性ヒ素中毒において治療と並んで重要とされるのが「汚染源の特定」です。
どこで発生したヒ素が、どのように患者さんの体内に入ったのかをできるだけ詳しく調査し、可能であれば汚染源そのものを除去するか、あるいは患者さんの生活を汚染源から遠ざけて、新たなヒ素を患者さんの体内に蓄積させないことが重要になります。

ヒ素中毒になりやすい人・予防の方法

ヒ素中毒はヒ素の摂取で生じるため、一定量のヒ素を摂取してしまった場合は、誰にでも発症する可能性があります。
特にヒ素を含む農薬や殺虫剤を取り扱う人や、半導体工場や医薬品製造などでヒ素化合物を取り扱う人は、ヒ素中毒のリスクが高いと言えます。ヒ素に対して正しい知識を持ち、薬品類を慎重に取り扱うことがヒ素中毒の予防につながります。

また、海外などのヒ素汚染が確認されている地域を訪れる場合は、汚染された食品や飲料水を口にしないよう注意が必要です。

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