

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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乳児ビタミンK欠乏性出血症の概要
乳児ビタミンK欠乏性出血症は、生まれたばかりの赤ちゃんに起こる出血性疾患です。ビタミンKは血液を固めるために必要な成分ですが、乳児は体内に十分なビタミンKを持っていないため、出血のリスクが高まります。この病気は早期型、古典型、遅発型の3つに分類され、出血の時期や原因によって特徴が異なります。適切な予防策を取らない場合、頭蓋内出血や消化管出血など重篤な合併症を引き起こすことがあります。
乳児ビタミンK欠乏性出血症の原因
新生児や乳児は胎盤を通じて母体から十分なビタミンKを受け取ることができません。さらに、腸内細菌叢が未成熟であるため、腸内でのビタミンKの産生も少なくなります。母乳はビタミンKの含有量が少なく、母乳栄養のみで育てられる赤ちゃんは特にリスクが高くなります。また、ビタミンKの吸収を妨げる薬剤(抗てんかん薬や抗結核薬など)を母親が妊娠中に使用していた場合や、肝疾患、胆道閉鎖症、脂肪吸収障害を持つ乳児では、ビタミンKの吸収・利用がさらに低下し、発症リスクが増加します。
乳児ビタミンK欠乏性出血症の前兆や初期症状について
早期型は出生直後から24時間以内に現れ、多くは母親が薬剤を使用していた場合にみられます。古典型は生後2日から7日頃に発症し、臍出血、消化管出血、皮下出血、鼻出血などが見られます。遅発型は生後2週から6ヶ月の間に発症し、特に母乳栄養児に多く、頭蓋内出血が最も重篤な症状として知られています。頭蓋内出血では、けいれん、傾眠、哺乳不良、嘔吐など神経学的異常が現れることがあります。出血部位によっては血便や血尿が見られることもあります。これらの症状が現れた場合は早急な診断と治療が必要です。
乳児ビタミンK欠乏性出血症の検査・診断
血液検査ではプロトロンビン時間(PT)の延長が特徴的であり、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)も延長することがあります。血小板数やフィブリノゲン濃度は通常正常です。ビタミンK依存性凝固因子(第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子)が低下していることが確認されます。ビタミンKの血中濃度測定も参考になりますが、一般診療ではあまり行われません。頭蓋内出血が疑われる場合には画像検査(超音波、CT、MRI)が必要です。診断確定後は迅速な治療介入が求められます。
乳児ビタミンK欠乏性出血症の治療
治療の基本はビタミンKの投与です。通常はビタミンK1(フィトナジオン)が使用されます。出血が発生した場合は、速やかにビタミンKを静脈内または筋肉内に投与します。重篤な出血時には、新鮮凍結血漿やプロトロンビン複合体製剤を併用して凝固因子を補充することもあります。治療により迅速に凝固能は改善し、多くの症例で予後は良好です。ただし、頭蓋内出血を伴った場合は神経学的後遺症を残すことがあり、早期診断と治療開始が重要です。
乳児ビタミンK欠乏性出血症になりやすい人・予防の方法
母乳栄養のみの新生児、母親が妊娠中に抗てんかん薬や抗結核薬を使用していた場合、消化管疾患や肝疾患を有する乳児はリスクが高くなります。予防の基本は出生直後にビタミンKを投与することです。多くの国では出生時にビタミンK1を筋肉内注射することが推奨されています。一部では経口投与の方法も用いられていますが、注射の方が遅発型出血症の予防に優れているとされています。特にビタミンK欠乏のリスクが高い乳児では、反復投与や長期的なフォローが必要となります。妊娠中の薬剤使用歴がある場合は、産科医と小児科医が連携し、出生後早期からの介入が重要です。保護者への教育も重要で、授乳方法や出血徴候に対する注意喚起が求められます。
参考文献
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