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双胎間輸血症候群
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

双胎間輸血症候群の概要

双胎間輸血症候群は、双子の赤ちゃんが1つの胎盤を共有しているときに起こる珍しくも重大な病気です。お腹の中の双子は、胎盤という共通の栄養供給装置を通じて母体から栄養と酸素をもらっています。本来であれば、2人の赤ちゃんに均等に血液が流れる仕組みになっていますが、この病気では胎盤の中にある血管のつながり方に異常があるため、一方の赤ちゃんからもう一方へ血液が一方的に流れてしまいます。

この結果、一方の赤ちゃん(供血側)は血液が少なくなり栄養が足りなくなります。反対に、もう一方の赤ちゃん(受血側)は血液が多くなりすぎ、心臓や全身に負担がかかります。こうしたアンバランスな状態が続くと、どちらの赤ちゃんも危険な状態に陥る可能性があります。双胎間輸血症候群は、双子のうち約10〜15%に発症すると報告されています。

双胎間輸血症候群の原因

この病気の原因は、胎盤内にある血管の「つながり方(血管吻合)」にあります。胎盤は網の目のように張り巡らされた血管でできていますが、その中に動脈と静脈が直接つながる場所(動静脈吻合)があると、血液が一方通行で流れやすくなります。供血側の赤ちゃんの動脈から、受血側の静脈へと血液が移動してしまうのです。

本来は、動脈同士や静脈同士がつながる血管もあり、お互いの血液の流れを調整する役割を果たします。しかし、こうした調整役の血管が少ない場合は、バランスが崩れやすくなり、双胎間輸血症候群が発症しやすくなります。この血管のつながり方は偶然によるもので、妊娠前に予測することはできません。

双胎間輸血症候群の前兆や初期症状について

妊娠初期の段階では特に症状がなく、お母さんが感じる異変は少ないのが一般的です。主に超音波検査によって赤ちゃんの異常が発見されます。供血側の赤ちゃんは血液が足りなくなるため、尿の量が減り、その結果、羊水も減ります。超音波では、赤ちゃんが羊水のない袋の中でぴったり膜に貼り付いたように見えることがあります。

一方で、受血側の赤ちゃんは血液が多くなりすぎるため、心臓に負担がかかります。これにより尿の量が増え、羊水が過剰になります。羊水が増えすぎると、お母さんのお腹が急に張って苦しく感じたり、早産のリスクが高まったりします。さらに重症になると、受血側の赤ちゃんは全身がむくんだ状態(水腫)になり、命に関わる危険性も出てきます。

双胎間輸血症候群の検査・診断

この病気の診断には、定期的な超音波検査が不可欠です。妊娠16週以降からは、2週間ごとに専門的な超音波検査を行うのが推奨されています。検査では、以下のようなポイントを確認します。

  • 両方の赤ちゃんの羊水の量の違い
  • 供血側の膀胱の見え方(尿が出ていれば膀胱が見える)
  • 心臓や臍帯(へその緒)の血流の様子

病気の進行具合は「クインテロ分類」という基準で5段階に分けて評価されます。

  • I期:片方の赤ちゃんは羊水が多く、もう片方は少ないが、供血側の膀胱は見えている。
  • II期:供血側の膀胱が見えなくなる(尿が出ていない)。
  • III期:心臓や血流に明らかな異常が出る。
  • IV期:受血側の赤ちゃんが全身むくむ(水腫)。
  • V期:赤ちゃんが亡くなる。

この分類によって、いつ治療を行うべきかを判断します。

双胎間輸血症候群の治療

病気が軽い場合(I期)では、慎重に経過を観察しながら、自然に改善する可能性もあります。ただし、多くの場合は病気が進行することがあるため、頻繁な検査が必要です。II期以上では治療が必要と判断されることが多く、その場合は「胎児鏡下レーザー手術」という特殊な治療が行われます。

この治療では、お母さんのお腹に細いカメラ(胎児鏡)を挿入し、胎盤の表面にある異常な血管のつながりをレーザーで焼き切ります。これにより、一方通行で流れていた血液の流れを止め、血液のバランスを整えます。最近では「ソロモン法」と呼ばれる、より広い範囲の血管を連続的に焼き切る方法も使われています。この方法により、手術後に病気が再発したり、他の合併症が出たりするリスクが減ることが報告されています。

治療が成功すれば、多くの赤ちゃんが無事に成長し、出産に至りますが、それでも早産になることが多く、出生後も新生児集中治療が必要となる場合があります。治療のタイミングや手技は専門の医療機関で行われるため、できるだけ早く専門施設に紹介されることが大切です。

双胎間輸血症候群になりやすい人・予防の方法

双胎間輸血症候群は、1つの胎盤を共有する双子にのみ起こります。胎盤の血管のつながり方は自然に決まるもので、妊娠前や妊娠初期に予測したり、防ぐ方法は今のところありません。したがって、もっとも重要なのは「早期発見」です。

妊娠初期の段階で双胎妊娠と診断された場合は、胎盤が1つなのか2つなのかを超音波検査で確認します。もし胎盤が1つ(単胎盤性双胎)であれば、双胎間輸血症候群のリスクがあるため、16週以降は2週間ごとの超音波検査を受けることが推奨されます。もし病気が発見された場合は、早急に専門医療機関に紹介され、必要に応じてレーザー治療を受ける体制が整えられています。

お母さんご自身では予防法はありませんが、定期健診を欠かさず受け、妊娠中の体調変化(急な腹部膨満感、強い張り感など)があれば、早めに主治医に相談することが大切です。医療チームが早めに病気を発見し適切に介入することで、双子の赤ちゃんの命を守る可能性が大きく広がります。

参考文献

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