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4p-症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

4p-症候群の概要

4p-症候群(4p欠失症候群)は、4番染色体の短い部分(短腕)の一部が欠けることによって発症する遺伝性の疾患で「ウォルフ・ヒルシュホーン症候群」とも呼ばれます。厚生労働省により指定難病として認定されています。

4p-症候群は、4番染色体の異常によって、胎児期から脳や体の発達にさまざまな影響を及ぼします。出生時から特徴的な顔立ちがみられることが多く、成長の遅れ、知的・運動発達の遅れ、筋力の低下、難治性のてんかん、摂食障害などが主な症状としてあらわれます。

発症頻度は約5万人に1人と推定され、女児に多くみられる傾向があります。日本国内の患者数は1000人未満と報告されており非常にまれな疾患ですが、染色体の欠失が小さい場合には診断が難しく、実際の患者数はこれより多い可能性もあります。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 4p欠失症候群(指定難病198)

治療は、症状に応じた対症療法が中心となります。たとえば、てんかん発作がある場合は抗てんかん薬が使用され、摂食障害がある場合は経管栄養による治療が行われます。発達の遅れに対しては理学療法や言語療法など、専門的な療育的支援が提供されます。

4p-症候群の症状のあらわれ方や程度には個人差が大きく、早期に適切な検査や治療、支援を受けることが重要です。

4p-症候群の原因

4p-症候群の原因は、4番染色体の一部が失われることです。とくに、染色体の「短腕」とよばれる部分の末端がなくなることで、脳や身体の発達にさまざまな影響が及ぼされます。

多くの場合、4番染色体の欠失は両親から受け継がれたものではなく、偶然に生じる突然変異によるものと考えられています。ただし、一部では「不均衡型相互転座」と呼ばれる染色体の異常によって発症するケースもあります。この場合、両親のいずれかが「均衡型相互転座」という、見た目には異常のない染色体構造を持っていることが原因となることがあります。

4p-症候群の前兆や初期症状について

4p-症候群では、出生直後からいくつかの特徴的な症状が確認されることが多いとされています。外見上の特徴としては、鼻の根元が広く、額までつながるような顔立ちが挙げられます。また、眉毛がアーチ状で離れている、両目の間隔が広い、人中(鼻の下から上唇の溝)が短い、あごが小さいといった特徴がみられることもあります。

さらに、筋肉の緊張が弱く、運動発達の遅れや知的障害も多くの患者でみられます。成長の面でも遅れがみられ、およそ8割の患者では低身長や体重の増えにくさが確認されており、十分に栄養を摂取できていても成長が追いつかない場合があります。

また、9割以上の患者で難治性のてんかん発作がみられ、とくに生後6ヶ月から1歳ごろに発症することが多いとされています。

そのほか、骨格の異常は全体の6~7割、先天性の心疾患はおおよそ半数にみられ、聴覚の障害、尿路系の異常、脳の構造異常など、さまざまな合併症を伴うことが知られています。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 4p欠失症候群(指定難病198) 出典:日本循環器学会 日本心臓病学会 日本小児循環器学会 2024 年改訂版 心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン

4p-症候群の検査・診断

4p-症候群の診断は、外見上の特徴や症状の確認、染色体検査の結果をもとに行われます。知的発達の遅れ(精神発達遅滞)、てんかん発作、そして「ギリシャ兵士のヘルメットのような鼻」とも表現される特徴的な鼻の形を含む顔立ちの3つの症状がそろっている場合、染色体検査を行い診断を確定します。

染色体検査では、4番染色体の短腕に欠失があるかを調べます。一般的に行われることが多い染色体検査は「ギムザ染色法(G分染法)」という方法で、染色体を特殊な染料で染め、形の異常を確認します。ただし、この方法では4p-症候群に特有の欠失がすべて見つかるわけではなく、検出率は全体の約5〜6割にとどまるとされています。

そのため、より詳しい検査として、特定のDNA領域を光で確認する「FISH法」や、小さな異常まで検出できる「マイクロアレイ染色体検査」などが必要に応じて行われることがあります。

出典:日本循環器学会 日本心臓病学会 日本小児循環器学会 2024 年改訂版 心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン

4p-症候群の治療

現時点では、4p-症候群を根本的に治療する方法は確立されていません。そのため、治療は症状に応じた対症療法が基本となります。

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬を使って発作を抑える治療が行われ、安定して日常生活を送れることを目指します。一般的には、バルプロ酸やジアゼパムといった薬剤が使用され、発作の頻度や重さに応じて薬の種類や量が調整されます。

発達の遅れに対しては、理学療法、作業療法、言語療法といった専門的な療育支援が行われます。

また、摂食障害がある場合には、栄養状態を保つために経管栄養が必要になることもあります。そのほか、心臓や腎臓、耳、目などに先天的な異常がみられる場合には、それぞれ症状に応じた専門的な治療が行われます。

4p-症候群ではさまざまな症状が複合的にあらわれるため、できるだけ早期に検査を受け、適切な治療や支援を受けることが重要です。

4p-症候群になりやすい人・予防の方法

4p-症候群の過半数は、偶然に起こる染色体の突然変異によって発症するため、両親に遺伝的な異常がなくても、その子どもが4p-症候群を発症する可能性があります。

一方で、両親のいずれかが「均衡型相互転座」と呼ばれる、見た目には問題がない染色体の構造異常を持っている場合にも、その子どもに4p-症候群が発症することがあります。

現時点では、4p-症候群の発症を予防する方法は確立されていません。ただし、家族に同じ病気の人がいる場合や、妊娠を考えるうえで不安がある場合には、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることも選択肢のひとつです。遺伝カウンセリングでは、発症の可能性やリスク、将来の対応についてより詳しく相談できます。

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