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スミス・マギニス症候群
植田 郁実

監修医師
植田 郁実(医師)

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千葉大学医学部卒業。市立豊中病院/大阪大学医学部附属病院で初期研修、淀川キリスト教病院で後期研修。現在は大阪大学医学部附属病院勤務。日本小児科学会専門医。

スミス・マギニス症候群の概要

スミス・マギニス症候群は、知的発達の遅れや睡眠障害、特有の行動などが見られる先天性の遺伝子疾患です。 17番染色体上のRAI1遺伝子の欠失や変異が原因で発症します。

RAI1遺伝子は体内時計や睡眠リズムの制御に関与しており、欠失や変異が起こることでさまざまな症状が現れます。 こうした遺伝子の異常は、両親から受け継がれるものではなく、偶然に生じるケースがほとんどです。

症状には、特徴的な顔立ちや、体や言葉の発達の遅れがあります。 また、行動面での問題や顕著な睡眠障害、心疾患やてんかんなどの合併症が見られることもあります。

診断は、臨床症状の確認や遺伝子検査によっておこなわれ、RAI1遺伝子の異常が確認された場合に、スミス・マギニス症候群と確定診断されます。

スミス・マギニス症候群は根本的な治療法が確立されておらず、症状に応じた対症療法が中心です。 言語療法や理学療法、特別支援教育などを通して、患者の発達や社会適応を支援します。

睡眠障害やてんかんなどの合併症に対しては、薬物治療やそれぞれの合併症にあわせた専門的な治療がおこなわれます。

スミス・マギニス症候群は稀な疾患ですが、早期の発見と適切な支援によって、患者の生活の質を大きく向上させることが期待できます。 家族や支援者が疾患への理解を深め、長期的な視点でサポートしていくことが重要です。

スミス・マギニス症候群の原因

スミス・マギニス症候群の原因は、17番染色体にあるRAI1遺伝子の異常です。 具体的には、遺伝子の一部が欠けていたり、変異したりすることで発症します。

RAI1遺伝子は、睡眠や覚醒などの1日の体内リズムに関わる遺伝子を制御する働きがあり、うまく機能しなくなることで、さまざまな症状が現れます。

RAI1遺伝子の異常は、親からの遺伝ではなく突然変異として起こることが多いです。

スミス・マギニス症候群の前兆や初期症状について

スミス・マギニス症候群の主な症状としては、特徴的な顔つき、言語能力や発達の遅れ、行動障害、睡眠障害などが挙げられます。

顔の特徴としては、平らな後頭部、おでこの突出、眉毛のつながり、低位置の耳などがあります。

同年代の子どもと比較し、幼児期から成長や発達がゆっくりで、特に言葉の習得が遅い傾向にあります。 多動(じっとしていられない状態)や衝動性(思いついたことをすぐ行動にうつす状態)、激しい気分の変化、自傷行為なども見られます。

睡眠障害が顕著に見られることも多く、夜間に何度も目が覚めたり、目が覚めた後になかなか寝つけなかったりすることがあります。

また、難治性のてんかんが見られる場合や、生まれつき心臓の病気を合併している場合もあります。

これらに当てはまる症状がみられた場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

スミス・マギニス症候群の検査・診断

スミス・マギニス症候群の診断では、臨床症状や行動の観察、遺伝子検査などをおこないます。

臨床症状では、視診で顔の特徴や指の長さなどを確認します。 次に問診で、夜間の睡眠や言語発達の遅れなど、日常生活の様子についても詳しく調べます。

診断を確実にするために、17番染色体の欠失やRAI1遺伝子の変異の有無を調べる遺伝子検査をおこないます。 これらの異常が確認された場合、スミス・マギニス症候群の確定診断がつきます。

スミス・マギニス症候群の治療

スミス・マギニス症候群の根本的な治療法は現在のところ確立されておらず、症状に応じた対症療法や療育支援が中心となります。

行動障害や発達の遅れに対しては、言語療法や理学療法などのリハビリテーションやカウンセリングがおこなわれます。 リハビリテーションを通じてコミュニケーション能力を高めたり、発達を促したりすることが期待できます。

また、落ち着きがない行動や感情のコントロールが難しい場合は、必要に応じてカウンセリングを受けることで自分を制御する方法を少しずつ学んでいきます。 学校や支援機関と連携しながら、社会のなかで自分らしく生活できるようにサポートしていきます。

睡眠障害に対しては、睡眠薬による薬物療法のほか、日中の過ごし方や生活リズムを整えるリハビリテーションなどがおこなわれます。 また、先天性心疾患などの合併症が見られる場合には、それぞれの合併症にあった治療も同時におこなわれます。

スミス・マギニス症候群は症状の個人差が大きいため、医療スタッフと相談しながら一人ひとりにあわせた治療方針を決定します。 定期的に様子を見ながら、必要に応じて支援内容を見直していくことも大切です。

スミス・マギニス症候群になりやすい人・予防の方法

スミス・マギニス症候群は、偶発的な遺伝子の異常が原因であり、特定の人がなりやすいという傾向はありません。

家族のなかで同じ病気の人が出ることはほとんどなく、兄弟姉妹に同じ疾患が現れることもまれです。 ただし、一部の患者の両親には染色体の一部が複雑に入れ替わっていることがあり、その場合には、次に産まれてくる子どもにも発症する可能性があると言われています。

現在のところ、スミス・マギニス症候群の予防法は確立されていませんが、遺伝について不安がある場合は遺伝カウンセリングを受けることが可能です。

病気を未然に防ぐことは難しいものの、早期発見により適切な治療を受けることで、患者の成長をサポートできます。 疑わしい症状が認められた場合は、早めに専門医に相談しましょう。

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