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コフィン・シリス症候群
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

コフィン・シリス(Coffin-Siris)症候群の概要

コフィン・シリス症候群は、1970年にコフィン(Coffin)医師とシリス(Siris)医師によって初めて報告された、まれな先天性の病気です。コフィン・シリス症候群の特徴は、知的な発達の遅れや体の成長の遅れ、顔の特徴的な形、そして手足の小指や小趾(足の小指)の爪や骨がうまく作られないことです。この病気は、からだの中でDNAの情報を使って遺伝子をコントロールする「クロマチン」という構造の働きが乱れることで起こります。

コフィン・シリス症候群の原因

コフィン・シリス症候群の原因は、DNAの一部である遺伝子に起こる変化(遺伝子変異)です。とくに「SWI/SNF複合体(スウィ・スナフ複合体)」という、遺伝子のスイッチをオン・オフする働きを持つたんぱく質の集まりに関わる遺伝子が関係しています。中でもARID1B(アリッドワンビー)という遺伝子が最もよく関係しており、ほかにもARID1A、SMARCB1、SMARCA4などがあります。これらの遺伝子の異常は、生まれる前の段階で偶然に起こる「de novo変異(デ・ノヴォ変異)」と呼ばれるもので、多くのケースで家族に同じ病気の人はいません。

コフィン・シリス症候群の前兆や初期症状について

コフィン・シリス症候群の症状は赤ちゃんの時から見られることが多く、体重がなかなか増えなかったり、母乳やミルクをうまく飲めなかったりすることがあります。また、筋肉の力が弱く、動きが遅れていたりします。顔の見た目にも特徴があり、太くて濃い眉毛、長いまつ毛、鼻が広くて平ら、厚い唇などが見られることがあります。小指や足の小指の爪が小さかったり、無かったりすることも特徴です。知的な発達がゆっくりで、言葉の発達が遅れることが多いですが、なかには意思を伝える方法として文字を使えるお子さんもいます。

コフィン・シリス症候群の検査・診断

コフィン・シリス症候群の診断には、まず見た目や成長・発達の様子から医師が疑いを持ち、必要に応じて遺伝子の検査を行います。とくに小指や足の小指の爪や骨の異常、発達の遅れ、顔の特徴などがそろっている場合にコフィン・シリス症候群が疑われます。最近では、DNAの配列を調べる「エクソーム解析」などの検査で、コフィン・シリス症候群に関係する遺伝子の異常がわかることがあります。検査は専門の施設で行われており、保険が使える場合もあります。

コフィン・シリス症候群の治療

コフィン・シリス症候群に特効薬はありませんが、一人ひとりの症状に合わせてサポートしていくことが大切です。赤ちゃんのうちは、栄養が足りなくならないように鼻からのチューブやおなかに栄養を入れる管(胃ろう)を使うことがあります。体の動きや言葉の発達を助けるために、理学療法(リハビリ)や言語療法を早くから始めることが勧められます。てんかんの症状がある場合には、抗てんかん薬を使ってコントロールします。また、行動が落ち着かない、多動傾向が強い場合には、精神的な支援や薬が使われることもあります。成長に関する問題があっても、成長ホルモンの異常はないため、ホルモン治療は効果がないことが多いです。

コフィン・シリス症候群になりやすい人・予防の方法

コフィン・シリス症候群は、特別な原因がなくても赤ちゃんが生まれるときに偶然に遺伝子の変化が起きてしまうことで発症します。家族に同じ病気の人がいないことがほとんどで、次の子どもにも同じ病気が起きる可能性はとても低く(1%未満)です。ただし、まれに親の体の一部の細胞に遺伝子変異がある「性腺モザイク」と呼ばれる状態のことがあり、この場合には再びコフィン・シリス症候群の子どもが生まれることもあります。そのため、家族に不安がある場合には、臨床遺伝専門医による相談(遺伝カウンセリング)を受けると安心です。コフィン・シリス症候群を予防する方法は現在のところ確立されていませんが、原因が特定されている場合には、出生前に検査を行うこともあります。

参考文献

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