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ビタミンA過剰症
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

ビタミンA過剰症の概要

ビタミンA過剰症とは、病名のとおりビタミンAを過剰摂取することによる症状を指します。

ビタミンは大きく脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分けられます。
水溶性ビタミンは過剰に摂取しても尿として排泄されますが、一方でビタミンAを含む脂溶性ビタミンは、排泄されず体内に蓄積されるため、過剰摂取すると体内に蓄積していきます。

ビタミンAには目の働きや皮膚・粘膜を正常に保つ役割がありますが、過剰になると重篤な症状を起こすことがあり、注意が必要です。

ビタミンAの過剰症は、通常の食事をしている場合は発生頻度は高くありません。
しかし、サプリメントの摂取やクマなどの動物・イシナギなどの魚の肝臓の摂食による報告例があります。
発生頻度は高くありませんが、ビタミンAを含む医薬品による発生例もあります。

妊娠初期にビタミンAを過剰摂取すると、胎児に奇形が起こるおそれがあるため、妊娠3ヶ月以内または妊娠希望の方は、ビタミンAの過剰摂取に特に気をつける必要があります。

ビタミンA過剰症の原因

ビタミンA過剰摂取の主な原因として、ビタミンAを多く含む食品、サプリメント、医薬品などが挙げられます。
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』によると、ビタミンAの推奨摂取量は成人男性は850~900μgRAE/日、成人女性は650~700μgRAE/日となっています。
この量を超えたビタミンAを摂取すると、肝臓へ蓄積されていきます。

ビタミンAを多く含む食品は主に動物性のものです。
特に肝臓、うなぎ、肝油などはビタミンA含有量が多く、大量摂取により急性のビタミンA過剰症が起きることがあります。

ビタミンAを多く含むサプリメントでは、長期間の摂取により慢性のビタミンA過剰症を起こす可能性があります。
難治性ニキビに用いられるイソトレチノインや、乾癬治療薬であるレチノイドにはビタミンAが含まれています。
そのため、これらを大量に内服するとビタミンA過剰症を起こす可能性があります。

また、ビタミンAは遺伝子発現の調節因子として機能し、器官形成期の胎児の発達に重要な役割を果たしています。そのため、妊婦のビタミンA過剰摂取は、胎児の発育のバランスを崩し、奇形の原因になり得ます。具体的には水頭症、口蓋裂、小耳症や外耳道閉鎖症、心奇形などが報告されています。
そのため、妊娠希望の方や、妊娠3ヶ月以内の妊婦の方はビタミンAの過剰摂取を避けることが望ましいです。

ビタミンA過剰症の前兆や初期症状について

ビタミンA過剰症は、消化器、皮膚、毛髪、骨、関節、肝臓、脳などさまざまな臓器へ影響を及ぼします。

一度に大量のビタミンAを摂取すると急性のビタミンA過剰症が起こります。初期症状としては、頭痛、悪心・嘔吐、下痢、食欲不振、皮膚の乾燥・剥がれなどがみられます。
急性のビタミンA過剰症の多くが、ビタミンAの過剰摂取後約30分から12時間までの短い時間のあいだに発生します。進行すると、昏睡などの重篤な症状が現れることもあります。

継続的にビタミンAを過剰摂取すると慢性のビタミンA過剰症が起こります。症状としては骨折、関節痛、皮膚の乾燥・剥がれ、脱毛、肝臓の腫大、膵臓の腫大などが起こります。
また、脳圧の亢進による頭痛や、平衡感覚の乱れによるふらつき、めまいが生じることがあります。
ビタミンAの骨に対する影響は、ビタミンAの破骨細胞による骨吸収亢進、骨芽細胞の増殖抑制、ビタミンDの作用の阻害が原因だと考えられています。

子どもにもビタミンA過剰症は起こることがあります。その際には機嫌が悪く落ち着きがなくなる、易刺激性がみられることがあります。
進行すると骨の成長への影響、発育不良が起こる恐れがあり、注意が必要です。

ビタミンA過剰症の症状は多岐にわたります。また、同様の症状がみられるほかの病気がないかも確認する必要があります。
そのため、ビタミンA過剰症が疑われる症状がある場合には内科もしくは症状に応じた診療科を受診しましょう。
具体的には皮膚症状がある場合には皮膚科、悪心・嘔吐がある場合には消化器内科、頭痛がある場合には脳神経内科への受診が検討されます。また、ビタミンAを過剰摂取している可能性があれば受診時に医師へ伝えましょう。

ビタミンA過剰症の検査・診断

ビタミンA過剰症の診断は、問診、身体診察所見、血液検査・尿検査から総合的に判断されます。
問診では、ビタミンAの過剰摂取の原因となるような食品の摂取、サプリメント、薬剤がないかを質問します。

ビタミンAの過剰摂取が疑われた場合には、一度に大量のビタミンAを摂取したのか、それとも継続的にビタミンAを過剰摂取したのかを確認します。
摂取状況と、症状・身体所見を照らし合わせて急性のビタミンA過剰症や慢性のビタミンA過剰症に矛盾しないか判断します。

ビタミンAの過剰症とビタミンAの血中濃度はあまり相関しないという見解もありますが、診断が困難な場合には、血液検査結果も参考にします。血液検査では、レチノール濃度を測定します。ビタミンA過剰症ではレチノール濃度が高値となります。

また、ビタミンA過剰症の影響は全身に及ぶため、血液検査、尿検査、X線写真などで評価します。
血液検査はレチノール濃度のほかにも、肝機能の指標となる検査結果に異常がないか確認します。
X線写真では、ビタミンA過剰症による骨密度低下や骨折のリスクを確認します。

ビタミンA過剰症の治療

まずはビタミンAの摂取を中止します。
ビタミンAを多く含む食品は摂取を制限し、サプリメントや医薬品は使用を中止します。
急性のビタミンA過剰症の場合は摂取中止から数日で、慢性のビタミンA過剰症の場合は数週間で症状が改善します。

また、ビタミンAの中止と並行して症状を和らげる治療を行います。具体的には頭痛や関節痛には鎮痛薬が、吐き気には制吐薬が、皮膚の症状には保湿剤やステロイド薬が処方されます。

ビタミンA過剰症になりやすい人・予防の方法

動物の肝臓を好んで摂取している方は、ビタミンAの過剰摂取に注意が必要です。大量摂取は避けて、適量を心がけましょう。

ビタミンAを含むサプリメントを服用している方や、ビタミンA誘導体を含む医薬品を使用している方もビタミンA過剰症に注意が必要です。用法・用量を守って服用しましょう。
また、ビタミンAを多く含む食品を摂取することで過剰摂取となる可能性もあります。大量摂取はしないようにしましょう。

妊娠中の方は、ビタミンAの推奨摂取量を確認し、ビタミンAを多く含む食品を摂るときは含有量から1日に摂取できる量を計算しておくとよいでしょう。

ビタミンAは、ビタミンAそのものと、ビタミンAになる前の形のものから補給することができます。
動物類には、主にビタミンAそのものであるレチノールが多く含まれています。
植物類には、ビタミンAになる前の形であるプロビタミンAが多く含まれています。

主なプロビタミンAにカロテノイドがあります。そのなかでもβカロテンはビタミンAに変換されやすいとされます。
βカロテンは、体内に吸収されたのち脂肪細胞などに貯蔵され、ビタミンAが不足しているときにビタミンAに変換されます。

βカロテンによるビタミンA過剰症の症状の発現はあまり報告されていません。
ビタミンA過剰症が気になる方は、植物性のものからプロビタミンAを摂取するようにするとよいでしょう。

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