

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
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浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。診療科目
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
ジクワット中毒の概要
ジクワット中毒とは、除草剤として使われるジクワットという化学物質を体内に取り込むことで起こる中毒症状のことです。 ジクワットは農業や庭の雑草駆除に使われる除草剤として英国で開発されました。日本では現在、ジクワット31.8%溶液が商品名レグロックスとして、もしくはパラコート 5%とジクワット 7%の混合溶液が商品名プリグロックスLとして、いずれも劇物指定および農薬登録を受けています。 ジクワットは動植物内に取り込まれると、活性酸素を生じることで細胞内のDNAや蛋白質を破壊します。逆に土壌に付着すると残留はしますが活性はすぐ失われるため、散布後すぐに種をまいたり作物を植えたりできるとされます。 大変強力な薬剤で、誤って飲んだり吸い込んだりすると、身体に深刻なダメージを与えます。 この中毒は珍しいものの、発症すると腎臓、肝臓、肺、神経系などに深刻な影響を及ぼし、重症になると命を落とすこともあります。特にジクワットには特効薬がないため、予防が重要です。ジクワット中毒の原因
ジクワット中毒は、ジクワットが体内に取り込まれることで起こります。 以下のようなケースが主な原因となります。誤飲
ジクワットを誤って飲んでしまうことが最も多い中毒の原因です。具体的には、以下のような状況です。- 除草剤をペットボトルなどの飲料容器に入れてしまい、家族や子どもが水やジュースと間違えて飲んでしまう
- 保管場所が適切でなく、子どもが手に取りやすい場所にある
自殺目的の摂取
ジクワットはとても強い毒性を持つため、意図的に飲んで自殺を試みるケースがあります。 残念ながらジクワットを摂取すると、短時間で重症化するため、多くの場合で救命は困難です。職業的な曝露
農業や造園業に従事する方が、ジクワットにさらされることがあります。具体例としては以下となります。- 手袋や防護服(ぼうごふく)を使わずに扱い、皮膚から吸収してしまう
- 噴霧(ふんむ)時に誤って吸い込んでしまう
- 作業後に手を洗わずに食事をし、口から取り込んでしまう
環境からの曝露
適切に管理されていない場合、ジクワットが水や土壌を汚染し、それを通じて人体に入ることがあります。特に水源が汚染されると、気付かないうちに摂取してしまう可能性があるため、管理が重要です。ジクワット中毒の前兆や初期症状について
ジクワット中毒は薬物中毒なので前兆はありません。 初期症状は摂取した量や体内に入った経路によって異なりますが、多くの場合、数時間以内に現れます。症状が悪化すると、複数の臓器が正常に機能しない多臓器不全という状態となり、最終的に死に至ることがあります。消化器症状
ジクワットとの接触により舌・口腔内・消化管粘膜にびらんや潰瘍を形成します。 また、嘔吐、腹痛、下痢、上部消化管穿孔、黄疸、肝機能障害も起こします。 特徴的な症状として、麻痺性イレウスにより大量の体液が腸管内に貯留することで、全身の脱水症状を起こしやすいとされています。循環器系症状
上記のように大量の体液が腸管内に貯留することで循環が不安定となり血圧低下を起こし、不整脈も出現します。また、大量のジクワットを服用してショックを起こした症例が報告されています。呼吸器系症状
呼吸困難、肺水腫、肺出血を起こします。 ジクワットではパラコートと違い肺線維症は起こりませんが、ジクワットとパラコートの混合溶液による中毒では、パラコートによる肺線維症を合併します。中枢神経系症状
意識障害、けいれん、脳血管障害が起こります。 特に毛細血管が壊死することで出血が起こりやすく、脳幹部で発生しやすいとされます。腎障害
ジクワットは尿細管壊死や急性腎不全を起こすため、以下のような症状がみられます。- 尿の量が減る(無尿ないし乏尿)
- 尿の色が濃くなる
受診すべき診療科
ジクワット中毒は、服用を目撃されたか急速な臓器障害によって発覚することが多く、そうした場合は救急科(救急外来)を受診することになります。ジクワット中毒の検査・診断
医師は、患者さんの状況や症状を確認したうえで、以下のような検査を行います。血液検査・尿検査
- 腎臓や肝臓の障害を確認するための採血や検尿
- 血液や尿の検体からジクワットの残留成分を確認
画像検査
重症の場合、臓器への影響を確認するため、レントゲンや超音波検査を行います。また脳幹出血の可能性がある場合など、CTスキャンを行うこともあります。ジクワット中毒の治療
ジクワットには特効薬がないため、治療は体内への吸収を防ぐ、臓器を守るといった対象治療が中心となります。体内から毒を取り除く
服用から2時間以内であれば、以下の処置によって体内に吸収されるジクワットの総量を減らせることがあります胃洗浄により、摂取したジクワットを取り除く
胃洗浄は患者さんの胃内へ洗浄液を注入してから体外へ排出させ、これを繰り返して胃内の薬物を取り除く手法です。意識がない場合は、先に気管挿管して呼吸器への誤嚥を予防します。 具体的には、左側臥位にして専用のゴムチューブを口から胃まで挿入し、チューブ外側の先端から洗浄液をゆっくり注入して胃内を満たしたら先端を下げて排出させ、これを繰り返します。 成人では生理食塩水または38度程度の水道水を、1回最大300㎖まで注入します。 5歳以下の小児は水道水を使うと低ナトリウム血症を起こすため38度程度の生理食塩水を、1回10〜20㎖/kgまで注入します。活性炭を飲ませる、または胃内に投入する
胃洗浄が終わったら、残存する洗浄液などの胃内容物をできるだけ吸引した後、活性炭を投与 します。胃洗浄を行わず意識が清明なら、座位で服用させます。 成人では活性炭50〜100gを38度の湯300~500㎖に溶かして服用させます。 小児では1g/kgを38度の生理食塩水10~20㎖/kgに溶かして服用させます。電解質補正と輸液
- 脱水を防ぐため、大量の点滴を行う
- ナトリウム・カリウムなど電解質のバランスを適正範囲内に維持する
臓器の保護とサポート
腎機能障害が進行した場合
血液透析と血液吸着を併用します。ただし、脳幹出血の危険があるため、ヘパリンは最小限の量とします。肺の機能が悪化した場合
気管挿管もしくは気管切開を通じて人工呼吸器に接続します。パラコートとの合併中毒の場合はできるだけ酸素投与を控え、人工呼吸器の送気圧(PEEP)を増やすなどで対応します。ジクワット中毒になりやすい人・予防の方法
ジクワット中毒になりやすい方として、以下が挙げられます。 特に自殺リスクがある方については、除草剤服毒に限らない自殺予防対策や、抑うつ気分の早期発見および治療開始による対策が望まれます。- 農業従事者や造園業の方
- 小さな子ども(誤飲のリスク)
- 自殺リスクのある方(うつ病などを持つ方)
除草剤の管理
除草剤は必ず専用の容器に入れ、鍵付きの場所に保管します。 ジクワットは劇物および毒物取締法において劇物に指定されており、鍵のかかる丈夫なものにしまい、必ず施錠し、鍵の管理を徹底しなければなりません。 誤飲防止のため、ペットボトルなど飲食物に通常使用される容器に移し替えることは禁止されています。以上のような管理規定がありますので、これを遵守します。使用時は必ず手袋・マスクを着用する
除草作業に従事する際は、噴霧されたジクワットを吸入しないためのマスクや、目や皮膚への接触による刺激症状を予防するための手袋や防護服を着用します。 特に誤飲した場合はすぐに病院に行きましょう。関連する病気
- 筋肉の麻痺
- 呼吸不全
- 神経筋障害
参考文献




