

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
先天性無ガンマグロブリン血症の概要
先天性無ガンマグロブリン血症は、体を守る役割を持つ「免疫グロブリン(=抗体)」が生まれつき産生されない病気で、新生児にまれにみられる原発性免疫不全症候群(厚生労働省指定難病65)の1つに含まれています。 先天性無ガンマグロブリン血症を発症した患者の体内では、侵入してきた異物を攻撃するための「抗体」が作られません。通常、新生児は母親から抗体の一部を受け継ぎますが、それらが減少しはじめる生後6ヶ月ごろからさまざまな感染症にかかりやすくなります。
先天性無ガンマグロブリン血症の症状は、さまざまな感染症にかかりやすくなることです。中耳炎や皮膚炎、副鼻腔炎、下痢などを頻繁に繰り返すのが特徴的で、髄膜炎や肺炎などの重症な感染症を発症することもあります。
先天性無ガンマグロブリン血症の原因は遺伝子の異常にあり、特に性染色体であるX染色体上のBTK遺伝子の変異が多く見られます。 この遺伝形式はX連鎖劣性遺伝と呼ばれ、主に男児に発症することがわかっています。 発症率は出生男児10万人に1人程度の割合です。 まれに別の遺伝形式で女児に発症することもあります。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター「23X連鎖無ガンマグロブリン血症」)
診断は、特徴的な症状や家族歴を手がかりに疑われ、血液検査や遺伝子検査によって確定されます。 血液検査では免疫グロブリン値の著しい低下やB細胞(免疫細胞の一種)の欠如が確認され、遺伝子検査でBTK遺伝子の変異が認められます。
治療の中心は免疫グロブリン製剤による補充療法です。 免疫力を維持する目的で、補充療法を感染症の発症時だけでなく定期的におこないます。 先天性無ガンマグロブリン血症は早期発見が重要で、適切な治療介入により、生活の質を大きく改善できると考えられています。そのため、日本国内でも、「新生児マススクリーニング検査」の対象に加える動きも広まりつつあります。
先天性無ガンマグロブリン血症の原因
先天性無ガンマグロブリン血症の原因は、母親から遺伝子の異常を受け継ぐことです。
主に免疫グロブリンを産生させるためにはたらくBTK遺伝子が、X染色体上に存在することが知られています。その結果、先天性無ガンマグロブリン血症の多くはX連鎖劣性遺伝形式を取り、男児の発症が多いという特徴につながっています。
BTK遺伝子の異常によりB細胞が成熟できなくなり、免疫グロブリン(=抗体)が作られなくなると考えられています。
先天性無ガンマグロブリン血症の前兆や初期症状について
先天性無ガンマグロブリン血症の症状は、通常、母親から受け継いだ抗体が減少する生後6ヶ月ごろから見られ始めます。 この時期から、さまざまな感染症に対して脆弱になります。
初期症状としては、中耳炎や皮膚炎、副鼻腔炎、下痢などの感染症を頻繁に繰り返すようになることが挙げられます。 また、肺炎や髄膜炎、敗血症などの感染症を発症し、重篤な状態におちいることもあります。 これらの症状を引き起こす主な原因菌としては、肺炎球菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、エンテロウイルスなどが知られています。
症状は成人期にも持続し、特に呼吸器系と耳鼻科領域の慢性疾患が問題となります。 肺炎や気管支拡張症などの呼吸器疾患、慢性副鼻腔炎などが長期にわたって生活の質を低下させる要因となります。 また、成人期以降は、大腸がんや胃がんに合併しやすくなると考えられています。
先天性無ガンマグロブリン血症の検査・診断
臨床症状や家族歴から先天性無ガンマグロブリン血症が疑われる場合、血液検査や遺伝子検査がおこなわれます。 血液検査では、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の値で特にIgGが著しく低下していることが確認されます。
さらに末梢の血液でB細胞の値が1%未満の場合、先天性無ガンマグロブリン血症の可能性が高まります。 確定診断には遺伝子検査が用いられ、X染色体上のBTK遺伝子の変異が認められれば診断が確定します。
通常は幼児期ごろに診断されることが多いものの、思春期以降に診断されるケースもあります。
先天性無ガンマグロブリン血症の治療
先天性無ガンマグロブリン血症には根本的な治療法が存在しませんが、免疫グロブリン製剤を用いた補充療法が標準的な治療としておこなわれます。 免疫グロブリン製剤の補充療法は、感染症を予防するために3〜4週間ごとに静脈内投与でおこなわれ、体内の免疫グロブリン値を一定に保つことを目指します。
成人期以降は皮下注射による在宅療法も併用されることがあり、これにより社会生活との両立が可能となります。
また、慢性的な呼吸器疾患などがある場合には、抗菌薬を投与することもあります。 先天性無ガンマグロブリン血症では、重篤な副反応を引き起こす恐れがあるため、BCGワクチンなどの生ワクチンの接種は禁忌です。
患者の健康維持と生活の質を向上させるためには、定期的な補充療法や感染症予防のための適切な管理が重要になります。
先天性無ガンマグロブリン血症になりやすい人・予防の方法
先天性無ガンマグロブリン血症は、母親がBTK遺伝子の変異を保有している場合、生まれてくる男児に発症する可能性が高いですが、まれに他の原因により発症することもあります。
先天性無ガンマグロブリン血症を予防する方法は現在のところ存在しません。 しかし、発症後は症状を発症・悪化させないために、定期的な免疫グロブリン補充療法を受けながら、感染予防対策を徹底することが重要です。
具体的には、手洗いや手指消毒を頻繁におこない、外出時にはマスクを着用します。 さらに、人混みを避け、感染症に罹患している人との接触を控えることで、感染リスクをできる限り抑えられます。 これらの対策を日常的に実践することで、生活の質向上が期待できます。
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参考文献




