ビタミンK欠乏症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

ビタミンK欠乏症の概要

ビタミンK欠乏症とは、体内のビタミンKが不足することで血液が固まりにくくなり、出血しやすくなる病気です。ビタミンKは脂溶性ビタミンの一種で、ヒトの体内では血液の凝固に関わる重要な役割を担っています。

ビタミンK欠乏症の症状は、発症する時期により異なりますが、新生児や乳児では消化管出血や頭蓋内出血の症状が多くみられ、重症の場合は生命にかかわる危険性もあります。成人では、消化管出血、血尿や鼻血などの症状があらわれることがあります。

また、ビタミンKは血液の凝固だけでなく、骨の健康維持や動脈の石灰化を防ぐ役割もあるため、ビタミンKが不足すると、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まったり、動脈硬化が進行しやすくなったりする可能性があります。

ビタミンK欠乏症の主な原因は、腸内細菌による合成量の低下、吸収障害、特定の薬剤による影響などです。
健康な成人であれば、食事からの摂取に加え腸内細菌の働きによりビタミンKが合成されるため、ビタミンK欠乏症になることはまれです。しかし、新生児や肝・胆道疾患がある人、抗生物質を長期間使用している人などは、ビタミンKが不足しやすく、欠乏症の発症リスクが高まるとされています。

ビタミンK欠乏症の治療や予防には、ビタミンKを経口または注射で補充する方法が一般的です。とくに新生児や乳児では、予防的にビタミンKを投与することで消化管出血や頭蓋内出血の発症リスクを下げることができます。現在では先天的な肝胆道系疾患への備えとしてもこの予防策が広く実施されています。

ビタミンK欠乏症の原因

ビタミンK欠乏症の主な原因は、腸内細菌による合成量の低下、吸収障害、特定の薬剤による影響などが挙げられます。ひとつの原因だけで発症する場合もありますが、複数の要因が重なることで発症リスクが高まると考えられています。

新生児や乳児は、腸内細菌の発達が未熟であることなどを理由にビタミンK不足を起こしやすいことが知られています。そのため、現在では「新生児ビタミンK欠乏性出血症」の発症予防を目的として、ビタミンKの補充が広くおこなわれています。

一方成人では、通常、腸内細菌が発達していることから、食事からのビタミンKの摂取が不足してもビタミンK欠乏症になることはほとんどありません。しかし、抗菌薬を長期間使用している場合には、腸内細菌のバランスが崩れ、ビタミンKの合成量が低下することがあります。

また、ビタミンKは脂溶性ビタミンのため、胆道閉鎖症などの肝・胆道疾患があると脂質の吸収が妨げられ、それにともないビタミンKの吸収も低下します。さらに、ワルファリンや抗てんかん薬などビタミンKの働きを妨げる薬剤を服用している場合も、ビタミンK欠乏症の原因となることがあります。

ビタミンK欠乏症の前兆や初期症状について

ビタミンK欠乏症の主な症状は、血液が固まりにくくなることによる出血です。

新生児や乳児の場合は、発症時期によって「新生児ビタミンK欠乏性出血症」と「乳児ビタミンK欠乏性出血症」に分けられ、それぞれ症状が異なります。

新生児ビタミンK欠乏性出血症は、出生後7日までに発症し、とくに出生後24時間以内に発症する場合は、頭蓋内出血や消化管出血、胸腔内出血などの症状がみられます。一般的には、生後2日から4日までに発症することが多く、この場合は軽度の消化管出血が主な症状となります。また、皮膚に点状の出血斑がみられる、注射や採血後に出血が止まらない、吐血や血の混じった便(下血)がみられる、などの症状があらわれることがあります。

乳児ビタミンK欠乏性出血症では、生後2週目から6ヶ月ごろまでの間に発症することが多く、約8割以上で頭蓋内の出血がみられ、重篤な場合は生命に関わる危険性もあります。

成人では、最も多い症状が消化管出血で、血尿や鼻血がみられることもあります。注射や採血の際に出血が止まりにくいことで異変に気づくこともあります。また、ビタミンKは、骨の健康の維持や動脈の石灰化の防止にも関与しているため、慢性的にビタミンKが欠乏すると、骨粗しょう症や骨折のリスクが高まるほか、動脈硬化が進行しやすくなる可能性があることが指摘されています。

ビタミンK欠乏症の検査・診断

ビタミンK欠乏症の診断では、血液検査が重要な役割を果たします。出血傾向を確認するため、血液の凝固時間を測定するプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が検査されます。PTやAPTTが通常よりも長くなっている場合、ビタミンK欠乏症が疑われます。

また、ビタミンKが関与する凝固因子の異常を示す「PIVKA-II」という値を測定することも診断の決め手になります。ビタミンK欠乏症ではPIVKA-IIの値が上昇することが特徴で、この検査を行うことでより正確にビタミンK欠乏症を診断できます。

ビタミンK欠乏症の治療

ビタミンK欠乏症の治療は、ビタミンKの補充が基本となります。経口または静脈内の注射によってビタミンK製剤を投与し、血液の凝固機能を正常な状態に戻します。

症状が重く緊急性が高い場合や、肝・胆道疾患などでビタミンKの吸収不全がある場合は、静脈内注射による投与が選択されます。ビタミンK欠乏症が疑われた時点で、診断の確定を待たずにビタミンKを投与することが推奨されています。

ビタミンK欠乏症になりやすい人・予防の方法

ビタミンK欠乏症は、とくに新生児や乳児が発症しやすいと考えられており、出生後に適切にビタミンKを補充することが予防策として推奨されています。

新生児ビタミンK欠乏性出血症は、生後2日から4日までに発症することが多いとされています。ただし、肝臓や胆道の病気がある新生児や、呼吸障害などの合併症をもつ新生児では、出生後24時間以内に発症することもあります。

また、母親がセリアック病などのビタミンKの吸収障害を引き起こす疾患を抱えている場合や、妊娠中にワルファリンや抗てんかん薬などの抗ビタミンK作用をもつ薬剤を服用していた場合も、早期の発症リスクが高まることが知られています。

乳児ビタミンK欠乏性出血症は、生後3週から2ヶ月ごろの母乳栄養を中心とした乳児に発症しやすいことが知られています。とくに男児は女児に比べて約2倍発症しやすく、初夏から晩秋にかけて多くみられることが報告されています。

いずれの場合も、出生後すぐにビタミンKを経口または静脈内注射で補充することで、ビタミンK欠乏症の予防が図られます。

また、胆道閉塞症などの肝臓や胆道の疾患がある場合、便の色が淡い黄色になることが特徴のひとつです。生後4ヶ月ごろまでは、母子手帳に付属している「便色カード」を活用し、便の色に異常がないか確認することが重要です。これにより、肝・胆道疾患の早期発見につながり、ビタミンK欠乏症を予防することが期待できます。

成人の場合も、胆道閉鎖症などの肝・胆道の疾患がある人や、抗菌薬を長期間服用している人は、ビタミンKの吸収が低下しやすく、ビタミンK欠乏症のリスクが高まる可能性があります。また、ワルファリンや抗てんかん薬など、抗ビタミンK作用をもつ薬剤を服用している場合も注意が必要です。ビタミンK欠乏症のリスクが高い方は、定期的に血液検査を受け、血液の凝固機能を確認することが重要です。

ビタミンK欠乏症は、とくに新生児や乳児では適切なビタミンKの補充によって予防が可能です。現在では、予防策が普及したことで、ビタミンK欠乏症の発症率は大きく低下しています。


関連する病気

  • 新生児ビタミンK欠乏性出血症
  • 乳児ビタミンK欠乏性出血症
  • 特発性乳児ビタミンK欠乏性出血症
  • 二次性乳児ビタミンK欠乏性出血症

この記事の監修医師

S