

監修医師:
五藤 良将(医師)
先天異常症候群の概要
先天異常症候群とは、生まれつき複数の臓器に形や機能の異常が認められる疾患の総称です。特定の臓器のみに異常がある場合は個別の疾患として分類され、先天異常症候群とは区別されています。
先天的な疾患は新生児の約5%にみられ、そのうち日本国内の先天異常症候群の患者数は約4000人と推定されています。先天異常症候群の多くは、染色体や遺伝子の異常が原因とされ、遺伝的要因や環境的要因が関与すると考えられています。しかし、約半数は原因がまだはっきりわかっていません。
先天異常症候群は、影響を受ける臓器によって数十から数百の疾患に分類されます。症状も障害される臓器によって異なりますが、身体の成長や発達の遅れ、けいれん、骨格異常、疾患特有の顔つきなどがみられることがあります。また、中枢神経や心肺機能、消化管などに合併症をともなうことが多く、これらに障害が及ぶと生命に関わる可能性があるため注意が必要です。
現時点では、先天異常症候群を根本的に治療する方法は確立されていません。治療方法は、影響を受ける臓器や症状の重さなどによって異なり、外科的治療や薬物療法などが行われます。先天異常症候群の早期診断によって合併症のリスクを予測し、適切な治療を行うことが重要です。

先天異常症候群の原因
先天異常症候群の多くは、染色体や遺伝子の異常が原因と考えられています。染色体の異常には、本数や構造の変化のほか、一部が欠けたり重複したりするケースも含まれます。こうした変化により複数の遺伝子に影響が生じ、先天異常症候群が発症することがあります。また、遺伝子の働きを調整するしくみに異常が生じることも、原因のひとつと考えられています。
近年の研究により、多くの先天異常症候群の原因遺伝子が特定されており、確定診断や治療に役立てられています。しかし、複数の要因が関係していると推測されるものも多く、全体の約半数はまだ明らかな原因がわかっていません。
妊娠中の母体の健康状態や薬剤、感染症、放射線などの環境要因も先天異常に影響を及ぼすことが知られています。とくに、飲酒や喫煙は胎児の発育に悪影響を与えるため注意が必要です。また、妊娠中に風疹に感染すると「先天性風疹症候群」を発症することがあり、先天性心疾患や難聴、白内障などのリスクが高まることが知られています。
先天異常症候群の前兆や初期症状について
先天異常症候群は、出生時から症状があらわれることが多く、特有の外見的な特徴や機能的な異常がみられます。たとえば、ダウン症候群では特有の顔つきや筋緊張の低下がみられ、18トリソミー症候群では胎児期からの成長障害や先天性心疾患などがみられます。
一方で、一部の先天異常症候群では新生児期に明らかな異常がみられず、成長とともに症状があらわれることもあります。たとえば、マルファン症候群では、高身長や強い近視、心臓の動脈瘤などが成長とともにあらわれることがあります。神経発達に関連する先天異常では、言語発達の遅れや学習障害などが幼児期以降に明らかになるケースもあります。
先天異常症候群の検査・診断
先天異常症候群は、複数の臓器に形態的・機能的異常がみられることから診断されます。出生時や乳幼児期に成長の遅れや身体の特徴がみられた場合には、必要に応じてくわしい検査が行われます。また、一部の先天異常症候群は、妊娠中の出生前診断によって疑われることもあります。
具体的には、出生週数や年齢に対して成長が遅れていないか、逆に過度に成長していないかが確認されます。また、手足の長さや頭囲の大きさ、左右のバランスや筋緊張に異常がないかなどもくわしく評価されます。
さらに、先天異常症候群では脳や脊髄などの中枢神経系奇形、先天性心疾患、消化管奇形、呼吸器系奇形、腎・尿路・性器奇形、耳鼻科や眼科の疾患などが合併しやすいため、必要に応じて各診療科と連携して診察が行われます。診断には、腹部や心臓の超音波検査などの画像検査、血液検査が実施されることもあります。
また、染色体検査や遺伝子検査によって、確定診断が行われることもあります。
先天異常症候群の治療
現時点では、先天異常症候群を根治させる治療法は確立されておらず、基礎疾患や影響を受ける臓器、症状の重症度に応じた治療が行われます。
たとえば、呼吸不全がある場合は、気管切開や人工呼吸器が必要になることがあります。また、摂食障害がある場合には、経口摂取が難しくなるため、胃や腸に直接栄養剤を注入する経管栄養や、点滴で栄養を補う中心静脈栄養などの方法が行われます。先天性心疾患がある場合は、薬物療法や手術が必要になることがあります。
難治性てんかんの症状がある場合は、けいれん発作を抑えるための薬物療法が行われます。腎不全が進行すると、透析や腎臓の移植が必要になる場合もあります。また、運動機能や発達機能の遅れがみられる場合には、早期のリハビリテーションや特別支援教育が重要となります。言語療法、作業療法、理学療法などを組み合わせることで、生活の質を向上させることが可能になります。
先天異常症候群になりやすい人・予防の方法
先天異常症候群は、染色体や遺伝子の異常が原因となるため、完全に予防することは難しいといえます。しかし、早期の診断と適切な治療により、症状を軽減することや合併症を予防することが可能です。
そのため、新生児マススクリーニング検査や乳幼児健診を受け、異常がみられた場合には早期にくわしい検査を行うことが重要です。先天異常症候群を早期に診断することで、必要な医療的介入を適切なタイミングで行うことができます。
また、一部の先天異常は、妊娠中の母体の健康状態や薬剤、感染症、放射線などの環境要因が影響することが明らかになっています。そのため、妊娠中は禁酒や禁煙を遵守することも大切です。風疹などの感染症は胎児の発育に影響を与える可能性があるため、妊娠前に予防接種を受けておくことが推奨されています。こうした対策を講じることで、先天異常症候群の発症リスクを低減できる可能性があります。
関連する病気
- 1q部分重複症候群
- 9q34欠失症候群
- コルネリア・デランゲ症候群
- スミス・レムリ・オピッツ症候群
- 歌舞伎症候群
- ダウン症候群
- 18トリソミー症候群
参考文献
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 先天異常症候群(指定難病310)
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 概要・診断基準等 先天異常症候群
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター 13 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群の疾患一覧
- 国立保健医療科学院 保健医療科学 2010 Vol.59 No.4 p.338-350 先天異常に影響を及ぼす環境因子
- 国立感染症研究所感染症疫学センター 先天性風疹症候群とは
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター ダウン(Down)症候群
- 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児慢性特定疾病情報センター 18トリソミー症候群
- 公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群(指定難病167)
- 日本産婦人科医会 飲酒、喫煙と先天異常




