フグ中毒
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

フグ中毒の概要

フグ中毒は、魚の「フグ」の仲間が持つ毒によって引き起こされる、中毒症状を指します。

フグの毒はきわめて強力な毒性を持ち、少量でも体内に入ると命に関わる危険性があります。日本では、食品衛生法により食べられる、また販売・提供が許可されているフグの種類と部位が決められて、その調理加工は認可制となっています。

フグ中毒の原因はフグ毒の主成分であるテトロドトキシンです。
テトロドトキシンは強力な神経毒で、その毒性の強さは青酸カリのおよそ1000倍とも推定されています。

中毒症状は食後20分から数時間以内の比較的短時間で現れます。初期症状は舌先のしびれなどを特徴とし、重症のケースでは全身性の麻痺や呼吸困難まで進行します。治療が遅れると死に至ることもまれではありません。

テトロドトキシンの解毒剤などは現在のところ存在しないため、フグ毒中毒そのものに対する有効な治療法はありません。ただし、支持療法として胃洗浄、催吐、下剤投与の他、人工呼吸器の装着、酸素吸入等の呼吸・循環の管理など、適切な医療介入が間に合った場合は、救命できる可能性はあります。

フグ中毒は、釣り人などを中心に知識不足や注意不足により起きることが多いとされ、国内では毎年のように少なからず、フグ中毒の事故が起きています。

フグ中毒を予防するには、フグ毒について正しい知識を持つことが大切です。

フグ中毒の原因

フグ中毒の原因は、フグの体内に含まれるテトロドトキシンという毒素です。

この毒素はフグの種類や部位によって含まれる量や濃度が違います。食用に適するのは無毒とされている部位のみです。
毒性の強さはフグがとれた季節や場所、餌の種類などにも影響を受けることがわかっています。卵巣や肝臓をはじめとする内臓には、特に高濃度のテトロドトキシンが蓄積されている可能性が高く、正確な知識を持たずに調理することはたいへん危険なことです。

テトロドトキシンは熱にも強く、通常の調理法ではほとんど分解されません。フグの仲間以外にも同種の毒を持つ魚介類(ツムギハゼ、ヒョウモンダコ、スベスベマンジュウガニなど)が知られています。

テトロドトキシンはきわめて強力な神経毒の1つとして知られており、筋肉の末梢神経や中枢神経に作用し、さまざまな麻痺症状を引き起こします。

フグ中毒の前兆や初期症状について

フグ中毒の症状は、食後20分~3時間程度であらわれることが一般的です。症状は以下の4段階にわけられます。

第1段階

第1段階では、口や唇または舌先に軽いしびれがあらわれます。ピリピリとした刺激感や感覚の麻痺などが起こり、触覚が鈍くなることもあります。

また、足先にしびれが起こり歩行がおぼつかなくなる、ろれつが回らなくなる、頭痛や腹痛、吐き気、嘔吐などを伴う場合もあります。

第2段階

第2段階では、不完全な運動麻痺が起こります。

手足を少し動かしにくい、力が入りにくいといった症状があらわえ、腕を上げにくい、足を引きずってしまうなどの具体的な症状としてあらわれます。運動がうまくできなくなり、まっすぐ歩けない、ふらつくなどの症状もみられます。

その後、症状が進行すると、痛みを感じにくい、話しにくい、唾液や食べ物を飲み込みにくいなどの症状が出る場合もあります。

第3段階

第3段階になると、さらに症状が悪化して全身に麻痺があらわれ、身体の筋肉に力が入らなくなります。

呼吸筋が麻痺すると、呼吸困難を引き起こし、全身に酸素が行き渡らなくなります。この段階では、声が出せたとしても、言葉にはならなくなります。

血圧が著しく低くなるため、意識レベルが低下し、昏睡状態になることもあります。

第4段階

第4段階では、意識を失い呼吸が止まります。呼吸停止に続き、やがて心臓も止まります。この段階まで症状が進むと、死亡する可能性がきわめて高くなります。
、以上の症状は、フグの種類や摂取量、個人の体質などによって異なるものの、比較的短時間で進むことが知られています。フグ中毒を疑う症状があらわれた場合には、できる限り早く医療機関に連絡し、適切な処置を受けることが重要です。

フグ中毒の検査・診断

医療機関では、患者の症状や食べたフグの種類、量、食べた時間などを、問診や身体診を通して確認します。これらの情報は、診断や治療方針を決定するうえで重要です。

血液検査では肝機能や腎機能、尿検査ではテトロドキシンの検出や腎臓への影響、神経学的検査では手足のしびれや感覚の異常といった神経症状を確認します。

これらの情報をもとに総合的に判断し、フグ中毒は診断されます。ただし、多くの場合では確定診断よりも救命のための治療が優先されます。

フグ中毒が疑われる場合には、すみやかに医療機関を受診し、医師にフグを食べたことを伝えましょう。可能であれば患者の胃の内容物を吐き出させることが、応急の処置として推奨されます。

フグ中毒の治療

現在のところ、フグ中毒に対する解毒剤のようなものはありません。しかし、治療により患者の体内からフグ毒が排出されるまでの8時間ほどを延命できた場合、回復に向かう可能性が高いとされています。

そのため、フグ中毒の治療は患者の症状に合わせた支持療法が中心になります。救命を最優先し、症状を和らげ、合併症や後遺症を予防することが主な目的です。
初期の医療処置として、胃洗浄、催吐、下剤や利尿剤の投与が有効とされています。

呼吸困難がある場合には、酸素投与や気管挿管による人工呼吸管理が必要となることがあります。呼吸筋の麻痺が進むと、自力での呼吸が難しくなるため、人工呼吸器によるサポートが不可欠です。

重症の場合には、集中治療室での治療となったり、血液浄化療法や吸着療法など、より高度な治療が必要となったりすることもあります。こうした治療では、可能な限り血液中の毒素を取り除き、体外への排出を促します。

症状があらわれてから時間が経つほど、重症化するリスクが高まります。そのため、すぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

フグ中毒になりやすい人・予防の方法

フグ中毒は、個人の注意不足や知識不足によって起こることが多いと考えられています。

特に、釣り人や知識のない人による家庭での調理を原因とする中毒事件は、国内でも後を絶ちません。フグは種類によって毒の部位や強さが異なるほか、季節、餌の種類、摂れた場所などによっても毒性が左右されるため、素人が安全に調理するのはきわめて難しいと言えます。

フグ調理は、専門の資格を持った調理師に任せる、素人判断で調理しないなどという認識を持つことが、フグ中毒の予防につながります。


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