目次 -INDEX-

5p欠失症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

5p欠失症候群の概要

5p欠失症候群は染色体の異常により、赤ちゃんの発達に影響が出る病気です。15,000~50,000人に1人の割合で発症する比較的まれな病気で、精神発達の遅れがある患者のなかでは350人に1人の割合で見られます。

出典:厚生労働省「5p欠失症候群」

5p欠失症候群の症状として、小さい頭や顎、精神運動発達の遅れ、筋緊張の低下などが見られます。とくに生まれたばかりの赤ちゃんでは、猫の鳴き声に似た特徴的な高い泣き声が聞かれることが多く、早期発見の重要な手がかりとなっています。

5p欠失症候群は適切な発達支援を早い段階で始めることで、子どもの運動能力や言葉の発達を促すことが可能です。しかし、治療が難しいタイプのてんかんや重度の心臓の病気を合併する場合は、病気の経過や発達に大きく悪影響をおよぼすことが分かっています。

5p欠失症候群の原因

5p欠失症候群は23対ある染色体のうち、5番目の染色体の一部が失われることで起こります。染色体が失われるメカニズムには、さまざまなパターンがあります。

最も多いのは、5番染色体の一部が単純に失われるパターンです。受精時や赤ちゃんの発生初期に突然起こる変化で、両親から遺伝子の異常を受け継ぐわけではありません。

次に多いのは、5番染色体の一部が他の染色体と入れ替わってしまうパターンです。また、体を構成する細胞のなかに正常な染色体を持つ細胞と異常のある染色体を持つ細胞が混ざるパターンや、両親の染色体の特殊な並び方が子どもの染色体に影響するパターンもあります。

これらの変化のほとんどは、赤ちゃんの発生過程で生じるもので、両親の年齢や妊娠中の環境は関係ないことが分かっています。失われる染色体の部分には、発達や成長に重要な遺伝子が多く含まれており、これらの遺伝子が失われることでさまざまな症状があらわれると考えられています。

5p欠失症候群の前兆や初期症状について

5p欠失症候群の症状は生後すぐからあらわれ始めますが、症状の種類や程度には個人差があります。しかし、多くのケースで体重が2,500g未満の低出生体重児、特徴的な高い泣き声、全身の筋緊張の低下などが見られる傾向にあります。

さらに成長とともに、首のすわり、お座り、歩行などの運動発達の遅れや、言語発達の遅れ、知的発達の遅れが見られます。

外見的な特徴としては、頭が小さく、丸い顔立ちで、目と目の間が広く、目頭の皮膚のひだが目立ち、耳の位置が低く、あごが小さいといった特徴が見られます。外見的な特徴は、思春期から成人期の間でより目立つようになります。

また、哺乳が困難であったり、便秘になりやすかったりすることもあります。心臓疾患や呼吸器感染症、脊柱側弯症、視覚や聴覚の障害をともなうこともあります。

5p欠失症候群は早期発見・早期治療が重要であるため、これらの症状に気づいた場合は、すぐに専門医に相談することが望ましいです。とくに小さな子どもは症状を上手く訴えられないことも多いため、定期的な健康診断や発達検査を受けることが大切です。

5p欠失症候群の検査・診断

特徴的な症状から5p欠失症候群が疑われた場合、確定診断のために血液検査の一種である染色体検査が行われます。染色体検査では、5p欠失症候群の原因となる染色体の異常を確認します。染色体検査により、染色体の欠失の有無だけでなく、どの部分がどの程度失われているのかを詳しく調べることができます。

また、近年では妊娠中に赤ちゃんの染色体の状態を調べることも可能になっています。出生前診断で事前に把握できれば、早い段階から適切な医療や支援の準備を整えることができます。

5p欠失症候群の治療

5p欠失症候群の治療は根治できる特効薬などがなく、それぞれの症状や発達段階に合わせて、さまざまな支援や治療を行うことが基本になります。

乳幼児の場合は、ミルクを上手く飲めない、体重が増えにくいなどの問題への対処が中心です。その後、成長に合わせて、体の動きを良くするためのリハビリ(理学療法)や、手先の動きを上手くするための訓練(作業療法)、言葉の発達を促す訓練(言語療法)などを行います。

てんかん発作がある場合は、発作を抑える薬を日常的に使用します。また、心臓疾患や呼吸器感染症、視覚・聴覚障害がある場合は、それに応じた治療を行います。

5p欠失症候群の治療において重要なのは、できるだけ早い時期から専門家による発達支援を始めることです。ある研究では、早くから支援を受けた子どもは、座る、歩く、着替えるといった日常の動作を習得する時期が、支援を受けなかった子どもより数か月から1年以上早まったという報告もあります。そのため、異変に気付いたら早めに受診しましょう。

出典:National Library of Medicine「5p Deletions: Current Knowledge and Future Directions」

5p欠失症候群になりやすい人・予防の方法

5p欠失症候群は赤ちゃんが生まれる前の染色体の変化によって起こります。ほとんどの場合は偶発的に起こる変化であり、特定の原因は明らかになっていません。そのため、予防法は確立されていないのが現状です。

大切なのは、出生前・出生後の染色体検査や、定期健診を受けることで早期発見に努めることです。心配な症状があれば、早めに専門の医師に相談しましょう。

関連する病気

  • 脊柱側弯症
  • 伝音性難聴
  • 感音性難聴
  • 視神経異常
  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)
  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)
  • 脳梁形成不全(のうりょうけいせいふぜん)
  • 脳室周囲白質軟化症

この記事の監修医師