

監修医師:
五藤 良将(医師)
多脾症候群の概要
多脾症候群は、体内で臓器が左右対称に形成される先天性の病気(内臓錯位症候群)の一種で、通常は1つである脾臓が複数存在する状態です。多くの場合において先天性心疾患を合併します。
胎児期の内臓形成過程で、何らかの異常が生じることで発症すると考えられています。異常が生じる詳しいメカニズムは特定されておらず、遺伝による可能性も低いとされています。
多脾症候群は10,000〜20,000人に1人の頻度で出生するとの疫学的な報告があり、日本において指定難病に定められています。
出典:小児慢性特定疾患情報センター「多脾症候群」
多脾症候群の主な症状は心臓の形成異常に伴うものです。心室中隔欠損症や心臓内に心室や心房が1つしかない単心室、または単心房など循環器系に大きな影響を及ぼします。
そのため、主な治療は心疾患に対する薬物療法や手術療法であり、必要に応じてペースメーカーの植え込みを行うこともあります。
予後は一般的に不良であることが多いですが、これらの治療により、大きな問題なく日常生活を送れるようになる人もいます。
多脾症候群の原因
多脾症候群の原因ははっきりと分かりませんが、胎児期における内臓形成過程で異常が生じることが原因だと考えられています。発症に関連する可能性のある遺伝子変異が報告されていますが、はっきりした因果関係は解明されていません。
親からの遺伝や特定の生活習慣、環境的な要因によって発生率が上がるといった報告も少なく、解明されていない点が多いのが現状です。
多脾症候群の前兆や初期症状について
多脾症候群は先天性の病気で新生児期から症状が現れることが多く、心疾患と関連してチアノーゼ(唇や手足が青紫色になる状態)や多呼吸、不整脈や肺性高血圧などが現れます。
ほ乳力が弱いこともあり、体重が増えにくいなどの症状もしばしばみられます。
心臓以外の症状は、腸閉塞による嘔吐や腹痛、先天性胆道閉鎖症による黄疸などの消化器系の症状が現れる場合もあります。
まれに心疾患が軽度な場合があり、明確な症状が現れないまま経過して定期健診での心雑音の聴取などがきっかけで発見されることもあります。
多脾症候群の検査・診断
多脾症候群の主な検査方法は心臓超音波検査(心エコー検査)やCT検査、MRI検査などの画像検査や、心電図検査や心臓カテーテル検査です。心機能や脾臓の数、その他の臓器の位置関係などを調べます。
心臓超音波検査では心臓の構造や機能、血行動態などを確認します。多脾症候群では心臓のポンプ機能が低下するためうっ血(血流が滞ること)の状態、いわゆる心不全になる場合が多いです。
また、CT検査やMRI検査で身体の断層写真を撮影することで、臓器の立体的な位置関係や構造の把握に役立ちます。
心電図検査では徐脈(心臓の拍動数が少ない状態)や頻脈(心臓の拍動数が多い状態)など、さまざまな心電図波形を呈します。
必要に応じて心臓カテーテル検査を行う場合もあります。心臓にカテーテルを挿入することで心臓への血液の流れ方や圧力を直接測定できる検査で、治療方針を決める際の重要な情報となります。
多脾症候群の治療
多脾症候群の根本的な治療は確立されていません。現段階では心疾患に対する手術療法や薬物療法が中心です。
重症の場合は生後まもない時期から手術を要する場合があります。たとえば、単心室(心室が1つしかない状態)では、心臓のポンプ機能を補うためにフォンタン手術を行います。
極端な徐脈を呈する場合は、心臓の電気信号を整えるためにペースメーカーを植え込むこともあります。
手術療法と並行して肺性高血圧や心不全に対する薬物投与も行い、心疾患の重症度に応じた治療を行います。
また、腸閉塞や腸回転異常などの消化器系の症状がある場合においても、必要に応じた治療を行います。
多脾症候群は治療と並行して成長発達のサポートも重要です。とくに乳幼児期は適切な栄養管理や発達支援を含めた総合的なケアが重要です。
定期的な検査によって経過観察し、状況に応じた適切な対応をとることが大切です。
多脾症候群になりやすい人・予防の方法
多脾症候群は先天性の病気で、胎児の発生過程で生じる異常によって引き起こされるため、現時点で予防法は確立されていません。
また、多脾症候群になりやすい要因も特定されていないのが現状です。
多脾症候群そのものを予防することは難しいですが、重症化を防ぐために日常生活では過度な運動や長時間の活動は避け、無理のない範囲で過ごしましょう。
多脾症候群は心疾患を合併することが多いため、動悸や息切れ、浮腫みなどの循環器系の症状が出現した場合はできるだけ早く医療機関へ受診することが重要です。
とくに女性の場合、妊娠や出産には慎重な管理が必要となる場合があります。
将来的に妊娠や出産を考えている場合は早い段階から主治医と相談し、自身の状態に応じた選択をする必要があります。
多脾症候群は遺伝的な要因について現時点では解明されていないことが多いですが、家族歴があり不安を感じる場合は、専門医に相談することをおすすめします。
関連する病気
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- 無脾症候群
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- 単心室
- 肝部下大静脈欠損
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参考文献




