メタノール中毒
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

メタノール中毒の概要

メタノール中毒とは、メタノールという化学物質を体内に取り込むことで起こる中毒症状のことです。

メタノールは、メチルアルコールとも呼ばれ、弱いアルコール臭を持つ無色透明な液体です。主に工業製品の重要な中間原料として、あるいは燃料、溶剤などに広く使用されています。家庭用では着火剤や不凍液、化粧品などにも少量が含まれることがあります。
日本では、メタノールは毒物及び劇物取締法により、入手や保管などについて規制されています。

メタノールを誤って飲んだり吸い込んだりする、あるいは皮膚に大量に触れるなどによってメタノールが人体内に取り込まれると、体内で有害な化学反応を引き起こし、メタノール中毒を発症します。

メタノール中毒では、初期段階では酩酊感やふらつき、頭痛、吐き気など、エタノール(アルコール飲料)を摂取した場合と似たような症状があらわれます。しかし、メタノールの摂取から数時間のうちには、視力の低下や呼吸困難といった特徴的かつ重篤な症状へと進行し、摂取量によっては生命の危険が生じます。

症状は時間の経過とともに重篤な段階へと進みます。そのため、できる限り迅速な治療が、患者の救命と後遺症の防止につながります。
メタノール中毒の治療では、胃洗浄や解毒剤の投与、透析治療などがおこなわれます。

メタノール中毒は、取り扱い時の吸入、故意の摂取、誤飲や多量の皮膚接触によって起こりやすいことが知られています。メタノールについて正しい知識を持ち、事故を予防することが、メタノール中毒を予防する方法です。

メタノール中毒の原因

メタノール中毒の症状が起きるメカニズムは、メタノールが体内で代謝されて生じる「ギ酸」という物質によるものです。ギ酸には強い急性毒性があり、さらにヒトの体内での代謝、分解には時間がかかることが知られています。
メタノール摂取によるギ酸は、人体では視神経や脳神経付近に生じやすいこともわかっており、視覚や中枢神経に深刻なダメージを与えるほか、後遺障害を残す恐れもあります。

なお、飲用アルコール(エタノール)の代謝で生じるアセトアルデヒドなどの物質も有害ではあるものの、毒性の強さや代謝の仕組みなどがメタノールとは異なります。

メタノール中毒の根本的な原因となる「メタノール摂取」については、特に以下のような場面で起こりやすいとされています。

飲料として誤って摂取

メタノールはしばしばエタノール(飲用アルコール)と混同され、特に無知や不注意から、誤って摂取してしまう事故が起こり得ます。違法な製造過程を経て作られた密造酒を飲んだことによる事故や、燃料や消毒薬の誤飲事故が有名です。

家庭用品や工業製品での誤使用・曝露

メタノールは工業製品の重要な中間原料として広く使われており、また家庭用品においても清掃用溶剤、不凍液、燃料などに含まれていることがあります。これらの使用や保管を誤ることにより、誤飲、曝露、吸入などの事故が起きる可能性があります。

犯罪行為や意図的な摂取

アルコール飲料にメタノールが意図的に混入された場合、味や臭いで気がつくのは容易ではないとされています。海外においては、違法に製造されたアルコール飲料にメタノールが混入される事件は、現在でもしばしば起きています。国内外問わず、正規に製造販売されるもの以外の製品を口にする際にはリスクが伴います。

その他、犯罪目的で意図的にメタノールを混入して他者に提供したケースや、自殺目的で摂取したケースが、事件として知られています。

メタノール中毒の前兆や初期症状について

メタノール中毒の初期症状は吐き気や嘔吐、腹痛、あるいは頭痛やめまい、酩酊感などです。

これらの初期症状は、飲酒時に現れる症状と似ているため、メタノール中毒だと気づきにくいケースも少なくありません。

しかし、時間の経過にともない、視力低下(霧視、視野狭窄)や意識障害、呼吸困難など、メタノール中毒に特徴的とされるより重篤な症状が現れます。

症状がどのような経過をたどるかは、摂取量や代謝能力などによって個人差が大きいとされますが、早期発見と早期治療が救命および後遺症防止に重要です。

メタノール中毒の検査・診断

メタノール中毒が疑われる場合、診断を確定し、適切な治療を行うために、以下の検査が行われます。これらの検査は、患者さんの状態や摂取状況によって選択されます。

まずは、問診で医師が患者本人や周囲の人に、メタノールの摂取状況や症状について詳しく尋ねます。いつ、どのくらいの量のメタノールを摂取したのか、どのような症状が現れているのかなどの情報は、診断や治療方針を決定するうえで重要です。

問診と並行して、患者さんの状態を把握するために、意識状態や呼吸状態、神経学的所見を診察したり、脈拍数や血圧を測ったりなどの身体診察をおこないます。

血液検査をおこない血液中のメタノール濃度やギ酸を測定することで、中毒の程度を把握できます。ほかにも、肝臓や腎臓の機能を確認します。

患者の状態によっては、尿検査やCT検査、MRI検査などをおこないます。

これらの検査結果をもとに、メタノール中毒と診断します。

メタノール中毒の治療

メタノール中毒の治療は主に以下のような治療法が選択されます。メタノール中毒は時間が経つにつれて重篤な症状があらわれやすいことが知られています。症状の進行を食い止め、後遺症を最小限に抑えるためには、迅速かつ適切な処置が不可欠です。

胃洗浄・活性炭投与

摂取されたメタノールをできるだけ早く体外に排出することを目的とした治療です。

メタノールを摂取して間もない場合には、胃洗浄によって胃内容物を洗い流し、メタノールの吸収を抑制します。活性炭は、メタノールを吸着する効果があるため、メタノールの吸収を遅らせ、血中濃度の上昇を抑制します。

解毒剤投与

メタノールが肝臓で別の物質に作り変えられ、ホルムアルデヒドやギ酸といった有害物質になるのを阻害する解毒剤(ホメピゾールなど)を投与し、中毒症状の進行を抑えます。
解毒剤の投与は、メタノール中毒の治療において重要な役割を果たします。ただし、解毒剤の効果を得るには、早期投与が不可欠です。

血液透析

メタノール中毒の重症者には、血液中の有害物質を直接除去するために、血液透析をおこないます。血液透析は、設備を持つ医療機関でしかできない治療法ではあるものの、メタノール中毒の治療に有効であることが知られています。

対症療法

呼吸困難やけいれんなどの症状に合わせて、それぞれ適切な治療をおこないます。

たとえば、呼吸困難の症状に対しては酸素投与や人工呼吸器による呼吸管理をおこなったり、けいれんに対しては抗けいれん薬を投与し、症状を抑えます。

メタノール中毒になりやすい人・予防の方法

メタノール中毒はメタノールを誤って摂取してしまうと、誰でも発症する危険があります。

海外では密造酒などによる事故が起きているため、飲酒の習慣がある人は注意すべきと言えます。アルコール依存症などの人にも注意が必要です。

メタノールとメタノール中毒について正しい知識を持つことが、予防策になりえます。
また、メタノールは、塗料や溶剤、一部の洗浄剤など工業製品に幅広く利用されているため、これらの製品を扱う仕事の人はメタノール中毒のリスクが高くなります。
メタノールは吸入によっても中毒症状を引き起こす恐れがあるため、メタノールを含んだ製品を使用する際は、窓を開けたり、換気扇を回したりするなどして、空気の流れを確保することが大切です。作業内容によっては、手袋やマスクなどの防護具を着用することも有効です。

メタノールを含んだ製品を安全に管理することが、メタノール中毒予防につながります。

万が一、メタノールを誤って摂取してしまった場合は、直ちに医療機関を受診してください。専門家の指示に従い、適切な治療を受けることが大切です。


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