目次 -INDEX-

潜函病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

潜函病の概要

潜函病は、減圧症ともよばれ、ダイビングに代表されるような高圧環境下に身をおいた後に発症することがある疾患です。水中では気圧が高くなり、呼吸中の窒素が体内に多く溶け込みます。この状態から急に浮上すると、体内の窒素が気泡化し、関節の痛みや皮疹、神経症状など様々な不調を引き起こします。特にダイビング終了後3時間以内に症状が出ることが多く、肩や肘の関節痛、しびれ、ふらつきなどがよく見られます。診断は問診と症状から行われ、重症例では中枢神経症状の評価のための画像検査も有効です。治療の中心は高圧酸素療法で、できるだけ早期に開始することが予後を左右します。予防には、浮上速度を守る、ダイビング後の飛行機搭乗や高所移動を避けるといった基本が重要です。趣味や仕事で潜水を行う方は、ダイビングスクールや専門資料から正しい知識を身につけ、無理のない計画を立てましょう。

潜函病の原因

潜函病 (せんかんびょう) は、急激な気圧の変化によって体内に溶け込んでいた窒素が気泡となって組織や血管内に発生することで、様々な症状を引き起こす疾患です。減圧症とも呼ばれ、潜水作業をはじめとした高圧下での作業後に、適切な減圧手順を踏まなかった場合に発症します。

通常、私たちの体は大気圧下で安定した状態を保っていますが、水中に潜ると圧力が上がり、呼吸中のガス (特に窒素) が体内により多く溶け込みます。この状態で急激に浮上すると溶けていた窒素が急速に気泡化して、血管内や組織に障害をもたらすのです。特に高圧環境での作業後や、潜水時間が長い場合、または何度も潜水を繰り返した場合にリスクが高まります。

潜函病という名称は、もともと潜函 (せんかん) 工法と呼ばれる土木作業に由来します。この工法では、橋脚やトンネルの建設時に作業員が高圧の気体環境下で作業する必要があり、作業後に気圧を急激に戻すと潜函病の症状が現れることが問題となっていました。今日では、スキューバダイビングの後に発症することが多いです。

潜函病の前兆や初期症状について

潜函病の 90% はダイビングが終わってから3時間以内に発症します (参考文献 1) 。潜函病の症状には多くの症状がありますが、代表的なものを紹介します。

関節の痛みは最も多くの患者にみられます。深くズキズキと脈打つような痛みが特徴的です。肩や肘の症状が多いですが、膝や股関節、そのほかの関節に症状が出ることもあります (参考文献 1) 。

皮膚症状として体幹部や太ももに痒みのある皮疹がでたり、痒みだけが出ることもあります (参考文献 1) 。
60% 程度の症例では何らかの神経症状が出るといわれていて (参考文献 1) 、 “しびれ”や力の入りにくさ、ふらつき、視力障害など、様々な症状が出る可能性があります。

全身の臓器が影響を受ける可能性があり、心臓、肺、内耳関連の症状も知られています。

症状が軽いからといって自己判断で放置せず、潜水や高圧環境下での作業後に体調の異変を感じた場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。

潜函病の検査・診断

潜函病の診断は、主に病歴の聴取と臨床症状から行われます。特に、潜水や高圧作業、飛行機搭乗などの後に症状が出現したかどうかが重要な手がかりとなります。症状が多岐にわたるため、問診でどのような環境下にいたか、どれほどの時間その環境にいたか、浮上や作業終了後どれくらいで症状が出たかなど、詳細な情報が必要となります。
中枢神経系症状の評価のためにCTやMRIなどの画像検査も有効な場合があります。

潜函病の治療

診断後速やかに高圧酸素療法を開始します (参考文献 1) 。高濃度・高圧の酸素がある環境下で呼吸をすることで、体にある窒素と酸素を効率よく交換することができます。潜函病の原因は溶けきれなくなった窒素が血管内で気泡になってしまうことなので、窒素を体外に排出することが治療になるわけです。

潜函病になりやすい人・予防の方法

潜函病患者はダイビングをする人が多いです。講習会などでも「減圧症」として勉強することが多いのではないのでしょうか。

ダイビングに関連する潜函病において、発症に寄与する最も重要な因子は「不適切なダイビング計画」です。水中での計画はもちろんですが、ダイビング前後の行動にも気を付ける必要があります。

予防法はダイビングスクールやダイビング関連の企業が紹介していることが多いですが、ここでは一例を紹介します (参考文献 2) 。

  • 浮上速度をできるだけゆっくりにする
  • ダイビング終了後から飛行機搭乗までに少なくとも18時間、減圧潜水をしたあとは1~2日はあける
  • ダイビング終了後は地上であっても、300m以上の標高のある場所への移動は、最低でも5時間はあける

 

専門的な内容になるので、ここはダイビングスクールのスタッフに聞いたり、参考文献のリンクを確認していただいて、自身のダイビング計画と照らし合わせて予防策を講じてもらえればと思います。年間日本で潜函病を発症するダイバーは1,000人にもなるといわれています。潜函病に対して十分な対策をして、安全で思い出に残るダイビングを楽しんでください。

参考文献

  • Sadler C. Complications of SCUBA diving. UpToDate. May 20, 2024
  • 株式会社タバタ TUSA営業部 広報 編. 「減圧症の予防法を知ろう」発症の可能性を提言するための基礎知識 (第4版). 2015

この記事の監修医師