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回旋異常
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

回旋異常の概要

回旋異常は、出産(分娩)の際に赤ちゃんの頭が産道をスムーズに通過できない状態を指します。通常の分娩では、赤ちゃんの頭は骨盤の入り口から出口まで、らせん状に回転しながら下降していきます。この回転の過程は4段階(第1回旋から第4回旋)に分けられ、それぞれの段階で適切な回転が必要です。第1回旋では赤ちゃんの頭が曲がる(屈位)状態になり、第2回旋では後頭部が母体の前方に向かって回転します。この回転のいずれかが正常に行われないことで、分娩の経過に問題が生じることがあります。人間の分娩は他の哺乳類と比べて難しく、これは人類が直立歩行を獲得する過程で骨盤が屈曲し、さらに脳の発達により赤ちゃんの頭が大きくなったことが要因とされています。

回旋異常の原因

回旋異常には、赤ちゃん側、お母さん側、そして胎盤などの要因が複雑に関係します赤ちゃん側の要因としては、体が大きい場合(巨大児)、双子などの多胎児、早産児、筋力が弱い状態(フロッピーインファント)、頭や首の腫瘍などがあります。これらの状態では、赤ちゃんの頭が骨盤内に正しく固定されにくくなります。 お母さん側では、骨盤が狭い(狭骨盤)または広すぎる(広骨盤)、子宮や卵巣の腫瘍、子宮の形態異常などが原因となります。特に骨盤の形状異常は、赤ちゃんの頭の回転に直接影響を与える重要な要因です。 また、胎盤や臍帯の状態も重要で、胎盤が子宮の下部に位置する(低置胎盤)、胎盤に腫瘍がある、臍帯が首に何重にも巻きついている(臍帯多重巻絡)、羊水が多すぎる(羊水過多)なども原因となります。 これらの状態では、子宮の収縮力が弱くなりやすく(微弱陣痛)、それによって回旋異常が起こりやすくなります。特に、巨大児や多胎、胎児腫瘍、羊水過多、子宮腫瘍、子宮奇形では子宮の筋肉が過度に伸びることで原発性の微弱陣痛が、産道異常や低置胎盤、胎盤腫瘍、臍帯巻絡では続発性の微弱陣痛が起こりやすくなります。

回旋異常の前兆や初期症状について

回旋異常の多くは分娩の初期から始まっており、赤ちゃんの頭の向きと位置、骨盤への固定具合などから判断することができます。分娩初期の重要な所見として、胎向(赤ちゃんの向き)と第1回旋の完了、骨盤入口面への嵌入(はめこみ)が順調に行われているかどうかの確認が挙げられます。 特に、お産の進行が遅くなることや、陣痛が弱いことが特徴的な症状となります。また、分娩が進むにつれて赤ちゃんの頭に腫れ(産瘤)が出現することがありますが、この産瘤の位置も回旋の状態を判断する重要な手がかりとなります。産瘤は赤ちゃんの頭が恥骨後面と擦れることで発生するため、その位置から回旋の状態を推測することができます。

回旋異常の検査・診断

回旋異常の診断は主に以下の3つの方法で行われます。

内診による診断

内診(産道内を指で触診する検査)が基本的な診断方法となります。内診では、赤ちゃんの頭にある2つの泉門(大泉門と小泉門)や縫合線の位置を確認します。正常な第1回旋では小泉門を触れることができ、これが触れない場合は回旋異常を疑います。ただし、分娩が進行して産瘤が大きくなると、泉門や縫合線の触診が難しくなることがあります。

レオポルド触診法

お腹の上から赤ちゃんの背部や殿部、手足の位置を確認する方法です。この方法単独では回旋異常の診断は難しいものの、内診所見と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。

超音波検査

超音波検査は、内診では判断が難しい場合の補助診断として非常に有効です。特に、赤ちゃんの頭の中心線(大脳鎌)の方向や、小脳、眼窩(がんか:目の部分)の位置を確認することで、回旋の状態を客観的に評価することができます。また、お腹の上からの超音波検査では、赤ちゃんの背中の位置や手足の状態も確認できます。

回旋異常の治療

回旋異常に対する治療は、状況に応じて段階的に行われます。 まず胎児の状態が安定している場合には、しばらく自然な経過を見守ることから始まります。特に分娩第1期で有効な陣痛がある場合は、自然に回旋異常が改善することもあるため、すぐに介入せずに経過を観察することがあります。 しかし、微弱陣痛を伴う場合には、子宮収縮薬を投与して陣痛を強化する必要があります。適切な陣痛があることで、回旋異常が改善される可能性が高まるためです。また、お母さんの体位を変えることで、骨盤の軸と赤ちゃんにかかる重力の方向を調整し、回旋の改善を図ることもできます。四つん這いの体位なども試みられますが、その効果については現時点で明確な科学的根拠は示されていません。 これらの方法で改善が見られない場合、医師が手で赤ちゃんの頭の向きを修正する用手回旋という方法を試みることがあります。特に、後方後頭位(後ろ向き)の場合に、前方後頭位(前向き)に回転させる操作が行われます。この操作は通常、2〜3回の陣痛(5〜10分程度)の間に行われ、それ以上時間をかけても改善しない場合は、他の方法を検討する必要があります。 さらに回旋異常が改善せず、分娩の進行が遷延する場合には、吸引器や鉗子を使用して分娩を補助することを検討します。ただし、これらの処置には一定のリスクを伴うため、慎重に適応を判断する必要があります。また、赤ちゃんの頭の位置や向きによっては、吸引分娩や鉗子分娩が困難な場合もあります。 最終的に、回旋異常が改善せず経腟分娩が困難と判断された場合や、胎児の状態が悪化した場合には、帝王切開が選択されます。特に、顔位や顎位といった特殊な回旋異常の場合は、赤ちゃんの顔面への圧迫による損傷を防ぐため、早期に帝王切開を検討することがあります。このように、回旋異常の治療は段階的に行われ、母児の状態を慎重に評価しながら、最適な分娩方法が選択されます

回旋異常になりやすい人・予防の方法

回旋異常になりやすい人

回旋異常の予防には、妊娠中からの適切な管理が重要です。 特に以下のような状況では、回旋異常のリスクが高くなる可能性があります。 まず、赤ちゃんが大きい場合や、骨盤に形状異常がある場合は、回旋異常のリスクが高くなります。また、子宮や卵巣に腫瘍がある場合、子宮の形が異常な場合なども注意が必要です。多胎妊娠や早産の可能性がある場合も、回旋異常のリスクが上昇します。

予防の方法

予防としては、定期的な妊婦健診を受けることが最も重要です。健診では、赤ちゃんの大きさや位置、羊水量、骨盤の状態などを確認し、必要に応じて適切な分娩計画を立てることができます。また、妊娠中の適度な運動や、適切な体重管理も重要な予防策となります。 分娩中は、適切な陣痛の管理が重要です。陣痛が弱い場合は、必要に応じて陣痛促進剤を使用することで、正常な回旋を促すことができます。また、分娩の進行に応じて適切な体位変換を行うことも、回旋異常の予防や改善に効果的です。 医療スタッフは、分娩の進行状況を定期的に評価し、必要に応じて適切な介入のタイミングを判断します。特に、いつまでにどの程度分娩が進むべきかという具体的な目標を設定し、それに基づいて管理を行うことが重要です。

関連する病気

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  • 腸重積症

参考文献

  • 佐藤和雄: もう一度考えてみようヒトのお産. 周産期医学 41(7):862-868, 2011
  • 仲村将光: 回旋異常の診断. ペリネイタルケア 38(12):1185-1189, 2019
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  • Le Ray C, et al: Manual rotation to decrease operative delivery in posterior or transverse positions. Obstet Gynecol 122(3):634-640, 2013

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