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胎児水腫
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

胎児水腫の概要

胎児水腫は、おなかの中の赤ちゃん(胎児)の体に水がたまってしまう重篤な病気です。赤ちゃんの胸やお腹、心臓の周りなど、体の2~3カ所に水がたまる状態、もしくは1カ所に水がたまり、同時に皮膚の内側にむくみがある状態を指します。この病気には大きく分けて2種類あります。1つは母親と赤ちゃんの血液型の違いによって起こる「免疫性胎児水腫」、もう1つはそれ以外の様々な原因で起こる「非免疫性胎児水腫」です。以前は免疫性の方が多く見られましたが、予防法が発達したおかげで、現在では非免疫性が90%以上を占めています。胎児水腫は早期発見と適切な治療が重要な病気であり、定期的な妊婦健診でしっかりと検査を受けることが大切です。

胎児水腫の原因

胎児水腫が起こる仕組みは、主に4つの要因が関係しています。1つ目は、心臓から血液が戻りにくくなる状態(中心静脈圧の上昇)です。これは心臓の病気や不整脈などが原因で起こります。2つ目は、体の中を循環するリンパ液の流れが悪くなる状態です。リンパ管という細い管が詰まったり、うまく発達していなかったりすることで起こります。3つ目は、血管から水分が漏れやすくなる状態です。感染症などにより血管が傷つくことで起こります。4つ目は、血液中のタンパク質が減少する状態です。タンパク質は水分を血管の中にとどめておく働きがあり、これが減ると体の組織に水分が漏れ出やすくなります。これらの状態が重なることで、体の中に水分がたまってしまいます。非免疫性胎児水腫の原因は、妊娠の時期によって大きく異なることが分かっています。妊娠初期(妊娠14週未満)では、赤ちゃんの染色体の異常が約70%と最も多く見られます。染色体の異常とは、赤ちゃんの設計図となるDNAの数や形に問題がある状態です。妊娠中期(妊娠14~24週)では、染色体の異常(約21%)や赤ちゃんの感染症(約20%)が主な原因となります。感染症の中では、パルボウイルスB19やサイトメガロウイルスなどのウイルス感染が知られています。妊娠後期(妊娠25週以降)では、心臓の病気(約23%)が最も多くなります。心臓の形に問題がある場合や、不整脈がある場合などが含まれます。

胎児水腫の前兆や初期症状について

胎児水腫は、通常の妊婦健診で行う超音波検査(エコー検査)で見つかることがほとんどです。お母さんが自覚できる症状はあまりありません。超音波検査では、赤ちゃんの体の中に黒く見える部分(低エコー域)として水のたまった場所が観察されます。特に妊娠初期から中期にかけて発見されることが多く、この時期の定期的な健診が非常に重要です。また、むくみによって皮膚の内側が厚くなっている様子も観察することができます。

胎児水腫の検査・診断

診断の中心となるのは超音波検査です。この検査では、赤ちゃんの胸、お腹、心臓の周りなど、体のさまざまな部分を丁寧に観察します。 胸に水がたまっている場合は、肺の周りに黒い部分として見えます。お腹に水がたまっている場合は、腸などの臓器の周りに黒い部分として観察されます。心臓の周りに水がたまっている場合は、心臓を取り囲むように黒い部分が見られます。また、皮膚の内側の厚さを測ることで、むくみの程度を評価します。正常な場合、皮膚の内側の厚さは5mm未満ですが、それ以上の場合はむくみがあると判断されます。 原因を調べるための検査も重要です。赤ちゃんの心臓の形や動きを詳しく調べたり、不整脈がないかを確認したりします。また、赤ちゃんの体に異常な塊(腫瘍)がないかも注意深く観察します。必要に応じて、赤ちゃんの染色体検査や、お母さんの血液検査も行われます。血液検査では、感染症の有無や母体の血液型に関する検査が含まれます。特に中大脳動脈という血管の血流速度を測定することで、赤ちゃんの貧血の程度を推測することができます。

胎児水腫の治療

治療は原因によって異なりますが、早期に適切な治療を行うことで赤ちゃんの命が助かる可能性が高くなることが分かっています。 胸に水がたまっている場合は、まず細い針で水を抜く治療(胸腔穿刺)を試みます。この治療で一時的に水を抜くことができますが、再び水がたまってしまう場合は、胸の中の水を赤ちゃんの周りの羊水腔に流すための細い管(シャントチューブ)を入れる手術を行います。この手術は保険が適用される治療として認められています。 血液型の不適合が原因の場合は、赤ちゃんに対して輸血を行います。この治療は専門的な技術が必要で、日本周産期・新生児医学会のガイドラインに従って実施されます。不整脈が原因の場合は、お母さんに薬を飲んでもらい、その薬が胎盤を通じて赤ちゃんに届くことで治療を行います。これを経胎盤的胎児治療と呼びます。

胎児水腫になりやすい人・予防の方法

胎児水腫になりやすい人

胎児水腫の発生には、妊娠時期による特徴があります。妊娠14週未満では染色体異常が約70%と圧倒的に多く、この時期に発見された場合は、染色体検査を考慮する必要があります。妊娠14~24週では染色体異常(約21%)や感染症(約20%)が主な原因となり、この時期は特に感染症の検査が重要です。妊娠25週以降では心臓の異常(約23%)が最も多くなるため、赤ちゃんの心臓の詳しい検査が必要になります。 研究によると、胎児水腫と診断された場合、出生前に原因が分かるのは約69%とされています。残りの31%のうち、生まれた後に原因が分かる赤ちゃんは43%です。このように、原因が特定できない場合もありますが、そのような場合でも適切な治療と管理を行うことが重要です。

予防の方法

予防法として最も重要なのは、定期的な妊婦健診を受けることです。超音波検査で早期に異常を見つけることができれば、適切な治療を早く始めることができます。特にRh陰性の方は、予防的な治療(抗D免疫グロブリンの投与)が可能なので、必ず医師に相談してください。また、胎児水腫は専門的な治療が必要な病気なので、異常が見つかった場合は、高度な医療機関での管理が推奨されます。

関連する病気

  • 免疫性胎児水腫
  • 胎児不整脈
  • 胎児腫瘍
  • ターナー症候群
  • ダウン症候群
  • トキソプラズマ症
  • 風疹
  • 遺伝性球状赤血球症
  • 胎盤絨毛腫
  • 双胎間輸血症候群

参考文献

  • Bellini C, et al: Etiology of non-immune hydrops fetalis: An update. Am J Med Genet A 2015;167A:1082-1088.
  • Bellini C, et al: Non-immune hydrops fetalis: a short review of etiology and pathophysiology. Am J Med Genet A 2012;158A:597-605.
  • Cunningham FG: Williams obstetrics 2018.
  • Sileo FG, et al: Non-immune fetal hydrops: etiology and outcomes according to gestational age at diagnosis. Ultrasound Obstet Gynecol 2020;56:416-421.
  • Skoll MA, et al: Is the ultrasound definition of fluid collections in non-immune hydrops fetalis helpful in defining the underlying cause or predicting outcome? Ultrasound Obstet Gynecol 1991;1:309-312.
  • Waring GJ, et al: Fetal hydrops: diagnosis and prognosis. Arch Dis Child 2019;104:209-210.

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