カドミウム中毒
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

プロフィールをもっと見る
鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

カドミウム中毒の概要

カドミウム中毒とは、重金属の一つであるカドミウムに晒されることで発症する中毒症状です。

カドミウムは土壌や水中など自然界にも存在する物質で、コメなどの食品中にも微量ながら含まれています。人間の体内にも存在しているため、ごく微量の摂取に限れば問題とはされていません。

しかし、カドミウムには「一度体内に入ると排出されにくい」という特徴があり、体内に過剰に蓄積されるとさまざまな障害を来たすことが知られています。

カドミウム中毒では急性の症状もみられますが、より問題となりやすいのは基準を超える濃度のカドミウムを長期にわたり摂取したことによる慢性症状です。カドミウムによる健康被害を示す歴史的な事例として、富山県の神通川流域で発生した「イタイイタイ病」が有名です。

カドミウム中毒による慢性症状では、主に腎臓の機能が障害されることによって、骨や神経、他の臓器にも影響を与えます。発症した場合の治療は、各症状に対する対症療法が中心となります。診断や治療と同時に、汚染源を特定し除去することが重要となります。

一方、急性症状の場合は、キレート剤の投与などがおこなわれます。適切な治療により、すみやかな回復が期待できるケースもあります。

現在においては、世界的な食品安全基準の設定や環境対策が進められており、日本国内では新たなカドミウム汚染について過度に心配する必要はありません。ただし、カドミウムは依然として工業的な用途や廃棄物の中に含まれる可能性があり、食品安全に対する意識はカドミウム中毒の予防に大切だと言えます。

カドミウム中毒の原因

カドミウム中毒の直接的原因となるカドミウムへの曝露(ばくろ)は、主に食品中に残留したカドミウムを摂取することで起こります。

カドミウムを多く含む土壌で育てられた農作物、あるいはカドミウムを含む排水などによって汚染され海域で獲られた魚介類には、カドミウムが高い濃度で含まれやすくなります。カドミウムは人体に蓄積されやすく、一度体内に取り込まれてしまうと排出まで30年以上かかるとも言われています。安全基準を上回るようなカドミウムを含む食品を長期間食べ続けることで、カドミウム中毒の慢性症状が生じる可能性が高まります。

食品以外の曝露要因としては、産業現場で発生するカドミウムを含む粉塵やヒュームの吸入があげられます。タバコの煙中にカドミウムが含まれるケースがあり、喫煙や副流煙による曝露の可能性もあるとされています。

カドミウム中毒の前兆や初期症状について

カドミウム中毒の症状は、急性カドミウム中毒の症状と慢性カドミウム中毒の症状に大別されます。

急性カドミウム中毒の場合、摂取してから数時間後に喉の痛みや頭痛、めまいや吐き気、悪寒などが現れます。摂取量によっては呼吸困難など重篤な症状に発展する可能性もあります。

一方、慢性カドミウム中毒の主な症状は腎機能の障害として現れます。

「腎近位尿細管障害」はカドミウム中毒の慢性症状の典型として知られています。

腎臓にある尿細管は糖やアミノ酸、電解質などを再吸収する役割があり、この作用が障害されると身体にとって重要な物質が不足するため、全身のさまざまな部位に障害がみられるようになります。

代表的なものは骨の代謝異常です。カドミウム中毒により骨軟化症や骨粗鬆症を発症すると、骨折や全身の痛み、身長の低下、背中の湾曲などを招きます。

他には溶血性貧血や鉄欠乏貧血といった貧血症状や循環器障害が起きるケースもあります。

さらに、慢性鼻炎や咽頭炎、気管支炎などの気道周囲の炎症に加えて、肺気腫を併発することがあります。

カドミウム中毒の検査・診断

カドミウム中毒の診断は症状の確認に加えて、尿検査や血液検査などをおこないます。呼吸器系の症状がある場合、必要に応じて胸部X線検査や呼吸機能検査、血液ガス分析検査を実施します。

尿検査では体内に蓄積されているカドミウム量を推測するために、尿中のカドミウム量を測定します。

また、血液検査によって血中カドミウム濃度を測定することも重要です。

カドミウム中毒では溶血性貧血や鉄欠乏性貧血を招く可能性もあるため、赤血球やヘモグロビンなど貧血に関する項目を調べることもあります。

息切れや呼吸困難などの呼吸器系に関わる症状がある場合は、胸部X線検査をおこないます。

尿検査を中心とする複数の検査結果と症状を総合的に評価し、カドミウム中毒の診断をおこないます。

カドミウム中毒の治療

カドミウム中毒のうち、経口摂取による急性症状の疑いが強い場合は、胃洗浄やキレート薬の投与による治療が有効とされています。EDTAなどのキレート薬には、重金属類の体外への排出を助ける働きがあります。

カドミウム中毒の慢性症状を発症している場合の治療は、対症療法が中心となります。治療と同時に汚染源を特定・除去し、それ以上のカドミウムの蓄積を阻止することが重要です。

腎機能障害に対しては症状に応じた投薬治療などをおこない、骨軟化症や骨粗鬆症に対しては、カルシウムやビタミンDなどを薬剤により補います。

また、貧血に対しては種類に応じた治療をします。鉄欠乏性貧血の場合は鉄剤の投与、溶血性貧血の場合は病型に合わせた投薬をします。

カドミウム中毒になりやすい人・予防の方法

カドミウムは金属メッキや合金材料、顔料、電池といった分野で今もなお重要な役割を担っています。しかし国内だけでなく世界的に安全管理に対する規制が進んでいるため、一般消費者が大規模なカドミウム汚染にさらされる可能性はあまり高くはありません。

それでも、日常的に環境汚染や食品安全に対する意識を持つことは、カドミウム中毒の予防に大切だと言えるでしょう。

なお、労働安全衛生規則等により、定期健康診断に加えて、カドミウムに対する特殊健康診断を受けることが義務付けられている職業もあります。

そうした労働環境にある人は、決められた健康診断はからなず受け、カドミウム中毒への注意を怠らないことが予防として重要です。


関連する病気

この記事の監修医師