

監修医師:
中里 泉(医師)
目次 -INDEX-
反屈位の概要
反屈位は、分娩の経過の中で胎児がとる姿勢の一つです。正常な分娩がどのように進行するかとあわせて解説します。
分娩の進行
胎児は通常、最小周囲径、つまり一番小さく通りやすい形で産道を通過し娩出されます。
正常分娩では、胎児は4段階の回旋を経て徐々に産道を降りてきます。
第一回旋
頸部がうなずくような屈位をとる
第二回旋
頭が母体の後ろ側を向くように回旋し、降りてくる
第三回旋
胎児の頭が反屈しながら母体から娩出する
第四回旋
回転して肩を出しながら横を向く
反屈位の定義
分娩の進行過程で、正常な回旋をとらない場合を回旋異常といいます。
回旋異常が起こると、分娩が進みにくくなり時間が長くなったり(遷延)、一定時間進行しなくなったり(停止)が起こります。
回旋異常の種類は以下のとおりです。
- 第一回旋の異常(反屈位)
- 第二回旋の異常(後方後頭位)
- 定位異常
- 進入異常
- 過剰回旋
高在縦定位
低在横低位
後頭頂骨進入
前頭頂骨進入
反屈位は、上記のとおり、第一回旋の異常で起こります。分娩第一期の第一回旋で、通常、胎児の頭が前屈し(うなずくような姿勢をとり)、頭が胸に近づきます。反対に胎児の頭が後ろに反り、後頭部が後ろに、あごが胸から離れる姿勢をとることがあります。これが反屈位です。
反屈位の種類
反屈位は程度の軽いものから以下に分類されます。
- 頭頂位(ごく軽度の反屈)
- 前頭位(軽度反屈)
- 額位(中等度反屈)
- 顔位(高度反屈)
頭頂位は最も軽度の反屈で、頭の前の方にある大泉門と後ろの方にある小泉門の間が一番出口に進んでいる状態で降りてきます。前頭位は、軽度の反屈で、大泉門が一番出口に近い状態で降りてきます。額位は、額から進んで降りていきます。顔位は、反屈の程度が極度に達し、顔面の、特に顎の先が先進します。
特に前頭位、額位、顔位は、通常より大きい断面で骨盤を通過しなければならず、子宮頸管が開き、頭が骨盤を通過するのに通常よりかなり時間がかかります。
反屈位の原因
回旋異常は児の原因、母体の原因、分娩の経過が原因で起こる可能性があります。
児の原因
児の原因として以下のようなものがあります。
- 巨大児(出生体重が4000g以上)、低体重児(出生体重が2500g未満)など児の大きさに関する要素
- 水頭症、無脳症など児頭の形態異常
- 胎児頸部腫瘍なそ頸部の形態異常
母体の原因
母体の原因として以下のようなものがあります。
- 低置胎盤、辺縁前置胎盤など胎盤の位置の要素
- 狭骨盤など骨盤の形と大きさ
- 子宮筋腫、骨盤内腫瘍など骨盤内のスペースの要素
- 多産婦など腹部の形
分娩経過の原因
分娩の経過の原因として以下のようなものがあります。
- 臍帯巻絡(へその緒が胎児のどこかに巻き付いている)
- 羊水過多症
- 母体の直腸または膀胱が充満している
- 陣痛の強さ
反屈位の前兆や初期症状について
反屈位はリスクを評価することはできても、分娩が始まる前に前兆をとらえたり診断したりすることが難しいです。
初期症状として、分娩が一定時間進まなかったり停滞したりする場合があります。また、通常より大きい面で骨盤を通過しようとするために母体の痛みが強かったり、通常と異なる箇所に痛みがでたりする場合があります。
また、分娩の進行に従って児心音の異常が出る場合もあります。
反屈位の検査・診断
反屈位の検査は内診や骨盤X線検査で行います。
骨盤X線検査は放射線被ばくもあるため、必要な場合のみ行います。
頭頂位の診断
頭頂位では内診で大泉門と小泉門を同じ高さで触れ、診断にいたります。
前頭位の診断
前頭位では内診で先進部分に大泉門を触れ、診断にいたります。
額位の診断
額位では.内診で先進部分に額を触れ、前頭縫合をたどって大泉門、その対側には鼻、周囲の目の周りの骨を触知すれば診断できます。
ただし、 診断は困難です。子宮口全開より前に診断できるのは約半数、残りの半数は胎児が生まれるまで診断されないというデータもあります。
顔位の診断
顔位は内診で鼻、口、眼窩、あごさきなどを触知し、診断できます。骨盤位分娩と鑑別が問題になる事があり、内診所見で診断に至らない場合超音波検査で先進部を確認する方法もあります。
骨盤レントゲン撮影が有用とする報告もあります。
反屈位の治療
反屈位の種類により、治療が異なるため、分類して解説します。
頭頂位の治療
分娩が進むと多くは通常の後頭位へと変わり、問題なく経腟分娩が可能です。しかし、中には前方前頭位となったり、低在横定位となり分娩が停止したりする可能性があります。
分娩停止となれば帝王切開で児を娩出する必要があります。
前頭位の治療
骨盤に対して通過する面が大きい状態、つまり児頭骨盤不均衡となりやすい病態です。胎児の頭が骨盤を通過するのに相当な時間を要し、母体の胎児の通り道を高度に傷つけたり、続発性微弱陣痛を引き起こしたり、分娩後の弛緩出血を起こしたりすることがあります。
また、胎児側も心拍異常をおこす危険性があります。
このように分娩にリスクがあるものの、経腟分娩を目指すことができます。上記の危険性が高まる場合、帝王切開の方針となります。
額位の治療
早期破水や臍帯脱出をおこしやすくなります。また微弱陣痛となることも多く、分娩遷延や頭の圧迫により胎児に危険が及ぶ場合があります。母体についても、分娩遷延がおこりやすく、産道を傷つけたり、子宮破裂のリスクがあり危険性が高くなることが多くなります。
児が小さい場合は経腟分娩も可能とされていますが、一般には額位の診断がつけば帝王切開を必要とする場合が多いです。
顔位の治療
分娩は遷延しやすく、微弱陣痛や早期破水をおこしやすくなります。
児に関しては、仮死や頭蓋内出血などを合併しやすくなります。
児のあご先が前に向いていれば経腟分娩が可能といわれますが、後ろにある場合には帝王切開になります。経腟分娩や鉗子分娩が可能な場合も少なくないため、適応を慎重に検討されるべきとされています。
①ただし、経腟分娩では分娩が遷延するため胎児機能不全のリスクが増加し、新生児死亡も増加するとの報告があります。したがって、患者側も母児のリスクを十分に理解する必要があり、安全性が考慮されたうえで分娩法が選択されます。
②一般的に、反屈位の自然分娩成功率は、頭頂位と前頭位で65%、額位で40%、顔位は80%程度と報告されています。ただし、児の死亡率は後頭位の3-5倍になるため、待機しすぎないように注意が必要です。
また、反屈位では通過面周囲が大きいため、ⅢーⅣ度の会陰裂傷(肛門括約筋や肛門、直腸粘膜まで裂傷が及ぶ)を生じることがあるため、経腟分娩を試みる場合が十分な会陰切開が必要です。
反屈位になりやすい人・予防の方法
反屈位の予防として特別にエビデンスが確立したものはありません。しかし、一般的に分娩が通常通り進行しにくい原因の一つに、肥満や妊娠中の過剰な体重増加があります。妊娠中からバランスの良い食事や食べ過ぎに十分注意し、体重管理が重要です。
また分娩中に四つん這いの姿勢をとることも効果的といわれています。重力の作用を利用し骨盤を高い位置にして骨盤内から胎児の頭を持ち上げ、回旋を促す方法です。陣痛促進剤を適切に使用し、微弱陣痛を是正する処置もとられることがあります。
関連する病気
- 神経疾患
- 関節の異常
- 筋肉・靭帯の異常
- 遺伝的疾患