4p欠失症候群
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

4p欠失症候群の概要

4p欠失症候群とは、特定の遺伝子が欠けていることで起こる病気であり、国の指定難病および小児慢性特定疾病に定められています。発見者の名前からウォルフ・ヒルシュホーン症候群とも呼ばれます。また、4pマイナス症候群、4pモノソミー、ピット・ロジャース・ダンクス症候群などと呼ばれることもありますが、これらはいずれも同じ病気のことを指します。

染色体はアルファベットのXのような形をしていますが、このXの形の中心部から見て短い方を短腕、長い方を長腕と呼び、それぞれ「p」「q」と称します。すなわち病名の「4p」とは「4番染色体の短腕」の部分を指し、この部分が欠損していることによって、特徴的な顔立ち、重度の精神発達の遅れ、成長障害、難治性のてんかん、運動機能の障害などの症状が現れます。4p欠失症候群のように、染色体の一部が欠損することで起こる病気を総称して「微小欠失症候群」と呼び、いずれも重度の先天異常や身体・精神の発達の遅れが現れることが知られています。

希少疾患であり、発症の確率は5万人に1人とされています。日本国内の患者数は1000人以下と推定されていますが、欠失の度合いが小さな患者さんは見逃されている可能性があり、厳密な4p欠失症候群の患者数はもっと多い可能性もあります。

4p欠失症候群の原因

4p欠失症候群は、4番染色体の短腕部分、特に4p16.3と呼ばれる部位が先天的に欠失していることで起こります。遺伝子の欠失により、本来あるべき機能が失われ、さまざまな症状が引き起こされると考えられています。この遺伝子の欠失の程度や症状は人によりさまざまです。

4番染色体が欠失する理由については、過半数が突然変異とされています。また、何らかの理由で親の遺伝子に「転座」が起きている場合、子の遺伝情報にエラーが生じ、4p欠失症候群の原因となることもあります。
なお、転座とは、異なる2本の染色体の一部が切断され、その断片同士が交換されている状態のことです。単に染色体の位置がシャッフルされただけで遺伝情報そのものに変異はないため、形態や性質に異常をきたすことはありません。この状態を「均衡型相互転座」と呼びます。この均衡型相互転座を持つ人が子をなした場合、その子に必要な遺伝情報が不足することがあります。この状態を「不均衡型相互転座」と呼び、4p欠失症候群の原因の一つと考えられています。

4p欠失症候群の前兆や初期症状について

4p欠失症候群の症状は胎児期から見られます。特徴的な症状に独特の顔立ちが挙げられます。具体的には、前方に突き出た額、平たくて広い鼻筋、左右の目の間隔が広い、上唇と鼻の間、人中と呼ばれる部位が短い、顎が小さい、などの特徴があります。

また、ほとんどの場合において成長や発達の遅れも見られます。体重がなかなか増えず、哺乳、食事の進みに問題が生じる傾向にあります。乳幼児期には筋肉の機能が弱い「筋緊張低下」を伴うことも多く、運動機能の発達の遅れにつながります。成長の遅れは精神発達においても見られ、程度は人それぞれですが、多くの場合でいわゆる知的障害が起こります。特に、言語能力の分野で発達が遅れる傾向があります。

その他、よく見られる症状として、脳の発達が不完全なことによる小頭症、てんかんの発作(難治性であることが多い)、低身長、難聴、眼瞼下垂、先天性心疾患、口唇裂、口蓋裂、頭蓋骨欠損、頭皮無形成、虹彩欠損、手指・足指の異常、側弯などの脊椎の異常、聴覚障害などが挙げられます。

以上、たくさんの症状を挙げましたが、特徴的な顔立ち、胎児期からの発育の遅延、筋緊張低下、精神運動発達遅滞、知的障害は、ほとんど全員に見られることが知られています。
4p欠失症候群の疑いがある場合、まずは小児科へ相談してください。また、患者さんが各種の症状に応じた治療を受けたい場合は、整形外科耳鼻咽喉科循環器内科など必要に応じた診療科を受診してください。

4p欠失症候群の検査・診断

4p欠失症候群の診断には基準があり、乳幼児期から以下の主要な症状3つすべてが認められ、染色体の検査で4番染色体の4p16.3の領域が欠失していることが確認された場合、4p欠失症候群と診断されます。

その主要な3つの症状は以下の通りです。

  • 精神発達の遅れ
  • てんかんによるけいれん発作
  • 鼻の特徴(前頭部から続く幅の広い鼻の形状。その形の特徴を指して「ギリシャ兵士のヘルメット様」と表現されます)

染色体検査では、ギムザ染色法、FISH法、マイクロアレイ染色体検査(CGH法)といった方法がとられます。

4p欠失症候群の治療

現在、4p欠失症候群そのものを根本的に治す治療法はありません。したがって、現れている症状に合わせ、それぞれ対症療法が行われます。

てんかんによるけいれん発作に対しての抗てんかん薬の処方、成長の遅れに対しての経管での栄養補給、さらに、起こりやすい症状に合わせて眼科・耳鼻科・循環器科・整形外科といった診療科において、経過を見ながら早期の検診、および症状に応じた適切な治療が行われます。この病気では多くの領域にわたり、さまざまな合併症が生じるため、複数の診療科が協力して治療にあたります。

先天性心疾患に対しては、必要に応じて手術が行われます。発達の遅れに関しては、それぞれ理学療法、作業療法、言語療法、摂食指導などの療育的な支援が行われます。予後に影響の大きい合併症である心疾患、難治性のてんかんが見られる場合は、日常生活においても発作への対応や運動の制限などの配慮が必要となります。

社会的支援としては、重症度にもよりますが、療育手帳、特別児童扶養手当の取得、また、心疾患や運動発達の遅れの程度が重い場合は身体障害者手帳を取得できる場合もあります。

4p欠失症候群になりやすい人・予防の方法

希少な疾患であり、その有病率はおよそ5万人に1人の割合とされています。男女比では1:2で女性の方が多いとされていますが、その理由は現在のところわかっていません。4p欠失症候群は多くの場合で遺伝子の突然変異による発症ですので、事前に予防するのは難しいと考えられます。また、上述の有病率も考慮すると、頻度が非常に少なく、この病気になりやすい人や状態に関しては、はっきりとしたことはわかっていません。

ただし、親の遺伝子に転座が生じている、いわゆる転座保因者である場合は、生まれてくる子が4p欠失症候群を含む微小欠失症候群を持つ可能性が、そうでない場合と比べて高いと言えるかもしれません。したがって、家系に転座保因者がいる場合や、何か気になることがある場合は、ご家族間で話し合い、出生前診断を受けることを検討してみても良いかもしれません。その際は産婦人科医へ相談してください。


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